離婚問題における弁護士費用の相場と費用をできるだけ抑える方法
離婚ができるか、親権はとれるのか、慰謝料や財産分与はもらえるのかなど、離婚にはさまざまな問題があります。自分ではどうしたらいいかわからないという方も大勢いらっしゃるでしょう。そのような場合に頼りになるのが、専門家である弁護士です。
しかし、近年弁護士の数が増えたとはいえ、一般の市民にとって弁護士はまだまだ馴染みがなく、どのぐらい費用がかかるのか不安で依頼に踏み切れないというからも少なくありません。また、離婚後の生活の不安などから、できる限り費用を抑えたいと考えるのも当然のことです。そこで今回は、離婚問題で弁護士に依頼した場合の費用の目安と、弁護士費用をできるだけ安く抑える方法などについて解説します。
離婚の流れとは
離婚は、大きく分けて当事者の話し合いでする離婚と、家庭裁判所の手続を利用する離婚があります。前者を「協議離婚」と言います。後者はさらに、家庭裁判所の調停による「調停離婚」と、訴訟による「裁判離婚(訴訟離婚)」に分けることができます。家庭裁判所の手続は、まずは調停で調停委員を介して話し合いをし、それでも話し合いがまとまらずに調停が終わった場合に、離婚訴訟を提起することができるという流れになっています。
このことから、一般的な離婚の流れは、
- まず当事者間で話し合い(協議)をし、話し合いがまとまれば協議離婚する
- 話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てる
- 調停でもまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚の訴訟を提起する
という流れになります。あくまで一般論で、それまでの相手方の態度からおよそ交渉に応じる見込みがないと予想されるときは、協議をせずに調停を申し立てることもあります。
離婚事件を弁護士に依頼するメリット・デメリット
(1)メリット
①手続をすべて任せることができる
配偶者の浮気やDVなどがあり、配偶者の顔も見たくない、顔を合わせるのが怖いと感じている方は少なくないでしょう。弁護士に依頼をすれば、手続を弁護士にすべて任せることができるので、配偶者と直接顔を合わせる必要がなくなります。また、仕事が多忙等の理由で時間がとりづらい方にとっても、手続を任せられるということは大きなメリットになるでしょう。
②手続が早く終わる可能性が高い
当事者間の交渉では、感情的になってなかなか話し合いが進展しないことがありますが、弁護士に依頼すれば冷静に法律問題に絞って、話し合いをすることができます。また、裁判所の手続を利用する場合、書類を集めたり作成したりする必要があり、知識がないとどうしても時間がかかってしまいますが、弁護士なら迅速に必要な書類を集めたり、作成したりすることができます。このように、弁護士に依頼をした場合、早く解決に至る可能性が高いと言えるでしょう。
③有利な解決ができる可能性がある
冒頭でも触れたとおり、離婚には、離婚自体が認められるかといった問題以外にも、親権者や養育費はどうするか、慰謝料請求や財産分与が認められるかといった問題があります。弁護士に依頼をし、適切な主張とそれを裏付ける証拠を提出してもらうことで、これらの問題についてより有利な結果を得られる可能性があります。
(3)デメリット
弁護士に依頼することのデメリットとしては、弁護士費用がかかるということがあげられます。これ以外にデメリットはないといっていいと思われます。
弁護士費用の目安は?
(1)弁護士費用に基準はある?
平成16年4月1日に旧日本弁護士連合会報酬等基準(以下「旧基準」といいます)が廃止され、弁護士費用は原則として依頼者と弁護士との協議で自由に決めることになりました。ただし、現在も旧基準どおりあるいは旧基準を参考にしている弁護士も少なくないので、まずは旧基準による離婚問題の弁護士費用を紹介しましょう。
弁護士費用には、事件を依頼するときに支払う「着手金」と、事件の終了時に支払う報酬「成功報酬」の2種類があります。旧基準では、離婚調停事件、離婚交渉事件の着手金と報酬は、それぞれ20万円~50万円の範囲内の額とされていました。離婚交渉から離婚調停を受任するときの着手金は、この額の2分の1です。たとえば、離婚交渉を依頼した場合は着手金として20万円、交渉がまとまらずに引き続いて調停を依頼する場合は追加で10万円といったように、着手金を計算するのです。
次に、離婚訴訟事件の着手金と報酬は、それぞれ30万円~60万円の範囲内の額とされています。これについても、離婚調停から引き続いて離婚訴訟の依頼を受けるときは、この2分の1とされています(追加の着手金として15万円~30万円を払うということです)。
(2)弁護士費用の目安
(1)の旧基準もふまえて、離婚交渉や離婚調停の着手金の目安は20万円~30万円、離婚訴訟の場合の着手金の目安は20万円~40万円ほどでしょう。少し古いデータになりますが、日本弁護士連合会が全国の弁護士に弁護士費用についてアンケートをとり、その結果をまとめています。
- 市民のための弁護士報酬ガイド
http:s://www.nichibenren.or.jp/library/ja/attorneys_fee/data/guide.pdf - 市民のための弁護士報酬の目安
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/attorneys_fee/data/meyasu.pdf
離婚については、次のような事例を念頭に、弁護士費用のアンケートを集計しています。
(4)事例
夫の暴力などに耐えられないので離婚したい。3歳の子どもが1人いるが自分が引き取りたい。慰謝料として200万円を請求した。離婚が成立し、慰謝料200万円の支払いを受けた。子どもの親権も得たうえで、養育費として毎月3万円の支払いを受けることになった。
①離婚調停を受任する場合
「着手金」
- 20万円前後:1%
- 30万円前後:5%
「報酬」
- 20万円前後:3%
- 30万円前後:6%
②離婚調停の不調後に離婚訴訟を受任する場合
「着手金」
- 0円:3%
- 10万円前後:5%
- 20万円前後:0%
「報酬」
- 20万円前後:6%
- 30万円前後:2%
- 40万円前後:8%
- 50万円前後:9%
③離婚訴訟の段階から受任する場合
「着手金」
- 20万円前後:4%
- 30万円前後:7%
- 40万円前後:7%
「報酬」
- 20万円前後:1%
- 30万円前後:1%
- 40万円前後:5%
- 50万円前後:1%
弁護士費用を安く抑えるにはどうすればいい?
(1)無料相談を利用する
無料で弁護士の法律相談を受けることができるところがあります。たとえば、お住いの地域の自治体が、弁護士による無料法律相談を開催していないかを確認してください。また、近年では、初回法律相談料無料とか、離婚、相続など特定の分野に限って何度でも相談料無料という法律事務所も出てきました。そのような相談料無料の法律事務所を探すことで、費用をかけずに弁護士のアドバイスを受けることができます。
(2)法テラスを利用する
法テラス(日本司法支援センター)は、経済的に余裕のない方のために、無料の法律相談や弁護士費用の立替事業等を行っています。法テラスを利用する場合、弁護士費用は法テラスがあらかじめ作成した基準にもとづいて決定しますが、この費用はおそらく弁護士費用としては最も安い水準のはずです。いいかえれば、法テラスを利用するより安く弁護士に依頼をすることは難しいといっていいでしょう。
また、弁護士費用は法テラスが弁護士に一括して支払い、申込者は法テラスに月額5,000円~1万円程度の分割返済をしていくことになるので、一度にまとまった着手金を用意できない方でも弁護士に依頼をすることができるというメリットがあります。
(3)調停は自分だけでする
「弁護士費用の目安は?」の(1)、(2)のとおり、離婚交渉、離婚調停、離婚訴訟と順を追ってその都度弁護士に依頼をすると、追加の着手金がかかってしまいます。
そこで、着手金を節約するため、離婚調停は自分でやるという選択肢もあります。実際にも、離婚調停は、相手方と直接交渉するのではなく、調停委員が間に入ってくれますし、調停委員が時間をかけて口頭で話を聞いてくれるので、弁護士を依頼せずに自分で対応している方は少なくありません。
(4)費用の安い法律事務所を探す
法テラスの利用ができない場合には、なるべく費用の安い法律事務所を探すといいでしょう。ただ、安ければいいというわけではありません。無料法律相談をしている法律事務所をいくつか回り、弁護士の対応や費用の安さなどを総合的に考えて、どの法律事務所に依頼をするかを判断するようにしてください。
(5)弁護士に依頼する項目を絞る
「弁護士費用の目安は?」の(1)で触れた旧基準による着手金、報酬は、あくまで離婚についてのものです。したがって、慰謝料や財産分与を請求する場合には、別途着手金や報酬が必要とされていました。そのため、現在も旧基準どおり、あるいは旧基準を参考にしている法律事務所では、慰謝料や財産分与等の経済的な給付についても依頼をすると、弁護士費用が高額になるおそれがあります。
最終的に相手方から回収できる見込みが高いのであれば費用をかける意味があると言えますが、見込みがないのであれば、費用倒れに終わる可能性が高いと言えます。ですから、たとえば、夫が妻の不倫を理由に離婚請求をしたいと考えている場合に、妻が専業主婦やパートなどで資力がない(不倫相手にも資力がない)など、回収の見込みがないのなら、あえて慰謝料請求はしないという選択肢もありえます。
また、慰謝料請求を完全にあきらめる必要まではないとしても、相手方への請求はあくまで適正な範囲内にとどめるべきです。ときどき、配偶者や不倫相手が許せないので、取れなくてもいいから相場を大きく上回る額を請求したいと言う方がいらっしゃいます。しかし、経済的な給付を求める場合、弁護士費用や裁判所に納める収入印紙は、請求額が増えるほど高額になるので、認められる見込みがない法外な請求をしても、弁護士費用や印紙代の負担多大きくなるだけで、実益はないのです。
まとめ
弁護士費用の目安と費用を安く抑える方法について解説しました。弁護士に依頼をしたいが費用が気がかりという方がいらっしゃいましたら、この記事を参考に少しでも弁護士費用を安く抑え、離婚後の生活に備えるようにしてください。