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年金分割とは何か?合意分割との違いとできるだけ多く獲得する方法

平成19年に厚生年金法が改正され、年金分割の制度が設けられました。それから10年以上が経過し、年金分割という制度の存在自体は広く知られるようになりました。しかし、言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのような制度なのかはあまり知られていません。単純にもらえる年金を折半するものだと誤解されている方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、年金分割の制度や手続の方法などについて解説します。

年金分割とは

(1)年金は3階建て

日本における年金は「3階建て」と言われています。

1階部分は国民年金で、20~60歳までの全ての人が加入するものです。2階部分は会社員や公務員が加入する厚生年金です。公務員については、以前は共済年金という制度がありましたが、平成27年に厚生年金に一元化されました。厚生年金は、政府が管掌するもので、一定の条件を満たした場合に加入が義務付けられます。
そのため、国民年金と合わせて公的年金ということもあります。これに対して、3階部分は個人または企業単位で加入する私的年金で、企業年金や、一元化前の公務員の職域加算などがこれにあたります。このように、日本の年金は、職業に応じた3層構造になっているのです。

(2)年金分割の対象

「3階建て」の年金のうち、年金分割の対象となるのは主に2階部分の厚生年金保険です。ただし、3階部分でも公務員の職域加算は年金分割の対象とされています。ここで注意が必要なのは、「年金分割」と言っても、将来給付される年金そのものを分けるわけではないということです。

分割するのは、婚姻期間中の厚生年金保険の「納付記録標準報酬)」です。わかりやすく言えば、その期間に配偶者が納付した厚生年金保険料の一部を、自分(分割してもらう方)が納めたことにするというものです。自分が厚生年金保険料を納めたことになる結果、将来もらえる年金が増えるのです。

年金分割の種類

年金分割には、3号分割と合意分割の2種類があります。

(1)3号分割

①3号分割とは

3号分割は、国民年金の3号被保険者期間の相手方の厚生年金保険の標準報酬を2分の1ずつ分割する制度です。国民年金の被保険者(加入している人)は、次の3つに分類されます(国民年金法7条1項)。

  • 1号被保険者:日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者で、2号、3号のいずれにも該当しない者
  • 2号被保険者:厚生年金保険の被保険者
  • 3号被保険者:2号被保険者の配偶者で主として2号被保険者の収入により生計を維持している者(2号被保険者に扶養されている配偶者)

20歳以上の学生や、自営業者などは1号被保険者、会社員や公務員は2号被保険者、会社員と結婚して専業主婦(主夫)をしている方は3号被保険者になります。3号分割ができるのは、3号被保険者であった期間がある方に限られます。おおざっぱにいえば、専業主婦をしている期間に配偶者が納めた厚生年金の記録を2分の1ずつ分けるということです。

②3号分割の要件

3号分割をするには、次の要件を満たす必要があります。

  • 平成20年4月1日以後に国民年金の第3号被保険者期間があること
  • 請求期限(原則として離婚等をした日の翌日から2年)を経過していないこと

これらの要件を満たせば、当事者間の合意は必要ありません。また、分割の割合は2分の1と決められています。

(2)合意分割

①合意分割とは

合意分割」とは、当事者間の合意(合意ができないときは裁判手続)によって婚姻期間中の厚生年金の納付記録を分割する制度です。

②合意分割の要件

合意分割をするには、次の要件を満たす必要があります。

  • 婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録があること
  • 当事者双方の合意または裁判手続により按分割合を定めたこと
  • 請求期限(原則として離婚等をした日の翌日から2年)を経過していないこと

3号分割と異なり、改正法施行前(平成19年4月1日より前)の婚姻期間も対象に含まれます。また、按分の割合も当然に2分の1ではなく、当事者の協議により決めることになりますが、5割を超えることはできないとされています。

(3)ふたつの年金分割の関係

3号分割と合意分割は、どちらか一方を請求すると他方は請求できないというような関係ではありません。3号分割が認められるのは平成20年4月1日以降の3号被保険者期間に限られますから、それより前に納付された記録がある場合には、合意分割を請求することができるのです。

なお、合意分割の請求をした場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、3号分割の請求がなくても、合意分割の請求と同時に3号分割の請求があったとみなされます。

年金分割をすべき場合とは

それではどのような場合に年金分割をすべきでしょうか?職業で分けて考えてみましょう。

(1)専業主婦(主夫)の場合

専業主婦は3号被保険者にあたります。3号被保険者期間は自身の厚生年金の納付記録がないわけですから、3号分割をして配偶者の納付記録を分けてもらうべきといえます。平成20年4月1日より前から専業主婦だった場合には、合意分割も請求すべきです。

(2)パートの場合

仕事をしている場合でも、年収が130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満のときは3号被保険者に該当します。パートの場合は多くの方がこの範囲で働いています。このような場合は、(1)と同様に年金分割をすべきといえます。

(3)夫婦双方がフルタイムで働いている場合

夫婦双方がフルタイムで働いている場合、年収は130万円を超えているでしょうから、3号被保険者には該当しません。しかし、合意分割の場合はそのような制限はありませんから、合意分割を請求することは可能です。

ただし、年金分割は夫から妻に分割すると決まっているわけではありません。妻の方が納付記録が多い場合には、妻から夫への分割もありえるのです。したがって、夫婦双方がフルタイムで働いている場合に年金分割を請求すべきかは、双方の収入によるということになります。

年金分割の手続

(1)3号分割の流れ

3号分割だけを請求する場合、年金事務所に「標準報酬改定請求書」を提出するだけで手続は終わります。標準報酬改定請求書は、年金事務所に備え付けられているほか、日本年金機構のHPでも入手できます。
参考:https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/kyotsu/20181011-05…/13_651.pdf

提出の際には、運転免許証などの本人確認書類、年金手帳、戸籍謄本(婚姻期間を明らかにするため)、認め印などが必要になります。年金事務所の処理が終わると、双方に標準報酬改定通知書が送付されます。早ければ2~3週間程度で届くこともありますが、年金事務所の込み具合によってはもっと時間がかかることもあります。

(2)合意分割の流れ

合意分割の手続の流れは次のとおりです。

①年金分割のための情報提供請求

まず年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出します。合意分割では、原則として当事者の話し合いにより按分割合を決めることになっており、話し合いの前提として、分割の対象となる期間など情報を知る必要があるため、年金事務所の持つ情報を提供してもらうのです。

②年金分割のための情報通知書の交付

情報提供の請求を受けた年金事務所は、「年金分割のための情報通知書」を送付します。

③配偶者との協議

この通知書の情報をもとに、配偶者と按分割合について協議します。合意ができれば、⑤の手続をします。

④家庭裁判所の調停または審判

当事者間で按分割合について合意ができない場合は、家庭裁判所の調停または審判で按分割合を決めることになります。

⑤年金事務所に合意分割の請求

当事者の合意または家庭裁判所の手続によって按分割合が決まれば、年金事務所で合意分割の請求をします。年金事務所の手続に「標準報酬改定請求書」、運転免許証などの本人確認書類、年金手帳、戸籍謄本、認め印などが必要なのは3号分割と同じですが、合意分割の場合はさらに按分割合を明らかにする文書が必要になります。

3号分割と同様、年金事務所の処理が終わると双方に標準報酬改定通知書が送付されます。

(3)年金分割の期限

分割請求の期限は、原則として離婚など(婚姻の取消しをしたときや事実婚を解消したときを含む)をした日の翌日から2年以内とされています。ただし、離婚して2年が経過する前に家庭裁判所の調停または審判の申立てをしていた場合、調停の成立または審判の確定から1ヶ月が経過するまでの間は、分割請求をすることができます。

按分割合の相場

(1)大半が按分割合0.5

法律上は、当事者の協議または裁判手続によって、5割を超えない範囲で按分割合を決めることになっています。しかし、裁判所の実務上はほとんどの事例で按分割合を5割(0.5)と定めています。それは、「厚生年金保険等の被用者年金が、婚姻期間中の保険料納付により、主として夫婦双方の老後の所得保障を同等に形成していくという社会保障的性質及び機能を有していること」ことから、「特段の事情がない限り、その按分割合は0.5とされるべきである」(名古屋高決平成20.2.1)と考えられているからです。

時間と費用をかけて裁判手続をしたとしても極めて高い確率で0.5とされるため、裁判手続に至らず当事者間で決める場合も、ほとんどは0.5で合意しているようです。厚生労働省の統計によれば、平成28年度に行われた年金分割の97%が按分割合を0.5と定めているとのことです(平成28年度厚生年金保険・国民年金事業年報結果の概要p.31)。
参考:https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/gaiyou.html

(2)按分割合を0.3とした事例

例外的に0.5以外の割合を定めた裁判例も存在します。たとえば、東京家審平成25.10.1(判時2218・69)があげられます。

この事件は、離婚した元夫が元妻の共済年金について按分割合0.5と定める審判を求めたのに対し、元妻が、元夫が婚姻期間中に多額の借入があったこと、元夫は元妻から200万円を借り、今後はキャッシングしないとの誓約書を差し入れたのにこれを守らなかったことなどをあげ、元夫への年金分割を認めるべきではないと主張したものです。

裁判所は、一切の事情を考慮すれば、夫の寄与をゼロとして年金分割を認めない特段の事情があるとまではいえないが、夫の年金分割の按分割合は0.3と定めるのが相当であると判断しました。

年金分割の相談先

(1)年金事務所

年金分割の手続や必要書類等について疑問があるときは、年金事務所に確認すのが確実です。年金事務所では電話相談や予約制の窓口相談などを行っていますので、わからないことがあれば気軽に相談するといいでしょう。

ただし、年金事務所が教えてくれるのは、年金事務所が行う年金分割に関することに限られます。合意分割をしたい場合に配偶者とどのように交渉すればいいか、合意ができない場合の裁判手続はどうすればいいかといったことは年金事務所の専門外であり、別の相談先を考えなければなりません。

(2)家庭裁判所

これまで解説したとおり、合意分割を請求したい場合に、当事者間の協議で按分割合について合意ができないときは、家庭裁判所の手続で按分割合を決める必要があります。家庭裁判所の手続や手続を利用するための必要書類、費用などについては、家庭裁判所に問い合わせをするといいでしょう。

(3)弁護士

家庭裁判所の手続を利用した場合、書類の提出から第1回の期日まで早くても1~1ヶ月半は間隔があくなど、どうしても時間がかかってしまいます。ですから、早期に合意分割をするには、裁判手続に至らずに配偶者との交渉で合意することが重要です。

しかし、配偶者との交渉をどのように進めればいいのか、どのようにして配偶者を説得するかということに関しては、年金事務所や家庭裁判所で教えてくれません。これらについて不安があるときは、法律の知識と交渉の経験を併せ持つ弁護士に相談するといいでしょう。

まとめ

年金分割について網羅的に解説しました。離婚を考えているが、老後の生活が不安だという方がいらっしゃったら、ぜひ参考にしてください。

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