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「夫婦(婚姻)関係の破綻」とはどのような状態?法的な定義について

離婚をしたくても配偶者が応じてくれない場合、家庭裁判所の調停、裁判(訴訟)という手続を利用します。家庭裁判所の裁判では、離婚を認める理由があるかどうかが審査されますが、そこで重要になるのが、夫婦(婚姻)関係が破綻しているかどうかです。ただ、「婚姻関係の破綻」と言われても抽象的でよくわからないという方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、婚姻関係の破綻について、その定義や具体例、認めてもらうためのポイント、相談先などを網羅的に解説します。

婚姻関係破綻とは

(1)法定離婚事由とは

民法は、次の5つのいずれかに該当する場合、離婚の裁判を起こすことができると定めています。

  1. 配偶者に不貞な行為があったとき
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

これらの5つを「法定離婚事由」といい、これらのいずれかに該当することが認められた場合、裁判所は、夫婦の一方が離婚を拒んでいたとしても、離婚をさせることができるのです。

(2)婚姻を継続し難い重大な事由とは

「5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは、一般的に何らかの事情によって婚姻関係が破綻していることを指すと言われています。したがって、婚姻関係が破綻していると認められれば、配偶者が離婚を拒んでいたとしても、裁判で離婚をすることができます。そのため、婚姻関係が破綻しているかどうかが重要なのです。

婚姻関係破綻の具体例

それは、どのような事情があれば婚姻関係が破綻していると認められるのでしょうか。過去の裁判例を参考にすると、おおむね次のように整理することができます。

(1)長期間の別居

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとされています。そのため、単身赴任や介護などの正当な理由もないのに長期間別居すると、すでに婚姻関係が破綻したと認められやすくなります。
平成8年に法制審議会が出した「民法の一部を改正する法律案要綱」の中では、「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」を離婚事由に追加されていました。
結局、この民法改正は現在も行われていませんので、何年以上別居すれば離婚が認められるのか明確な基準はありませんが、裁判所の実務上は、この5年が一つの目安にはなります。

ただし、あくまで目安であり、5年以上別居しても婚姻関係破綻が認められないこともあれば、5年未満でも婚姻関係破綻が認められることがあります。たとえば、次の判例は、別居1年半で婚姻関係破綻を認めています。

大阪高判平21・5・26家裁月報62・4・85

齢80歳に達した控訴人が病気がちとなり、かつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるごとく始まった控訴人を軽んじる行為、長年仏壇に祀っていた先妻の位牌を取り除いて親戚に送り付け、控訴人の青春時代からのかけがえない想い出の品を焼却処分するなどという自制の薄れた行為は、当てつけというには、余りにも控訴人の人生に対する配慮を欠いた行為であって、これら一連の行動が、控訴人の人生でも大きな屈辱的出来事として、その心情を深く傷つけるものであったことは疑う余地がない。

しかるに、被控訴人はいまなお、これらの斟酌のない専断について、自己の正当な所以を縷々述べて憚らないが、その理由とするところは到底常識にかなわぬ一方的な強弁にすぎず、原審における供述を通じて、控訴人が受けた精神的打撃を理解しようという姿勢に欠け、今後、控訴人との関係の修復ひとつにしても真摯に語ろうともしないことからすれば、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、控訴人が婚姻関係を継続していくための基盤である被控訴人に対する信頼関係を回復できない程度に失わしめ、修復困難な状態に至っていると言わざる得ない

(2)虐待、侮辱、暴力(モラハラ、DV)

配偶者による精神的な虐待、侮辱、身体に対する暴力(モラハラやDV)は、婚姻関係が破綻したと認められる典型的な例です。ただし、婚姻関係が破綻したといえるかは、モラハラやDVを受けた期間、回数、内容の悪質性などを総合的に考慮して判断されます。たとえば、1度だけ軽く平手で叩いた程度では、婚姻関係が破綻したとはいえないでしょう。
婚姻関係破綻を認めた判例としては、次のようなものがあります。

神戸地判平13・11・5

原告(妻)と被告(夫)との婚姻関係は、当初から被告の原告に対する強権的支配の下で、原告が被告に服従を強いられ、原告は忍耐を重ねていたが、そうした中でうつ病になり、その後、カトリック教会に通うようになって自己主張を始めると、被告から肉体的暴力を受けるようになり、被告が原告と母親仲間との関係を疑ったことから、暴力がエスカレートし、ついには二女にまで暴行に及ぶようになり、原告は子らとともに家を出て別居するに至り、婚姻関係は修復困難なまでに破綻したものということができ、その責任は被告にあり、重大であって、婚姻を継続し難い重大な事由があるものというほかない。
参考:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=7331

(3)不就労、浪費、借財

健康上の問題がないのに働かない、浪費癖がある、多額の借金をするなどの経済的な事情からも、婚姻関係の破綻が認められることがあります。
たとえば、つぎのような判例があります。

東京家審昭41・4・26判タ209・268
本件相手方(妻)の浪費等の度重なる非違行為(昭和35年ころから昭和40年4月ころまで毎月1万円ないし2万円を競馬に費消したこと、昭和37年ころから申立人に無断で、申立人から受領する給料で不必要な衣類、時計、貴金属類を月賦販売会社から購入し、その月賦代金の支払が終わらないうちにこれらの物品を入質して現金を借用してその現金を浪費するようになったこと、申立人が昭和39年3月、長女の中学入学に要する費用金13万円を相手方に手交したところ、相手方はこの金員を他の使途に費消してしまったことなど)は婚姻を継続し難い重大な事由に該当するものと認められるから、本件については(中略)申立人と相手方とを離婚させることが相当である

(4)犯罪行為

配偶者が犯罪行為をした場合、犯罪の内容(重大な犯罪か)、刑事処分の結果(服役することになるのか)、犯罪行為を繰り返していないかなどの事情によっては、婚姻関係が破綻していると認められる場合があります。
一般的には、刑務所に収監されることになった場合は、婚姻関係が破綻したと認められやすいでしょう。たとえば、次のような判例があります。

新潟地判昭42・8・30判時519・84

被告は夫として一家の生計の支えとなるべき立場にありながら、また、長女出生という人生の転機を迎えながら、家族の窮状を知りつつ、いたずらに妻及びその実家などに負担を強いるのみで、勤労意欲なく、無計画で怠惰な生活態度を変えようとせず、その上犯罪をおかして四度目の服役することとなり、残された被告の父の養母、妻及び長女の三人は分散して生活せざるを得ない結果となったものであるから、これらの諸般の事情は民法第770条第1項第5号にいう婚姻を継続し難い重大な事由がある場合に該当するものというべきである。

(5)過度の宗教活動

憲法で信教の自由(宗教の自由)が保証されているとはいえ、宗教活動にのめりこんで家庭や仕事をかえりみないといった事情があれば、婚姻関係が破綻していると認められる可能性があります。
たとえば、次のような判例があります。

東京高平2・4・25判時1351・61

信仰の自由は、個人の基本的人権に属する問題であり、夫婦といえどもこれを侵害することは許されない。しかし、夫婦の間では、互いに相手の考え方や立場を尊重して、自己の行為の節度を守り、相協力して、家族間の精神的融和をはかり、夫婦関係を円満に保つように努力をすべき義務があるのであり、夫婦の一方が自己の信仰の自由のみを強調し、その信仰に基づく宗教活動に専念して、相手の生活や気持ちを全く無視するような態度をとった結果、夫婦関係が悪化し、婚姻関係を継続しがたい状態に立ち至った場合には、その者にも婚姻関係破綻の責任があるとされてもやむを得ないものといわなければならない。

(6)親族との不和

嫁姑問題をはじめとして、配偶者の親族との不和を原因に離婚を考える方は少なくありません。しかし、離婚は配偶者との間の問題ですから、親族との不和は直ちに婚姻関係の破綻とは認められませんただし、配偶者の親族との不和を配偶者に相談したにもかかわらず、配偶者が適切な対応をしてくれなかったことなどを原因に、配偶者との関係も悪化したような場合には、婚姻関係が破綻したと認められる可能性があります。
たとえば、次のような裁判例があります。

名古屋地岡崎支判昭43・1・29判時515・74

原告と被告の婚姻関係が円満を欠くに至ったのは、原告と被告両親との間の不和が原因であって、原告と同被告間にその端緒があるわけではないのであるが、家庭内の不和葛藤がその頂点に達した今日、原告においていかに努力しようと、夫である被告一郎が従前の無関心な態度を改め、積極的に家庭内の円満を取り戻すよう努力を払わない限り、婚姻関係の平和を取り戻し、これを維持することは困難である。しかるに、同被告にはかかる誠意ある態度は全く認められないばかりでなく、現在においては前述のように原告との婚姻関係を維持する意思すらもないことが明らかであるから、これらの事情を綜合すると、原告には婚姻関係を継続し難い重大な事由があるものというべきである。

(7)性格の不一致

性格の不一致で離婚を考える人は大勢いらっしゃいます。しかし、夫婦とはいえ別人格ですから、性格が完全に一致するはずはなく、単なる性格の不一致では婚姻関係が破綻したとはなかなか認められません。性格の不一致を発端に、夫婦関係が修復できないほど悪化した場合には、婚姻関係破綻と認められる可能性があります。
たとえば、次のような裁判例があります。

東京地判昭59・10・17判時1154・107

原被告間の同居期間は合計3年間弱であるのに対し、別居後すでに5年間余に及び、同居期間中も口論が絶えなかったうえ、別居後も右のような状況に改善のきざしは認められず、しかも原告の離婚の意思が固いことからすると、原被告間の婚姻は破綻し、回復の見込がないものと認められる。確かに口論の原因は、通常の夫婦であれば、歩み寄り、諦めるなどして婚姻を継続することができるような些細な事柄にすぎない。しかし、これを原因に口論に至り、かつ争いを激化させる原因となっている原被告の前記認定の性格、言動が、容易に変化する見込のない以上、双方の妥協し難い性格の相違から生ずる婚姻生活の継続的不和による破綻は婚姻を継続し難い重大な事由に該当するというべきである。

婚姻関係破綻を認めてもらうためのポイント

婚姻関係破綻は主に、「離婚裁判」(裁判所の判決によって成立する離婚)を念頭に置いています。言い換えれば、夫婦の一方は離婚を望んでいるが、他方はそうではない場合ということです(双方が離婚を希望していれば基本的に「協議離婚」(当事者の話し合いによって成立する離婚)で解決できます)。離婚を望んでいない方は、婚姻関係が破綻していないと思っているからこそ離婚を望まないわけです。

そうなると、婚姻関係が破綻しているかどうかは、夫婦双方の内心では決められませんので、客観的に見て婚姻関係を修復することが著しく困難であるかによって判断されることになります。そのような判断をするためには、「婚姻関係破綻の具体例」に記載したような婚姻関係破綻と認められる事情があることの証拠が必要になります。ですから、前もって証拠を集め、保存しておくことが重要です。

どのような証拠が必要、あるいは有益であるかは、婚姻関係を破綻させた事情によります。DVであれば医師の診断書や負傷部位の写真、モラハラの場合には録音データやメール等のやり取りなどが直接的な証拠になります。経済的な事情については、預貯金通帳やクレジットカードの明細、借用書、消費者金融やカード会社からの督促状などが考えられます。

婚姻関係が破綻している場合の婚姻費用

(1)婚姻費用とは

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担するとされています。この婚姻から生ずる費用を婚姻費用と言い、夫婦は婚姻費用を分担する義務を負っているのです。このことは、夫婦が同居している場合だけでなく、別居している場合にもあてはまります。夫が専業主婦の妻と子を残して単身赴任をしているようなケースを念頭に置けば、当然のことと思われます。

(2)婚姻費用の分担義務が軽減されるか

しかし、婚姻関係が破綻したことから別居に至った場合にまで婚姻費用の分担義務を負うでしょうか?学説の中には、婚姻関係が破綻した場合には婚姻費用分担義務が軽減されると考えるものもあります。また、古い裁判例の中にも、次のように婚姻費用分担の軽減を認めたものがあります。

東京家審昭47・9・14(家庭裁判月報25・11・98)

一般に夫婦間の婚姻費用分担の程度は、いわゆる生活保持義務であって、自己と同程度の生活を家族にさせる義務があるといわれているが、婚姻が破綻状態になり、当事者双方に円満な夫婦の協同関係の回復への期待と努力が欠如している場合には、その分担額もある程度軽減されると解される。(中略)婚姻費用分担義務は本来婚姻継続のための夫婦の協力扶助義務と共通の基盤に立つものであるから、その原因の如何にかかわらず、夫婦間にこのような基本的協同関係を欠くに至り将来回復の見込もないときは、夫婦の協同関係の稀薄化に伴ないある程度分担責任も影響を受けることはやむを得ない

しかし、「婚姻費用分担義務は、婚姻という法律関係から生じるもので、夫婦の円満な関係、協力関係の存在という事実状態から生じるものではな」く、「婚姻関係が破綻しているから、あるいは円満な関係がないからといって夫婦の扶助義務が消滅するわけではない」と考えられます。
松本哲泓「婚姻費用・養育費の算定-裁判官の視点にみる算定の実務-」⦅新日本法規出版株式会社、2017年⦆20頁)。引用

現在の裁判所の実務上は、一般的には婚姻関係が破綻したとしても婚姻費用分担義務が軽減されることはありません。

(3)有責配偶者からの婚姻費用分担請求が認められるか

原則として婚姻関係の破綻が婚姻費用分担義務を軽減させることはないとしても、「有責配偶者」からの「婚姻費用分担請求」が認められるかという問題があります。

有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させた原因を作った配偶者のことです。不倫(不貞行為)をした配偶者が、有責配偶者の典型例です。ですから、有責配偶者からの婚姻費用分担請求とは、例えば、不倫をして家を出て不倫相手と同居を始めた配偶者が婚姻費用を請求するような場合を想定してください。このような場合にまで婚姻費用を分担しなければならないとするのはおかしいと感じる方も多いのではないでしょうか。

裁判所の実務上も、別居ないし婚姻関係の破綻について専らまたは主として責任のある配偶者が婚姻費用の分担を請求するのは、「信義則」(信義誠実の原則。権利の行使と義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならないこと)違反となり、婚姻費用分担の義務は消滅するか軽減されるとするのが一般的です。例えば、次のような裁判例があります。

大阪高決平28・3・17(判例時報2321・36、判例タイムズ1433・126)

夫婦は、互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は、夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが、別居ないし破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地からして、子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である。

この事例は、未成年の子3人を連れ、夫と別居した妻が、夫に対して婚姻費用の分担を請求したのに対し、上記のような判断を示し、子の養育費相当額だけを認めたものです。

婚姻関係が破綻している場合の相談先

「婚姻関係破綻を認めてもらうためのポイント」で記載したとおり、婚姻関係破綻を認めてもらうには、何よりも証拠が必要になります。しかし、どのような事情が離婚理由になるのか、その事情を認めてもらうにはどのような証拠が必要か、どうすればそのような証拠を入手できるかといったことは、離婚裁判についての知識と経験がなければわからないでしょう。

したがって、婚姻関係が破綻しているのではないかと考えたときは、裁判の専門家である弁護士に相談をすべきといえます。弁護士に相談というと、弁護士費用が心配だという方もいらっしゃるでしょう。しかし、最近では初回の法律相談無料という法律事務所もありますので、費用を気にせずに弁護士による法律相談を受けることは可能です。弁護士に心当たりがないという方は、このサイトでも離婚問題に詳しい法律事務所を掲載しているので、参考にしてください。

まとめ

今回は、婚姻関係破綻について解説しました。婚姻関係が破綻しているかの判断は簡単ではありませんので、「婚姻関係破綻の具体例」に記載したような事情があり、離婚について悩んでいるという方がいらっしゃいましたら、離婚問題に詳しい弁護士への相談をお勧めします。

不倫慰謝料請求に強い弁護士

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