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悪意の遺棄とは?悪意の遺棄と認められた判例と慰謝料請求方法を解説

世間では別居している夫婦は珍しくありません。一口に別居といっても、単身赴任など夫婦関係自体は円満である場合もあれば、配偶者が不倫をして家を出てしまったような場合もあります。

後者が代表例ですが、一定の場合には別居が「悪意の遺棄」にあたり、離婚などさまざまな請求をすることが可能になります。もっとも、「悪意の遺棄」と言われても、どのようなものをさすのかイメージしにくいのではないかと思います。

そこで今回は、悪意の遺棄とはどのようなものをいうのか、悪意の遺棄をされた場合にどう対処すればいいのか、悪意の遺棄を辞めさせる方法があるのかなどについて、解説します。

悪意の遺棄とは

悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦の同居・協力義務を履行しないことをいいます。夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとされています(民法752条)。悪意の遺棄は、正当な理由がないのにこの義務を果たさないことをいうのです。

正当な理由があるかどうかは、別居した経緯、別居中の相手方の生活状況、生活費の送金の有無など、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。たとえば夫婦で話し合ったうえで、転勤や親の介護のために一時的に別居するような場合は、悪意の遺棄にはあたらないでしょう。

最高裁も、妻が夫の意思に反して妻の兄らを同居させ、兄のためにひそかに夫の財産から多額の支出をしたことが原因となって、夫が同居を拒み、扶助義務を履行しなくなった事案について、妻が婚姻関係の破綻について主たる責任を負い、夫からの扶助を受けないようになったのも自ら招いたものである場合においては、夫が妻と同居を拒みこれを扶助しないとしても悪意の遺棄に当らないとして、別居の経緯などからして正当な理由があれば悪意の遺棄に当たらないことを明らかにしました。

参考:最判昭39・9・17民集18巻7号1461頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53876

悪意の遺棄をされた場合の対処法

(1)離婚請求

配偶者に悪意の遺棄をされた場合、離婚を請求することができます。悪意の遺棄は、「法定離婚事由」の一つにあたるからです。法定離婚事由とは、離婚の協議ができないときに、裁判所に訴えを起こして離婚を認めてもらうことができる理由をいいます。民法は、以下の5つを法定離婚事由として定めています(民法770条1項1~5号)。

  • 配偶者に不貞な行為があったとき
  • 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  • 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  • 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

したがって、仮に悪意の遺棄をした配偶者が離婚に応じない場合であっても、離婚の訴えを起こして離婚を請求することができるのです。

(2)慰謝料請求

また、悪意の遺棄をされた方は、悪意の遺棄をした配偶者に対し、慰謝料を請求することもできます。悪意の遺棄は、民法で定める不法行為にあたり、不法行為の被害者は、財産的損害以外に精神的な苦痛に対しても賠償を請求することができるとされているからです。

民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

引用:http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1#2576

民法710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

引用:http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1#2579

慰謝料の目安としては、50万円~300万円程度と考えられます。一口に悪意の遺棄と言っても、遺棄をされた期間の長さ、その間の遺棄をされた側の生活状況などが事案ごとに違います。また、悪意の遺棄は不貞行為と合わせて主張されることがあり(不倫をして配偶者と別居して不倫相手と一緒に生活する場合など)、そのような場合にはより高額の慰謝料が認めら安い傾向があります。そのため、相場と言ってもこのような大きな幅のある金額になってしまうのです。

悪意の遺棄についての裁判例

(1)悪意の遺棄が認められた事例

①神戸地昭26・2・15(下級裁判所民事裁判例集2巻2号202頁)

夫が、妻を家に入れず、弟方の電灯も畳もない部屋に約2年にわたり居住させ、その間、妻が夫らのために田畑の耕作山仕事に専念していたにもかかわらず、主食類を支給するのみで妻としての地位にふさわしくない状況においたため、妻が夫との婚姻継続に望みを絶って実家に戻った事案で、夫はなんら正当な理由なく妻を同居させなかったのであり、悪意の遺棄にあたるとした。

②浦和地判昭60・11・29(判例タイムズ615号96頁)

夫が、半身不随の身体障害者で日常生活もままならない妻を、そのような不自由な生活、境遇にあることを知りながら自宅に置き去りにし、正当な理由もないまま家を飛び出して長期間別居を続け、その間妻に生活費を全く送金していない事案について、夫の前記行為は民法770条1項2号の「配偶者を悪意で遺棄したとき。」に該当するとした。

③東京地判平28・3・31

夫は妻と同居していたアパートを出て妻と別居しているが、夫は不倫相手との交際を主たる目的として、妻が夫との関係修復を望む態度を示していたにもかかわらず、一方的に別居に踏み切ったものというべきであり、また、その後は生活費の負担等、夫婦間の協力義務を果たすこともなかったものと認められることからすれば、妻と夫が共に就業しており、別居によって妻が直ちに経済的に困窮したとの事情が窺われないことを考慮しても、夫による別居は、悪意の遺棄として、妻に対する不法行為に該当するというべきである。

(2)悪意の遺棄と認められなかった事例

①東京地判平7・12・26(判例タイムズ922号276頁)

妻(イタリア人)が、子ども(生後4ヶ月の双子)を連れてイタリアに帰国した事案について、妻にとっては、経済的及び精神的に夫から支援が得られるか不明であり(夫は医師国家試験に不合格となり収入がなかった)、異国で家庭生活を営むことに伴う困難を互いの協力で乗り越えて行くだけの信頼感あるいは愛情の深さを夫に対して実感できなかったが、その原因は互いの協力のレベルが深く強くなかったということにあり、その責任を少なくとも妻だけに帰せしめ、あるいは妻の身勝手ということは酷であり、夫にもなお至らない点もあったということができるとして、妻に悪意の遺棄があったというわけにはいかないとした。

②東京地判平成16・9・29

別居は、妻と夫との子どもの育て方についての口論をきっかけになされたものであり、夫は、別居後、途中で中断期間(4ヶ月)があるにせよ、毎月婚姻費用として13万円を妻に送金していたことなどに照らせば、夫の行為が悪意の遺棄に該当するものとまでは認められない

悪意の遺棄をやめさせるには

(1)当事者間の協議

まずは当事者で話し合いをすることが基本です。話し合いの過程で、配偶者が悪意の遺棄に至った原因を解明したり、その原因を解消したりすることができれば、別居を解消し、ふたたび一緒に生活できるようになる場合もあります。

(2)同居を求める調停

当事者間の協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に同居を求める調停を申し立てることができます。家庭裁判所の調停委員が間に入って話し合いをするので、当事者だけで協議するのに比べ、冷静に話し合いができます。しかし、調停はあくまで話し合いですので、合意ができなければいずれ打ち切りになってしまいます。

(3)同居を求める審判

同居を求める調停で合意ができなかった場合、家庭裁判所に対して同居を求める審判を申し立てることができます。審判は、当事者の合意ができなくても、裁判所が一定の命令を下すというものです。

これまで解説したとおり、夫婦には同居義務があります。そうすると、審判では裁判所は同居を命じなければならないようにも思えます。しかし、現在の裁判所の運用は、婚姻期間や別居期間の長さ、相手方が同居に応じる余地があるかなど一切の事情を考慮して、事案ごとに同居を命じるかどうかを判断しているようです。したがって、同居の審判を申し立てても常に同居を命じられるとは限りません。

なお、同居を命じる審判が下されたとしても、配偶者が審判に従わず、別居を続けることが考えられます。このような場合に、同居を強制することができるでしょうか。裁判所の命令を実現する手段としては、「直接強制」と「関節強制」があります。

直接強制とは、裁判所の命令を直接的に実現させることをいいます。たとえば、裁判所が一定額のお金の支払いを命じた場合、相手方がこれに従わないときは、相手方の財産を差し押さえてお金に換え、そこから弁済を受けることができます。しかし、同居については金銭の支払いと同様に考えることはできません。同居を直接強制しようとすると、配偶者の身体を拘束して無理やり同居させることになりますが、人身の自由を著しく侵害するものであり、現代の日本では許されません。

つぎに、間接強制とは、「○○するまで1日×円支払え」というように、裁判所の命令した義務を履行するまで金銭の支払いを命じることで、間接的に義務の履行を強制するというものです。この間接強制なら同居の審判でも可能ではないかとも考えられます。しかし、古い裁判例ですが、間接強制も許されないとしたものがあります(大決昭5・9・30民集9・926)。このようにみると、同居を命じる審判は、直接強制も間接強制もできず、強制的に実現させる手段はないということになります。

(4)その他の間接的な手段

その他の間接的な手段としては、たとえば配偶者が家を出て不倫相手と一緒に生活しているような場合、不倫相手に慰謝料請求をすることで、不倫相手から不倫関係を解消させるようにするということが考えられます。

まとめ

悪意の遺棄について解説しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。悪意の遺棄に当たるかは事案ごとに判断されますし、悪意の遺棄に当たる場合も事案によって慰謝料の額が大きく変わりますので、悪意の遺棄についてお悩みの方は、離婚問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。

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