不倫されても慰謝料請求できないケースとは?状況別の解説と獲得方法
夫(妻)の不倫が発覚した場合、夫(妻)や不倫相手に慰謝料を請求したいと考える方が多いでしょう。しかし、夫(妻)が不倫をしていたとしても慰謝料を請求できない場合があります。また、理論的には請求できるとしても、「お金がないから払えない」と言われることもあります。
そこで今回は、慰謝料請求ができないケースはどのような場合かを状況別に解説し、お金がないと言われた場合の対処法を紹介します。
不倫慰謝料請求の法的根拠とは
まず、夫(妻)が不倫をした場合にどうして慰謝料を請求することができるかを考えてみましょう。それは、不倫が「不法行為」に当たるからです。
不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害することを言います。不法行為をした者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います。ここでいう損害には財産以外の損害、精神的苦痛なども含まれます。精神的苦痛に対する損害賠償が、いわゆる「慰謝料」です。
不倫は、「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」を侵害する行為といえるので、不法行為に該当し、損害賠償(慰謝料)を請求することができるのです。
不倫慰謝料を誰にも請求できないケース
(1)婚姻関係が破綻した後に不倫した場合
何らかの原因で婚姻関係が破綻した後に不倫した場合、不倫をした時点ではすでに「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」は認められません。したがって、このような場合には、特段の事情がない限り、不法行為責任は負わないとされています(最判平8・3・26民集50・4・993
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55876)。
(2)時効期間が経過してしまった場合
不法行為に基づく損害賠償請求には、消滅時効があります。具体的には、損害および加害者を知ったときから3年が経過することで、損害賠償請求権は時効によって消滅します。したがって、夫(妻)の不倫を知り、不倫相手を特定できてから3年が経過すると、慰謝料を請求できなくなってしまうのです。
(3)不貞行為を働いた証拠がない場合
加害者が不倫を認めない場合、被害者は不貞行為の証拠を集めなければなりません。
裁判外交渉で解決できない場合、裁判で裁判官に不倫の事実を認めてもらう必要があるからです。
そもそも不貞行為とは、既婚者が配偶者以外の異性と性交類似行為や挿入行為をすることです。
直接不貞行為を確認できるもの以外でも、推認できるものが証拠として認められるケースもあります。
万が一、裁判に発展した場合、不貞行為の証拠がなければ慰謝料の請求は認められないので注意しましょう。
ただし、不貞行為の証拠がない場合でも、夫婦の共同生活に影響を与える行為が確認できれば、慰謝料請求が認められるケースがあります。
ですので、夫婦の共同生活に影響を与える行為が確認できる証拠も、集めておきましょう。
配偶者または不倫相手に慰謝料を請求できないケース
(1)配偶者または不倫相手から相当額の賠償を受けている場合
不倫は、基本的に夫(妻)と不倫相手が共同で「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」を侵害したものといえます。
このように、複数の者が一緒に不法行為をすることを、共同不法行為といいます。共同不法行為をした者は、連帯して損害を賠償する責任を負います。連帯責任を負うとは、被害者からみれば、加害者の誰に対しても損害の全額を請求できるが、加害者の誰かから全額の賠償を受ければ、他の加害者に請求することはできないということです。
したがって、配偶者または不倫相手からすでに相当額の慰謝料を受け取っている場合、不倫相手または配偶者に対してさらに請求することはできないのです。
(2)不倫相手に故意・過失が認められない場合
不倫相手に慰謝料を請求するには、不倫相手も不法行為の要件を満たす必要があります。しかし、たとえば夫(妻)が出会い系サイトで不倫相手と知り合った場合など、不倫相手が、夫(妻)が既婚者であることを知らず、既婚者であったと気付かなかったことに落ち度が認められないこともありえます。
このように、不倫相手に「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」を侵害することについて故意も過失も認められない場合、不法行為の要件を満たさないので、慰謝料を請求することはできません。
(3)自己破産した場合
慰謝料を請求したところ、相手が払えないと言って自己破産をしてしまう可能性があります。自己破産をして、債務の支払いを免除する裁判所の決定(免責決定)を得ると、一部の例外を除いて債務を支払う必要はなくなります。
例外というのは、自己破産をしても責任が免除されない債権(非免責債権)もあるということです。不法行為に基づく損害賠償請求に関しては、
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
は非免責債権とされています。
不倫慰謝料が後者に当たらないことは明らかです(これに対し、DVによる慰謝料請求などは、後者に当たる可能性があります)。また、前者については、故意や過失ではなく、わざわざ「悪意」とされていることから、ここでいう「悪意」とは、害意(積極的な加害意思)と意味すると言われています。
不倫の場合、配偶者に積極的に害を加える意思までは認められないのが通常ですので、前者にも当たらないということになります。したがって、夫(妻)や不倫相手が自己破産した場合、自己破産した者には慰謝料を請求することができなくなります。
お金がないので慰謝料を払えないと言われた場合の対処法
(1)法的手続をとる
任意での支払いは期待できないので、裁判などの法的手続をとる必要があります。裁判をして、慰謝料の支払いを命じる判決を獲得したり、訴訟上の和解をしたりした場合、それでも相手が支払いをしないときは、給与や預金口座の差し押さえなどの「強制執行」をすることで、強制的に支払わせることができます。
(2)相手方の財産を調査する方法
ただし、強制執行といっても、裁判所が相手の財産を探してくれるわけではありません。強制執行をするには、自分で相手の財産を特定する必要があるのです。しかし、夫(妻)ならまだしも、不倫相手にどんな財産があるのかなどわからないことが多いでしょう。
そのような場合の対処法としてまず考えられるのが、裁判所の財産開示手続を利用することです。裁判所の財産開示手続とは、債務者が決められた期日に裁判所に出頭し、嘘を言わないことを宣誓した上でその保有する財産を開示する手続のことです。債務者が、出頭拒否、宣誓拒否、開示拒否、虚偽開示をしたときは、30万円以下の過料というペナルティが課されることがあります。
この財産開示手続を利用することで、債務者の財産が判明することもあります。ただし、債権者が虚偽開示を見抜くことは難しく、ペナルティもそれほど重くないので、財産開示をしてもうまくいくとは限りません。次に考えられるのが、弁護士に依頼をして弁護士会から金融機関に照会するという方法です。これを弁護士会照会といいます(弁護士法23条の2に基づくので、23条照会ともいいます)。
弁護士会照会は、弁護士が職務を行うにあたり、所属弁護士会に対し、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求める制度です。金融機関によって対応は異なりますが、確定判決や裁判上の和解調書があるときは、弁護士会照会をすることで債務者名義の口座の有無等を回答してくれることがあります。債務者名義の口座が判明すれば、その口座の差し押さえにとりかかることができます。
不倫慰謝料を請求できないかどうかは弁護士に相談
不貞行為の証拠を集めても、ご自身で慰謝料を請求できるか不安な方がいるでしょう。
証拠の証明能力が不明だったり、加害者側が弁護士を立ててくるなどのケースがあります。
加害者からより確実に慰謝料を獲得したい方は、弁護士に相談してみましょう。
不貞行為の証拠について相談できますし、ご自身の代わりに加害者と示談交渉を行ってくれたりします。
弁護士に相談して不倫慰謝料を請求する手順は、以下のとおりです。
不貞行為の証拠を集める
↓
弁護士事務所を探す
↓
弁護士に相談する
↓
弁護士に示談交渉を代行してもらう
↓
示談交渉もしくは裁判で慰謝料の金額が決定する
↓
加害者側から慰謝料を支払ってもらう
より確実に加害者から不倫慰謝料を獲得したい方は、不貞行為の証拠を集める段階から相談してみましょう。
裁判で裁判官から不倫の事実を認めてもらいやすい証拠について、アドバイスがもらえます。
弁護士に相談して、より確実に不倫慰謝料を獲得してみましょう。
まとめ
不倫慰謝料を請求できないケースやお金がないので払えないと言われた場合の対処法を開設しましたが、参考になったでしょうか。慰謝料を請求できるか判断が難しいケースもあるでしょうし、弁護士会照会など、弁護士に依頼しなければできないこともありますので、不倫慰謝料についてお悩みの方は、まずは弁護士の法律相談を受けるといいでしょう。