不倫の慰謝料請求に時効はある?時効制度の解説と時効を止めるための方法を解説
「配偶者が何年も前に不倫をしていたことがつい最近発覚した」
「何年も前に配偶者が不倫をしていた。そのときは我慢していたが、やはり許せない」
以上のような理由から、配偶者の不貞から長時間が経過してから慰謝料を請求したいと考える方は少なくありません。
しかし、このような慰謝料請求は認められるでしょうか。
今回は、慰謝料請求にも時効があるのか、あるなら何年で時効になるのか、時効を止める方法があるのかといった点について、詳しく解説します。
不倫慰謝料請求の時効とは
不倫慰謝料請求には時効があります。不倫慰謝料請求の時効とは、不倫の加害者に慰謝料を請求できる権利が一定期間の経過により消失することです。消滅時効ともいいます。
本項目では、そんな不倫慰謝料請求の時効について解説していきます。
(1)不倫慰謝料を請求できる条件
不倫の慰謝料請求が時効にかかるかどうかは、そもそもなぜ慰謝料を請求することができるのかについてさかのぼって考える必要があります。
というのも、権利の種類、性質によって時効の有無や期間が異なるからです。
慰謝料請求に関連する民法の規定を確認しましょう。
709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
いわゆる不法行為に基づく損害賠償請求権の規定です。
次に、どのような損害が賠償の対象になるかについては、次の規定があります。
710条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
この規定によって、財産以外の損害、たとえば精神的な苦痛に対しても賠償しなければならないことになります。
性的関係を伴う不倫は、「不貞行為」にあたり、不貞行為は配偶者の貞操権を侵害する不法行為にあたります。
そのため、配偶者が不貞行為をした場合、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料を請求することができるのです。
(2)不法行為の時効期間
不法行為に基づく損害賠償請求権について、民法は次のとおり定めています。
724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
配偶者の不倫を理由とする慰謝料請求も、不法行為に基づく損害賠償請求のひとつですから、この規定の適用を受けます。したがって、損害および加害者を知った時から3年または不法行為の時から20年で、慰謝料請求権が消滅することになります。
なお、20年の期間については、時効ではなく除斥期間とされています。
時効と除斥期間について、詳しく見ていきましょう。
①不倫相手の素性発覚から3年
不倫慰謝料請求の時効は、不倫の発生および不倫相手の素性発覚から3年で成立します。不倫相手の素性が不明な場合、時効は成立しません。
慰謝料請求の時効期間は、中断したり停止したりできます。中断・停止する方法については、後ほど詳しく解説します。
②不倫相手の素性が不明な場合は除斥期間20年
除斥期間とは、権利が消滅するまでの期間のことです。先ほど解説したとおり、慰謝料請求権の除斥期間は20年です。
不倫相手の素性が不明な場合でも、不倫の発生から20年で慰謝料請求権が消滅します。除斥期間は時効とは異なり中断・停止できません。
不倫慰謝料請求の時効の起算日
時効の規定を紹介しましたが、「損害及び加害者を知った時」とはいつかなど、条文だけではわかりにくい点があります。
そこで、不倫の慰謝料請求の時効について詳しく解説します。
(1)時効期間が進行するタイミング
まず、この場合の「損害」とは、配偶者の不倫によって受けた精神的苦痛のことです。
したがって、「損害」を「知った時」とは、配偶者の不貞行為を知った時を指すのが一般です。
次に、「加害者」について検討します。
不倫は、配偶者が一人でできるものではありません。当然のことですが、不倫相手がいます。つまり、不貞行為は、配偶者と不倫相手が共同で行う、「共同不法行為」にあたります。
そのため、配偶者だけでなく、不倫相手にも慰謝料を請求することができるのです。したがって、ここでいう「加害者」は、配偶者だけでなく、不倫相手も含みます。
そして、加害者を「知ったとき」とは、加害者の氏名や住所を知ったときであると考えられます。
配偶者が不倫をしていることは確実であるが、不倫相手を特定できないような場合、不倫相手に損害賠償請求をすることは事実上不可能です。そのような場合にまで時効期間を進行させることは、時効制度の趣旨に反するからです。
(2)不貞行為が原因で離婚した場合
「損害」を「知ったとき」は配偶者の不貞行為を知ったときであるのが一般的だと解説しました。しかし、配偶者の不貞行為を原因とする精神的苦痛は、不貞行為を知ったことによる衝撃だけにとどまるとは限りません。
たとえば、配偶者の不貞行為が原因で離婚に至る場合があります。このような場合、離婚に至ったことについても、精神的な苦痛を受けることになります。したがって、配偶者の不貞行為が原因で離婚をした場合、離婚に至ったことに生じた精神的苦痛に対する慰謝料を別途考えることができます。
そして、離婚に至った精神的苦痛という「損害」を「知ったとき」とは、離婚が成立したときと考えられます。
不倫慰謝料請求の時効を中断・停止させる方法
本項目では、慰謝料請求の時効期間を中断・停止させる方法について解説します。先ほど解説したとおり、慰謝料請求の時効期間は中断・停止させられます。
ですので、不倫相手の素性が発覚したら、慰謝料請求の時効期間を中断・停止させましょう。中断・停止させておけば、不倫問題解決までの時間を稼げます。詳しく見ていきましょう。
(1)時効を中断させる方法
慰謝料請求の時効中断とは、時効期間を6ヶ月間中断して振り出しに戻す制度です。慰謝料請求の時効期間を中断した場合、時効が成立するのは6ヶ月が経過した時点から、さらに3年間後となります。
慰謝料請求の時効期間を中断させる方法は以下の3つです。
①請求
請求とは、訴訟の提起、支払督促の申立て、和解及び調停の申立てなどを行うことです。裁判を起こしたり調停を申立てたりした時点で、慰謝料請求の時効期間が中断します。ですので、裁判の判決が下されるよりも前に、時効が成立することはありません。また、判決が下されると、時効期間は3年から10年に延長されます。
差押・仮差押・仮処分
方法 | 内容 |
---|---|
差押 | 裁判の判決や公正証書にもとづいて財産を強制回収する |
仮差押 | 裁判前に差押えて財産隠しを防止する |
仮処分 | 裁判の判決が下る前に相手が財産隠しなどを行わないよう仮に処分する |
差押え・仮差押・仮処分を行えば、慰謝料請求の時効期間を中断させられます。中断させる方法の内容は、上の表のとおりです。差押え・仮差押・仮処分を行った時点で、慰謝料請求の時効期間が中断します。
③債務承認
債務承認とは、債務者である相手自身が「慰謝料を支払う義務がある」と認めることです。債務承認の方法に決まりがないため、口頭でもかまいません。ただし、あとから「認めていない」といわれる可能性があります。ですので、相手に債務承認させる際は、書類やボイスレコーダーなどを使用しましょう。不倫慰謝料を支払うと約束する旨の文章や音声を、確認できる状態にしておいてください。債務承認が成立すれば、慰謝料請求の時効期間を中断させられます。
(2)時効を停止させる方法
慰謝料請求の時効停止は、時効期間を6ヶ月停止させる制度です。時効中断とは異なり、時効期間を振り出しに戻せません。ですので、時効期間を停止させてから、中断に向けて行動を起こすことになります。
慰謝料請求の時効期間は、相手に内容証明郵便を送付して催告すれば停止させられます。催告とは、内容証明郵便を送付して慰謝料請求することです。相手に内容証明郵便を送付した時点で、慰謝料請求の時効期間は停止します。
慰謝料請求の時効期間が停止している間に、裁判を起こすなどして中断させましょう。
時効完成後の不倫慰謝料請求
(1)時効完成には援用が必要
それでは、時効の完成が迫っているような場合、どうすればいいでしょうか。
時効には、停止と中断という制度があります。
まず、時効の停止とは、一定の期間、時効期間の進行を止め、時効を完成させないことをいいます。
時効の中断とは、それまで進行してきた時効の期間を振り出しに戻すというものです。
つまり、時効完成間近に時効の中断が認められた場合、中断事由の終了した時からからさらに3年の経過が必要ということになります。
これに対し、除斥期間には中断は認められません。そのため、不貞行為から20年が経過した場合、中断などで時効はまだ完成していなかったとしても、除斥期間により慰謝料請求権は消滅します。
(2)時効の中断・停止の具体的方法とは
①時効の停止事由
民法では、時効の停止について、次の用に規定されています。
- 未成年者または成年被後見人に法定代理人がいない場合の時効の停止(158条)
- 夫婦間の権利の停止(159条)
- 相続財産に関する時効の停止(160条)
- 天災等による事項の停止(161条)
たとえば、時効期間満了前6ヶ月以内に未成年者や成年被後見人に法定代理人がいない場合、未成年者や成年被後見人が行為能力者となるか、あらたな法定代理人が就職した時から6ヶ月を経過するまでは、時効は完成しません。
これらの停止事由がある場合、権利行使をすることができない、または権利行使をすることが期待できないからです。
②時効の中断事由
次に、時効の中断事由について、民法は次のように規定しています(147条)。
- 請求
- 差押え、仮差押え又は仮処分
- 承認
ここでいう「請求」は、裁判上の請求です。訴訟の提起、支払督促の申立て、和解及び調停の申立てなどがこれにあたります。承認とは、時効によって利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対して、その権利の存在を知っていることを表示することをいいます。
これら以外に、催告(153条)というものがあります。これは、裁判外の請求(催告)によって、時効の完成を6ヶ月遅らせるというものです。たとえば、時効の完成が間近に迫っており、時効を中断させる措置をとる時間的余裕がないという場合、まず内容証明郵便で催告し、そこから6ヶ月以内に裁判上の請求をすることで時効を中断させることができるのです。もし6ヶ月以内に裁判上の請求をしなければ、時効の中断の効力は生じません。
時効完成後はいっさい請求できない?
(1)時効には援用が必要!
それでは、時効期間が経過してしまうと、慰謝料請求は一切認められなくなるのでしょうか。
実は、時効は期間の経過によって自動的に効力が生じるわけではありません。
時効の効果を生じさせるには、時効によって利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対し、時効の効果を受ける意思を表明しなければならないのです。これを時効の援用といいます。
民法は、次のように定めています。
145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
146条 時効の利益は、あらかじめ放棄することはできない。
146条の反対解釈から、時効が完成した後は、時効の利益を放棄することができるということになります。
したがって、時効期間が経過した場合であっても、催告や裁判上の請求をすること自体は可能であり、相手方が時効を援用せず時効の利益を放棄して支払いに応じる場合には、これを受領することができるのです。
なお、除斥期間については、援用は必要とされていません。
したがって、裁判所は、除斥期間が経過している場合には、当事者からその旨の主張がなかったとしても、除斥期間によって権利が消滅したと判断することになります。
(2)時効完成の援用をしなかった場合
仮に、時効期間が経過したことを知らずに一部の弁済など承認にあたる行為をした後、時効期間が経過したことを知った場合、時効の援用ができるでしょうか。
この点について、最高裁は、次のような判断を示しました。
最高裁昭和41年4月20日
債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである。
したがって、時効の完成を知らなかったとしても、いったん承認をした後は時効を援用することができないということになります。
時効を止めて不倫慰謝料を請求する際の注意点
本項目では、慰謝料請求の時効期間を中断・停止させる際の注意点について解説します。これから解説する内容を確認して、不倫慰謝料を請求できなくなる事態を回避しましょう。
(1)早めに不倫慰謝料請求に向けて行動する
配偶者の不倫が発覚した際は、なるべく早めに慰謝料請求に向けて行動を起こしましょう。
理由は以下のとおりです。
- 不倫の証拠集めに時間がかかる
- 準備を進める間に時効期間が進行する
- 除斥期間が適用されない場合がある
不倫慰謝料を請求するためには、不倫の証拠を集める必要があります。相手が不倫を認めない場合、裁判で不倫の証拠を提出して不倫を証明しなければならないからです。
不倫の証拠を集めるには、時間がかかるかもしれません。そして、不倫の証拠を集めている間も時効期間は進行します。ですので、早めに不倫慰謝料請求に向けて行動しておいて損はありません。
また、不倫の発生を知りながら行動を起こさない場合、除斥期間が適用されない可能性もあります。時効が成立して慰謝料を請求できなくなるかもしれないので、なるべく早めに不倫の証拠を集め始めましょう。
(2)なるべく多くの不倫の証拠を集めておく
不倫の証拠はなるべく多めに集めておきましょう。裁判時に提出する不倫の証拠が多ければ多いほど、裁判官から配偶者が不倫したと認められやすいです。
ただし、証拠能力が低いものばかりを集めても、不倫の証拠として認められにくいです。ですので、配偶者が不貞行為を働いたと判断しやすいものを集めておきましょう。証拠能力の高いものが一つでもあれば、他の証拠も認められやすくなります。
(3)精神的苦痛が大きい場合は弁護士に相談する
配偶者の不倫による精神的苦痛が大きい場合は、弁護士に相談してみましょう。
不倫のショックにより行動を起こせなくなる方は少なくありません。しかし、行動できずに悩んでいる間も、時効期間は進行しています。ですので、まずは弁護士に相談して、的確なアドバイスをもらいましょう。
不倫慰謝料請求に強い弁護士であれば、お客さんの心情を理解したうえで相談に乗ってくれます。慰謝料請求の時効期間を中断・停止させる方法について、具体的なアドバイスをもらいましょう。
数ある弁護士事務所の中には、慰謝料請求が前提であれば成功報酬制で相談・依頼を受け付けている企業もあります。一人で悩まずに、まずは相談してみてください。
まとめ
不倫慰謝料請求の時効について解説しました。
時効が完成してしまうと、もらえるはずの慰謝料をもらえなくなるおそれがあります。不倫の慰謝料請求をしたいけど迷っているという方には、万が一にも時効が完成しないよう、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
先ほど解説したとおり、慰謝料請求が前提であれば成功報酬制で相談・依頼を受け付けている弁護士事務所もあります。たとえば、本サイトで紹介している「弁護士法人ZEN」です。不倫の証拠を一つでも保有していれば相談・依頼できるので、ぜひ利用してみてください。