不倫の示談書には何を書けばよい?トラブル回避のために記載すべき9つの内容
もしも、配偶者が不倫しているとわかったとき、裁判をせずに話し合いで解決する「示談」という方法を選ぶ可能性が高いでしょう。示談で決まったことがらを記録したものが「示談書」です。今回は「なぜ示談書を書く必要があるのか」「示談書にはどんな内容が盛り込まれているのか」といった疑問にお答えします。
不倫の示談書とは?
不倫問題を解決するうえで示談書の作成は重要です。配偶者や不倫相手と示談書を交わせば、不倫の再発防止につながるからです。本項目では、そんな不倫の示談書とは何かについて解説します。
(1)不倫は民法上の不法行為
民法770条では、離婚の訴訟を起こすことができる原因として5つの項目を上げていますが、そのうちの一つに「配偶者の不貞行為」があります。不貞行為とは不倫や浮気を指す言葉。離婚訴訟を起こせる理由として挙げられていることから、不倫は民法上の不法行為であるとされています。民法上の不法行為に対して、被害者は損害賠償を請求することができます。
(2)示談書(合意書・和解書)の役割
裁判を起こして損害賠償を請求する方法もありますが、不倫をされた人の気持ちになれば、できれば速やかに解決したいと思うでしょう。そんなときには、裁判を経ずに当事者間、あるいは間に弁護士が入って話し合うことで問題を解決する「示談」という方法が採られます。
不倫の示談では、慰謝料の額や今後の取り決めなどが取り決められ、そうした内容を記録したものが「示談書」です。「『示談書』というタイトルは、ストレートな感じがして抵抗がある」という場合は、「合意書」「和解書」でもかまいません。タイトルの違いによる法的な影響はありません。
(3)誓約書と示談書の違い
誓約書と示談書の違いは、書類に記載した内容を守る人数にあります。書類に記載した内容を1人だけが守る場合、示談書ではなく誓約書を交わします。
たとえば、不倫相手に慰謝料請求せず「配偶者と今後連絡を取らない」と約束させたいだけの場合、交わすのは誓約書です。不倫相手に慰謝料請求して「今後いっさい金銭を要求しない」と書類に記載する場合は、ご自身も約束を守ることになるので示談書を交わします。
誓約書と示談書に法的な違いはありませんが、覚えておいて損はありません。書類の作成を弁護士または行政書士に依頼する際、スムーズに手続きを進められます。
不倫の示談書をなぜ作成するのか? 示談書作成のメリット
口約束でも示談は有効です。それでは、なぜ不倫の示談書を作成しておく必要があるのでしょうか。理由は、書面に残しておくことで示談後のトラブルを防ぐメリットがあるからです。
配偶者に不倫をされた被害者にとっては、慰謝料の額や支払方法、支払日を明記することで、不倫相手から慰謝料が支払われないリスクを下げることができます。また、不倫相手の方にとっても、示談後に「やはり、あの額では足りない」被害者から言われることを防げます。なによりも、当事者たちの不倫の再発防止につながります。
また、後に離婚することになった場合の訴訟や、再び不倫関係になったときに慰謝料の増額要求の際、有力な証拠となります。
不倫の示談書に記載する9つの内容
では、不倫の示談書にはどのようなことを盛り込めばよいのでしょうか。実は、不倫の示談書は被害者、加害者(被害者の配偶者の不倫相手)のいずれでも作成できます。今回は被害者(A子さん)が示談書を作成するという想定で話を進めます。
- A子さん(女性)…夫が不倫関係を持った。
- B夫さん(男性)…A子さんの夫。
- C子さん(女性)…B夫さんの不倫相手。未婚。B夫さんとは会社の同僚。
(1)タイトル
「示談書」以外に「合意書」「和解書」でもかまいません。
(2)文頭
文頭に「A子とC子は本日、以下のとおり合意した。」という文言を入れることが多いですが、なくても問題ありません。
(3)不貞行為(不倫の事実)
配偶者が不倫相手と不貞行為を働いた事実について記載しましょう。記載する内容は以下のとおりです。
- 誰が誰と不貞行為を働いたか
- 不倫の被害を受けたのは誰か
- 不貞行為を働いた回数や期間
- 不倫により夫婦関係が崩壊したか
- 不倫により精神的苦痛を被ったか
B夫さんとC子さんが不倫関係にあったことやその期間、不倫によりA子さんが被った精神的苦痛について、なるべく具体的に記載してください。そして、C子さんが不倫の事実を認めたうえで、慰謝料を支払う旨も盛り込みます。
(4)慰謝料についての詳細
慰謝料の金額と支払期日、支払回数(一括または分割)、支払方法(銀行振込・口座番号、現金書留など)、支払いにかかる手数料の負担について記載します。
※「強制執行認諾約款付公正証書作成の合意」について
慰謝料が分割で支払われる際、その支払いが滞った場合は訴訟を起こし、給与の差し押さえなどの強制執行を行います。しかし、強制執行認諾約款付き公正証書があれば、訴訟を省略していきなり強制執行ができます。
この証書を作成するには、債務者=C子さんの同意が必要となるため、「強制執行認諾約款付公正証書作成の合意」という項目を設けておくことで、分割払い時のリスクに備えることができます。
なお、公正証書作成時には手数料などが必要になるので、どちらがその費用を負担するのかも示談書に書いておきます。強制執行認諾約款付公正証書は、示談書をもとに公証役場で作成してもらいます。公証役場は全国に約300か所ある法務局所轄の公的機関です。各地の所在地は、日本公証人連合会の公式サイト(http://www.koshonin.gr.jp/)でご確認ください。
(5)誓約事項
A子さんが今後のB夫さんと婚姻関係を続けていく場合、慰謝料の取り決めと並んで重要なのが、C子さんに今後B夫さんとの関係を断つよう約束してもらうことです。不倫関係が再発するのを防止するため、誓約事項はより具体的に記載します。
本来なら、「面会や電話、メール、手紙、SNSなどの手段を問わず、一切のかかわりを断つこと」とするべきですが、今回のケースではB夫さんとC子さんは会社の同僚であるため、物理的に不可能です。そこで「職務上必要な場合を除き、一切のかかわりを断つ」などと記載します。ほかにも、B夫さんの友人や親族との接触の禁止や、名誉棄損となるような行為の禁止など、なるべく具体的に挙げます。
また、誓約事項に違反した際の違約金も設定しておきます。これも「メールをした場合は〇万円」「再び不倫行為に及んだ場合は〇万円」などと具体的、かつ段階的に設定しておくとよいでしょう。
なお、A子さんがB夫さんと離婚に至った場合、この項目は不要です。誓約事項を設けるのは、B夫さんとC子さんの不倫関係が再発することで、A子さんが配偶者として安心して暮らす権利を侵害される恐れがあるからです。A子さんとB夫さんが離婚した場合は、配偶者としての権利も失います。
(6)求償権の放棄
不倫はB夫さんとC子さんの「共同不法行為」であり、本来は慰謝料を支払う義務もふたりにあります。A子さんはB夫さんとC子さんの両方に慰謝料を請求することができますが、A子さんとB夫さんが婚姻関係を続ける場合、夫婦の財布が同じというケースでは、A子さんはC子さんのみに慰謝料を請求することが予想されます。
C子さんだけが慰謝料全額を支払うことになった場合、C子さんはB夫さんに対して、本来ならB夫さんが分担すべきだった金額をC子さんに支払うよう請求する権利があります。これを「求償権」といいます。
このように、B夫さんとC子さんが将来、慰謝料の負担をめぐってトラブルになることを防ぐために、「C子さんに求償権を放棄してもらう」という一文を盛り込んでおくとよいでしょう。もちろん、求償権を放棄してもらうことと加味したうえで、慰謝料の請求額を決める必要があります。
なお、AさんとBさんが離婚する場合は、この項目は特に記載する必要はありません。
(7)守秘義務
BさんとCさんが不倫関係にあったことを第三者に口外したり、ネットなどに書き込んだりする行為は違法です。こうしたことを理解していない人は意外と多いので、示談書に明記しておきます。
(8)清算事項(債権債務の不存在事項)
「清算事項」とは「示談書に記載した以外、お互いに債権・債務はない」ということです。不倫の示談書は「不倫問題はこれで決着した」という証拠のために作成しておくものなので、清算事項を書いておくことは大切なポイントです。
(9)文末
最後に示談書の作成枚数や保管方法などを記し、最後に日付とAさんとCさんの署名・押印を入れておきましょう。
不倫の示談書を作るうえでの注意点
先に述べた内容を踏まえて、不倫の示談書を自分で作ることは可能です。ネットなどには示談書の書き方例もたくさん掲載されています。しかし、注意すべき点がいくつかあります。
(1)示談書は相手ではなく自分が用意する
示談書の作成は、相手にまかせずご自身が行いましょう。相手が書類を作成すると、ご自身の要求を正確に記載しない可能性があるからです。ですので、ご自身で示談書を用意して、相手に署名・押印してもらいましょう。
(2)示談書の内容はテンプレートどおりには書けない
不倫にはさまざまなケースがあり、たとえば配偶者の不倫相手に不倫という認識がなかった(つまり、配偶者が既婚者であると知らなかった)り、相手にも配偶者がいたりとその内容は多様です。ケースによって、示談書に盛り込む内容は変わってきます。また、慰謝料の金額も、個々の状況を考慮した上で決める必要があります。
(3)公序良俗に反する内容を記載しない
慰謝料の金額や誓約事項を決めるに当たり、内容に釣り合わない極端に高い額を要求したり、相手の人権を侵害するような内容を盛り込んだりしないように注意しましょう。公序良俗に反するものとして、たとえ当事者が合意をしていても無効とされます。
(4)過不足なく論理的な文章を書くこと
不倫の示談書を作成する目的は、不倫問題を解決し、示談後のトラブルを避けるとともに不倫の再発を防ぐことにあると先述しました。そのために、盛り込むべき内容を不足なく記載し、論理性を欠いた記述やあいまいな表現を排除する必要があります。
不倫の示談書を交わす方法・手順
不倫の示談書を交わす方法について解説します。配偶者や不倫相手と示談する際、いきなり示談書を送りつけるわけではありません。突然配偶者に書類を送ると、夫婦関係がさらに悪化する可能性があります。ですので、夫婦関係の改善を目指したい方は、これから解説する内容を確認しておきましょう。
(1)内容証明郵便を送付して示談交渉を行う
配偶者や不倫相手と示談したい場合、最初に内容証明郵便を送付します。内容証明郵便とは、日本郵政が「誰が、誰に、いつ、どんな内容の書類を送付したか」を証明してくれるサービスのことです。書類に記載する内容は以下のとおりです。
- 不貞行為の事実
- 不貞行為の違法性
- 要求内容
- 応じない場合の法的措置
内容証明郵便を送付すれば、相手にご自身の要求を伝えられるだけでなく、不倫慰謝料請求の時効を中断できます。まずは書類を送付して、相手の出方を見てみましょう。相手が要求に応じる場合は示談交渉を進めます。万が一、内容証明郵便を無視する場合は、法的措置の手続きを進めてください。
(2)示談書を2部用意する
配偶者や不倫相手との示談交渉が成立したら、示談書を2部用意しましょう。不倫相手だけでなく配偶者とも示談書を交わす場合は、書類を3部用意してください。用意する書類の部数は、交わす人数分用意しましょう。示談書を作成したら、以下の手順で完成させてください。
書類を重ねて左側をホッチキスでとじる
↓
ページの繋ぎ目に割印(契印)する
↓
用意した示談書同士を重ねて割印する
(3)示談書を郵送する
配偶者や不倫相手と顔を合わせたくない方は、示談書を郵送しましょう。相手が示談書に署名・押印して返送すれば、示談は成立です。相手から書類が送られてきたら、念のために記載内容を確認しておきましょう。
(4)示談書を自宅で保管する
相手から送られてきた示談書は、ご自身が自宅で保管します。相手が示談書の内容に違反した際必要になるので、破棄しないでください。すぐに持ち出せる場所に保管しておきましょう。
不倫示談書の内容に違反した場合の対処法
示談交渉成立後に、配偶者が示談書の内容に違反する可能性があります。示談書の内容に違反していることが判明した場合、書類に記載した違約金を要求できます。違約金の支払いを要求する手順は、以下のとおりです。
相手に違約金の支払いを直接要求する
↓
支払いがない場合は内容証明郵便を送る
↓
進展がない場合は調停や訴訟の手続きを行う
以上の手順で、相手に違約金の支払いを要求しましょう。先ほど「3.不倫の示談書に記載する9つの内容」の項目で解説したとおり、強制執行認諾約款付き公正証書を作成している場合は、訴訟を省略して強制執行ができます。強制執行の手続きを進める手順は、以下のとおりです。
債権差押命令申立書をネットでダウンロード・作成
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公正証書を作成した公証役場に行く
↓
送達・執行文付与の手続きを行う
↓
受け取った書類と債権差押命令申立書を管轄地方裁判所に提出
個人での対処が困難な場合は、弁護士に相談してみてください。弁護士は依頼者の代理人として、違約金の支払いを直接交渉できます。また、強制執行の手続きを代行してもらえるので、依頼を検討してみてください。
不倫の示談書を専門家に作ってもらうメリットとは
不倫の示談書を弁護士や行政書士などの専門家に作ってもらうメリットは、「4.不倫の示談書を作るうえでの注意点」で述べた注意点をクリアした示談書を作ってもらえることです。法律の専門知識がない人が3つの注意点をクリアする示談書を作成するのは、簡単なことではありません。
実際、一般の人が示談書を作ったものの、公序良俗に反する記載があったり、内容に不十分な点があったりして、法的に効力がない示談書になってしまうことがしばしばあります。また、不十分な示談書だったゆえに、あとからトラブルになることも多いです。
個別の事情に即した、法的効力のある示談書を作成するには、専門家に依頼した方が安心といえます。しかし、金銭的に難しいという人もいるでしょう。その場合は自分で書いて、専門家の添削を受けるという方法もあります。作成・添削ともに、価格は専門家によって異なります。なお、示談書の作成・添削は弁護士・行政書士の両方とも携わることができますが、示談交渉ができるのは弁護士だけです。注意しましょう。
まとめ
不倫を示談で解決したら、示談後のトラブルや不倫の再発を防止するために示談書を作成します。被害者と配偶者の不倫相手との間で示談書を取り交わす場合、不倫の事実内容や不倫相手の謝罪、慰謝料に関する取り決め、誓約事項などを記載しますが、個々のケースに応じて盛り込む内容はさまざまです。
示談書を作成する際には、公序良俗に反しないように留意するほか、論理的な矛盾や過不足のない文書を作成する必要があります。法律的な知識が必要となるため、一般の人が自力で作成するには現実的にはかなりのハードルがあります。弁護士や行政書士のアドバイスを受けたり、作成を依頼したりすることをおすすめします。