不倫裁判の流れや手順|不貞和解金を得るメリットや会社にバレるデメリット
夫(妻)の不倫が発覚した際、配偶者や不倫相手に慰謝料を請求できないか?と考える方は少なくないでしょう。
しかし、慰謝料を請求しても、相手が素直に慰謝料を支払うとは限りません。
相手が慰謝料の支払いに応じない場合に、強制的に慰謝料を支払わせるには、裁判をする必要があります。
逆に、慰謝料を請求されたけれど、身に覚えがないので無視していたら裁判を起こされたという場合もあります。
多くの方にとって裁判はなじみがないものであり、どれぐらい時間や費用がかかるのか、どのように進めればいいのかなどといった悩みを抱えることになるでしょう。
本ページでは不倫裁判について、したい側、された側それぞれの疑問に答えるようくわしく解説します。
不倫裁判の流れ
(1)訴えの提起
慰謝料を請求する側が、裁判所に訴える内容を記載した「訴状」という書類を、持参または郵送して提出します。訴状を受け取った裁判所は、訴状の審査をします。
これは、形式的な要件を満たしているかを審査するもので、訴状の記載内容が真実かを審査するわけではありません。
審査の結果、形式的な要件をみたしていると認められれば、裁判所は、第1回口頭弁論期日を指定し、訴状と期日の呼出状を訴えられた人に送付します。慰謝料請求のような不倫裁判の類型を「民事裁判」といいますが、民事裁判では訴えた人を「原告(げんこく)」、訴えられた人を「被告(ひこく)」と呼びます。
第1回口頭弁論期日は、補正等に時間がかからない限り、おおむね訴状の受付から1か月~1か月半後になります。
被告は、訴状に対する認否や被告の主張を記載した「答弁書」を提出します。答弁書の提出期限は、第1回口頭弁論期日の1週間前とされるのが一般的です。
つまり、訴えたい側は、慰謝料請求など不倫裁判をおこす書類を裁判所に出し、訴えられた側はそれに対する回答を1週間以内に提出する流れとなります。
(2)期日の指定と裁判所への呼び出し
裁判所は、平日の日中に裁判の日にちを指定します。この裁判の日にちを「期日」と言います。原告と被告は、第一回口頭弁論期日に指定された日時に、裁判所に出廷します。
ただし、第一回期日は不倫相手である被告の都合を聞かずに指定されるので、被告側は「答弁書」を提出して裁判の期日を欠席することが許されています。実務では、被告が初回期日を欠席するのが大半なので、実質的な裁判が始まるのは第二回期日以降です。
平日の昼間に裁判に出ることが難しい場合は、弁護士に頼めば代理人として出廷してもらえるので、ご自身が裁判所に出向かなくてよくなります。
(3)口頭弁論・弁論準備
裁判の期日は、1か月~2か月の間隔で行われ、一方が主張したことについて、次の期日にもう一方が反論と証拠提出をするという流れで行うのが通常です。勝手に期日を欠席し、反論しなければ、相手の言い分を認めたということになるので注意が必要です。
1~2回ほど口頭弁論を行ったあと、当事者の主張と証拠を整理し、争点を明らかにするため、弁論準備手続という手続に移行するのが一般的です。
(4)裁判所からの和解案
慰謝料を請求する不倫裁判のケースでは、徹底的に争って判決まで至るというケースは少なく、口頭弁論・弁論準備を経て当事者の主張や証拠がある程度出そろった段階で、裁判所から「和解」による解決ができないかと提案される場合がほとんどです。
裁判所が間に入って話し合いを行い、合意に至った場合には、裁判所が合意内容をまとめた和解調書を作成し、裁判は終わります。
和解調書は確定した判決と同様の効力があるので、和解成立後に覆すことは基本的にできません。また、相手が和解で約束した義務を履行しない場合、和解調書の最後に「強制執行できる」といった内容(「執行文」といいます)が記載されていれば、差押さえなどの強制執行をすることができます。執行文を付与してもらうには、和解した裁判所に申請することが必要です。
(5)証人尋問・本人尋問
(4)の和解で合意ができない場合、証人尋問や本人尋問を行います。原告、被告どちらの主張が正しいのか、書類だけでは判断できないことも多いので、直接証人や当事者双方から話を聞く機会が設けられているのです。
証人尋問・本人尋問後、再度裁判所から和解ができないかと提案される場合もあります。
(6)判決
和解ができない場合、裁判所は、それまでにあらわれた一切の事情をもとに判決を下します。
慰謝料の支払いを認める場合には、「被告は、原告に対し、金○○円を支払え」、認めない場合には「原告の請求を棄却する」といった内容になります。
(7)敗訴や不満がある場合の上訴
判決は裁判所の判断を示すもので、少なくとも当事者の一方が、場合によっては当事者の双方が判決内容に不満を抱くことになります。後者の例は、慰謝料の支払いは認められたが、額に不満があるような場合です。
判決に不満がある場合には、上級の裁判所に再度審理を申し立てることができます。これを「上訴」といいます。中でも、特に第一審の判決を不服として、高等裁判所に上訴することを「控訴」といいます。
再度審理を申し立てることができる期間を「控訴期間」といいます。控訴期間は、判決が送達された日の翌日から2週間以内とされており、この期間に控訴しなければ、判決が確定します。
不倫裁判の期間や費用等はどのくらい?
(1)不倫裁判にかかる期間
前述したとおり、訴状を提出してから第1回口頭弁論が開かれるまで、1~1か月半はかかります。その後は、おおむね月に1回程度、弁論期日又は弁論準備手続期日が指定されます。
ただし、証人尋問・本人尋問はまとまった時間が必要になるので、裁判所の都合や、当事者が弁護士に代理人を依頼した場合はその弁護士の都合などで、それ以上の間隔があくこともあります。
このようにみると、不倫裁判で最終的に判決をもらう場合、1年以上かかることは覚悟しなければならないといえます。
(2)不倫裁判を起こすタイミングと時効
不倫の慰謝料を請求する権利には3年の消滅時効があります(民法724条)。消滅時効にかかると、それ以降は請求することはできません。
ですから、遅くとも時効が完成する前に訴えを提起する必要があります。
時効完成前であれば、法律上はいつ訴えを提起しても構いません。
ただし、時間が経過すると、証拠が物理的になくなってしまう、証人の記憶があいまいになる、証人と連絡が取れなくなるといった証拠が散逸する可能性が高くなってしまいます。
そのため、必要な準備が整い次第、訴えを提起するのが望ましいといえます。具体的には、不倫相手に慰謝料を請求する場合は、不倫相手の氏名や所在が特定でき、不倫(不貞行為)の証拠を集めたらできるだけ早く慰謝料請求をすることをお勧めします。
(3)不倫裁判で必要な費用の目安
不倫裁判で慰謝料を請求する際には、一定の費用がかかります。訴えの提起時に、裁判所に、訴状のほかに、請求内容に応じた収入印紙と、文書を送付するための郵便切手を納付する必要があります。
慰謝料請求のように金銭の支払いを請求する裁判の場合、請求金額で印紙の額が決まります。
たとえば、請求額が100万円であれば印紙は1万円、200万円の場合は1万5000円、300万円の場合は2万円となります。
郵便切手はおおむね数千円分ですが、裁判所によって異なりますので、事前に電話などで確認しておくといいでしょう。
なお、裁判で原告の慰謝料請求が認められると「訴訟費用は被告の負担とする」という判決が出ます。逆に慰謝料請求が認められず原告が敗訴した場合は「訴訟費用は原告の負担とする」という判決が出ます。この訴訟費用とは訴訟にかかる印紙代等のことです。裁判で勝っても、弁護士費用までは相手に請求できません。
(4)弁護士をつける必要があるのか?
民事裁判は書面のやり取りが中心です。
裁判所側が時間をかけてじっくりと口頭で話を聞いてくれるわけではありません。
そのため、どのような書面を提出するかが非常に重要になります。
しかし、ほとんどの方は、裁判所に提出する書面を作成した経験などなく、どのような書面を提出すればいいかわからないというのが実情でしょう。
ですから、裁判を起こす場合も起こされた場合も、専門家である弁護士つけることをお勧めします。
ただし、弁護士に依頼した場合は、(4)の裁判所に納める費用のほか、弁護士費用が必要になります。
不倫裁判で慰謝料や離婚を請求したい場合に知っておくべきこと
(1)慰謝料請求できる相手は配偶者と不倫・浮気相手
不倫は、配偶者がひとりでするものではなく、配偶者と不倫相手が共同でした不法行為(共同不法行為)ととらえることができます。
そのため、不倫相手に不倫をしたことについて故意または過失が認められる場合には、不倫相手にも慰謝料を請求することができるのです。故意とは、既婚者と知ってわざと不倫をしたこと、過失とは既婚者だと簡単に気付けたのに不注意で気付かなかったことをいいます。
この場合、配偶者と不倫相手は、連帯して慰謝料の支払い義務を負うことになります。
(2)不倫裁判前に集めておくべき不貞の証拠
不倫の慰謝料を請求する裁判では、慰謝料を請求する原告(不倫をされた側)が、配偶者が不倫をしたことを原告(不倫をされた側)が証明しなければなりません。
証拠が不十分で証明できないときは、慰謝料の請求が認められません。
したがって、訴えを提起する前に、不倫に関する証拠を集めておく必要があります。
ここでいう不倫に関する証拠とは、「不貞行為があったこと」、つまり配偶者と不倫相手との間に性的関係があったことを推認させる証拠をいいます。配偶者と不倫相手がラブホテルに入る写真などが典型例です。
また、不倫相手に対しても慰謝料を請求する場合には、不倫相手の故意または過失についての証拠が必要になります。たとえば、配偶者が既婚者であることを認識しているメールやSNSなどが考えられます。
(3)不倫慰謝料の相場と慰謝料を増額させる理由とは
裁判で認められる慰謝料の額は、100~500万円の範囲内である場合がほとんどです。
不倫が原因で別居や離婚に至った場合は100~500万円、別居や離婚に至らなかった場合は50~200万円程度というのが慰謝料の相場といえますが、かなり幅のある数字になっています。
ですから、相場の範囲内でできる限り高額の慰謝料を獲得するには、次のような慰謝料を増額させる事情を積極的に主張立証する必要があります。
- 不倫の期間が長さ、回数が多い
- 不倫によって別居や離婚に至った
- 婚姻期間が長い
- 配偶者の収入、資産が多い
- 子どもがいる
など
(4)早期解決で慰謝料の踏み倒しを避けるための請求方法
不倫の慰謝料請求を考えている方の中には、不倫をした配偶者や不倫相手が許せないので、1円でも多く慰謝料を取りたいという方も少なくありません。
中には、さきほど解説した相場からかけ離れた額を請求しようとする方もいらっしゃいます。
たしかに、慰謝料には計算式があるわけではないので、相場からかけ離れた額を請求する訴えを提起することは可能です。
しかし、裁判所に納める印紙は請求額が増えるほど高額になるので、認められる見込みのない高額な請求をすると、印紙代が無駄になってしまいます。
また、相場から大きくかけ離れた請求をすると、和解で合意ができず、判決まで争う可能性が高くなります。和解の場合は双方納得した金額で合意しますが、判決の場合は、 時間がかかるだけでなく、希望より少ない相場の範囲内の慰謝料しか認められない可能性もあります。
このようにみると、過大な請求をすることは、実益がないと言わざるを得ません。
配偶者や不倫相手が許せないというお気持ちはわかりますが、裁判をする場合は冷静になり、過大な要求はしないことが望ましいと言えます。
不倫裁判で不貞慰謝料を請求された場合の対処方法
(1)裁判所からの訴状を無視すると敗訴につながる
裁判所から不倫裁判の訴状が届いた場合、絶対に無視してはいけません。
もし、裁判所に答弁書を提出せず、かつ第1回口頭弁論期日に裁判所に出廷しなかった場合、原告の請求を争わないものと扱われてしまうからです。
民事裁判では、被告が原告の請求を争わない場合、基本的に原告の請求どおりの判決が下されます。そのため、実際は不倫していない場合でも、慰謝料を払わなければならなくなります。
(2)請求された内容と証拠の有無を確認する
①事実関係に間違いがないか
訴状の記載はあくまで原告の主張にすぎません。
したがって、記載内容が事実であるとは限りません。
ですから、まず、訴状に記載された事実関係に間違いがないかを確認する必要があります。
②証拠はあるのか
訴状の提出に合わせて、訴状に記載した主張を裏付けるための証拠を提出するのが一般的です。訴状に合わせて提出された証拠は、訴状と一緒に被告に送付されます。
そこで、原告の提出した証拠が、不倫慰謝料請求の根拠となる、性的関係があったことを推認させるようなものであるかを確認する必要があります。
③請求額が相当なものか
不倫の事実があったとしても、請求された慰謝料の額が相場に比べて過大である場合もあります。
請求額が、3.(3)の相場に照らして相当なものかを確認する必要があります。
(3)慰謝料の支払拒否や減額を希望する場合は弁護士に依頼を
請求内容を確認した結果、不倫の事実がないので支払いを拒否したい場合、あるいは不倫の事実は認めるけれど請求額が高すぎるので減額を交渉したい場合もあるでしょう。
裁判で支払の拒否(請求の棄却)や減額(請求の一部棄却)を勝ち取るためには、適切な反論や証拠を提出する必要があります。
しかし、専門的知識がなければ、どのような反論や証拠を提出していいか判断することは難しいのではないでしょうか。
ですから、支払の拒否や減額を希望する場合は、費用をかけてでも弁護士に依頼することが望ましいといえます。
不倫裁判を起こすメリット・デメリット
(1)不倫裁判を起こすメリット
①適正な不倫慰謝料額で解決できる
不倫裁判を起こすメリットとしては、適正な不倫慰謝料額で解決できる点があります。
不倫裁判を起こして慰謝料を請求すれば、判決に至らなくても、裁判所が間に立って双方の意見を聞いたうえで和解案を提示してくれるので、ご本人が納得できる金額の慰謝料で相手方と合意することができます。また、和解がまとまらずに判決に至った場合でも、客観的な判断で慰謝料の支払いを命じてくれるので、最終的に適正な慰謝料額で不倫問題を解決することができます。
②不誠実な浮気相手を出廷させて責任を追及できる
不倫をした当事者の中には、不合理な嘘をついて不倫を否定したり、開き直って不倫関係を継続したり、不倫慰謝料を払うと言いながらいつまでも払わない不誠実な人もいます。
不倫裁判を起こせば、訴えられた被告側は、何らかのアクションを起こさなければ敗訴が決定します。中には弁護士を立てて表に出てこない不倫相手もいますが、少なくとも不貞行為の事実を認めるか、悪質性は認められるかといった点について対応する必要があります。
したがって、不倫裁判を起こせば、不誠実な不倫相手の責任を、裁判の場で追及できるメリットがあります。
③裁判の判決文があれば強制執行できる
不倫裁判で、慰謝料の支払いを命じるという勝訴判決を得れば、不倫相手がなお慰謝料の支払いに応じない場合は、相手の財産に強制執行をかけることができます(民事執行法22条1号)。強制執行とは、裁判所などが相手の不動産や貴金属、預貯金などの財産を差し押さえて換金し、その中から慰謝料分を受け取ることができる制度です。
このように、確定した判決文があれば、相手が慰謝料を支払わなくても泣き寝入りせずに済むというメリットがあります。
④弁護士に依頼すれば出廷しなくて済む
不倫裁判を起こしたいけれど、仕事を休めないので平日裁判所に行けないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、弁護士に依頼すれば、代理人として裁判に出てもらえるので、ご自身は出廷する必要がありません。また、面倒な書類の作成などもすべて任せることができるので、ご自身の日常生活への負担をできるだけかけずに、裁判を起こすことが可能です。
(2)不倫裁判を起こすデメリット
①不倫裁判が会社や第三者にバレるおそれがある
裁判所の構内には、その日に行われる裁判の当事者、事件名を記載した開廷票が張り出されています。口頭弁論は公開の法廷で行われるので、誰でも傍聴することができます(憲法82条)。そのため、偶然、知人などが目にする可能性が全くないとは言えません。
また、裁判所は、原告が提出した訴状の副本を、被告の住所地に送ります。住所がわからないときなどは、勤務先の住所地に送ることもできます。
そのため、裁判を起こされたことを同居の家族や勤務先に知られるおそれがあります。
このように、裁判をしていることが第三者に知られてしまうおそれがあるデメリットがあることに注意が必要です。
②不倫裁判の記録が残るおそれがある
慰謝料請求の不倫裁判を含む民事裁判の場合、最高裁判所の規定で、裁判の記録は判決が確定した後5年間、一審の裁判所に保存されます。また、判決文は別に保存されます。
このような民事裁判の記録は、裁判の公開の原則を徹底するため、誰でも閲覧できることになっています(民事訴訟法91条1項)。原告と被告の名前が分かれば、裁判所の事務官が事件番号を調べて教えてくれるので、記録閲覧室で閲覧したり、当事者や利害関係人であれば訴訟記録のコピーを請求することもできます。
一般人の不倫裁判が閲覧されることは稀ですが、記録が残り閲覧できることが気になる方にはデメリットとなりうる点です。
③敗訴したら訴訟費用を払うおそれがある
不倫裁判では、裁判所に納める印紙代などがかかります。また、2(3)でご説明したように、敗訴した場合は相手方の印紙代も払わなければならないのが通常です。
さらに、裁判所に納める費用以外にも費用がかかることがあります。
代表的なものとしては、裁判を弁護士に依頼した場合の費用や、証拠集めを興信所に依頼した場合の費用などです。
前述したように、慰謝料の相場は100~500万円です。
慰謝料を増額させる事情があまりないような事案では、費用倒れになるおそれがないとはいえません。
また、費用倒れとまではいかなくとも、裁判には1年以上の時間がかかることは想定しなければなりません。
このように、費用対効果を考えたうえで、裁判をするか、裁判になっても早期に和解で解決するかなどを検討する必要があります。
④慰謝料を踏み倒されないための対応がいる
不倫裁判で慰謝料を支払う内容の和解をするか、慰謝料の支払いを命じる判決が確定した場合、任意の支払いがなければ差押えなどの強制執行をすることができます。
ただし、確実に支払いを受けられるとまではいえません。強制執行をするには、執行の対象を特定する必要があります。
つまり、相手に財産があり、財産があることを把握できている場合に強制執行ができるということです。
したがって、相手に全く財産がないとか、相手に財産があるかわからないという場合、強制執行をして強制的に回収することはできないのです。
不倫裁判を起こせない8つの場合
配偶者が不倫したことは間違いない場合でも、不倫裁判ができないときもあります。
以下、場合を分けて解説します。
(1)配偶者にも不倫相手にも裁判を起こせない場合
①婚姻関係が破たんしていた場合
夫婦仲が悪くなって長期間別居した後に不倫をした場合など、婚姻関係が破綻した後に不倫をした場合には、特段の事情がない限り慰謝料を請求することはできません。
②法的に結婚していない場合
不倫慰謝料は、婚姻関係にある夫婦は、お互いの配偶者以外の異性と性交渉をしないという貞操義務に違反し、平和な夫婦関係を壊して精神的苦痛を与えたことを理由に請求できます。そのため、法的に結婚していない夫婦の場合は、結婚同様の生活をしている内縁関係の場合を除き、慰謝料は請求できません。
③不貞行為がなかった場合
不倫慰謝料請求は、上記のように貞操義務の違反、つまり性交渉があったことが必要です。ですから、キスやデートがあっただけでは、原則として慰謝料請求はできません。
性交渉がなくても、親密な関係によって平和な夫婦関係が壊されれば慰謝料請求できる場合もありますが、例外的なケースと言えます。
④むりやり性的関係を持っていた場合
不倫慰謝料を請求するには、配偶者と不倫相手の性交渉が自由意思で行われたことが必要です。配偶者の側が無理やり関係を持ったような場合は、不倫慰謝料の請求ができないどころか、強制性交等罪(刑法177条)等で配偶者が訴えらえる可能性があります。
⑤時効が完成した場合
不倫の慰謝料請求には3年の消滅時効があります。
したがって、すでに時効が完成している場合には、裁判をする意味がありません。
なお、厳密にいえば、時効の効果が発生するには、時効の援用(時効の利益を受ける者が時効によって権利を失う者に対し、時効の利益を受けることを表示する行為)が必要です。
したがって、時効期間が経過したあとでも裁判を起こすこと自体は可能で、被告が時効の援用をしなければ勝訴することができるのです。
しかし、不倫をした配偶者や不倫相手が時効の援用をせずに慰謝料の支払いに応じることはまず期待できないでしょう。ですから、すでに時効が完成している場合には、慰謝料請求は現実的には難しいと考えてください。
(2)不倫相手に裁判できない場合
①すでに相当な慰謝料の支払いを受けている場合
前述したとおり、不倫は配偶者と不倫相手による共同不法行為で、配偶者と不倫相手は連帯して損害賠償義務を負います。
この場合、合計で200万の慰謝料(損害賠償)を請求し、既に配偶者から200万円全額の支払いを受けていれば、さらに100万円や200万円の慰謝料を不倫相手に請求することはできません。
つまり、不倫慰謝料の二重取りはできず、すでに配偶者から不倫について相当な慰謝料を受け取っていた場合、さらに不倫相手に対して不倫裁判をすることはできません。
②不倫相手に故意過失がない場合
不倫が不法行為であるとすると、加害者に故意または過失があったことが必要になります。
そのため、不倫相手に故意も過失もない場合には、不倫相手に対して慰謝料を請求することはできないのです。
したがって、たとえば、出会い系サイトで知り合って一度だけ関係を持った場合や、配偶者が既婚者であることを徹底して隠していた場合のように、不倫相手が配偶者が既婚者であることを知らず、知らなかったことに落ち度もないときは、故意も過失もなく、慰謝料を請求することは難しいでしょう。
③ダブル不倫の場合は請求に注意
不倫相手は独身であるとは限りません。
不倫相手にも配偶者がいる場合(いわゆるダブル不倫)もあります。この場合は、不倫相手が独身の場合とは別の注意が必要になります。
配偶者の不倫が発覚した場合、離婚をすることもありますが、夫婦関係の修復をめざすこともあります。後者の場合には、ダブル不倫の相手方への慰謝料請求は避ける方が無難です。
というのも、不倫相手の配偶者も、あなたの配偶者に対して慰謝料を請求することができるからです。
あなたが不倫相手から慰謝料を勝ち取っても、不倫相手の配偶者はあなたの配偶者から慰謝料を支払わせることができます。
そうなると、夫婦関係を修復する場合には、あなたと配偶者の家庭全体をみれば、プラスマイナスゼロ、あるいはマイナスになってしまい、裁判をするメリットがないということになりかねないのです。
まとめ
本ページでは不倫裁判について詳しく解説しました。
実際に不倫裁判をする場合、あるいはされた場合には、専門的知識がないと適切な対応ができないので、弁護士に依頼をすることをお勧めします。
当サイトでは不倫裁判の経験豊富な弁護士を紹介していますので、参考にしていただければ幸いです。