シングルマザーになり養育費を確実に請求したい際の方法と注意点
シングルマザーになってひとりで子どもを育てていくことになったとき、もっとも気になるのは子育てにかかる費用をどのように捻出するかということでしょう。自分が働くほかに、子どもの父親から養育費をもらいたいと考えるのは当然のことですが、厚生労働省の調査によれば、母子世帯で養育費の取決めをしているのは42.9%、養育費の支払いを現在も受けているのは24.3%にすぎません(厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査の結果 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188138.html)。
しかし、養育費はいわば子どもの権利ですから、養育費についてきちんと取決めをし、取決めをした通りの支払いがおこなわれるようにしなければなりません。そこで今回は、シングルマザーの養育費の請求方法や支払いが滞った場合の対処法を中心に、養育費以外の補助等についてもあわせて解説します。
養育費を請求できる場合
(1)離婚して親権者となった場合
配偶者と離婚をし、未成熟の子どもの親権者となった場合、親権者とならなかった元配偶者に対し、子どもの養育費を請求することができます。
(2)未婚でシングルマザーとなった場合
養育費は子どもの権利という側面がありますから、父母が婚姻関係にあったことは養育費の支払いの条件ではありません。ただし、未婚の場合、生まれた子どもは母の戸籍に入り、母の姓(氏)を名乗ることになり、何もしなければ父の欄は空白になります。これでは子どもの法律上の父が確定しませんので、このままで養育費を請求することはできません。したがって、まず子どもの父から認知を受けることが必要になります。認知によって法律上の父子関係が生じれば、法律上の父に対し養育費を請求できるのです。
養育費の相場
養育費の額は、基本的に親権者と被親権者双方の収入を比較して決められます。双方の合意によって養育費の額を決める場合は、どのような額で合意しても構いません。合意ができない場合には家庭裁判所の手続を利用することになりますが、家庭裁判所で養育費の額を決める場合、東京家裁・大阪家裁の裁判官が作成した養育費算定表が広く利用されており、
(http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/)
特別な事情のない限り、算定表の枠内で決められます。したがって、算定表の額が養育費の相場といえるでしょう。
たとえば、子どもが1人(0~14歳)の場合、算定表の表1を参照します。権利者が養育費をもらう権利がある者(親権者)、義務者が養育費を支払う義務を負う者(親権者でない親)のことです。仮に親権者である母の年収が100万円、親権者ではない父の年収が500万円とすると、養育費の額は両者の交差する4~6万円となります。
なお、算定表による算定では低額すぎるとして、日弁連(日本弁護士連合会)が平成28年11月15日、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」を発表しました。日弁連の方式によれば、従来の方式によりも養育費が高額になります。ただし、発表後それほど時間がたっていないので、従来の方式に代わって日弁連の方式が定着するかは、今後の裁判例の積み重ねを待たなければなりません。
養育費をできるだけ多くもらう方法
これまで解説したとおり、従来の算定方式およびそれに基づく算定表が養育費の相場となりますが、特別な事情があれば算定表による養育費の額は修正されます。特別な事情の代表的なものとしては、教育関係費、医療関係費があげられます。
(1)教育関係費
従来の算定方式およびそれに基づく算定表では、公立中学校・公立高校に関する学校教育費は考慮されていますが、それ以外は考慮されていません。そこで、私立の中学校や高校学校に進学した場合の費用や、塾や習い事の費用の分担が問題になることがあります。これらの費用については、義務者が承諾した場合は当然として、義務者が承諾していない場合であっても、義務者の収入・学歴・地位から、私立学校への進学や塾、習い事が不道理でない場合には、その費用は分担すべきと考えられています。
(2)医療関係費
医療関係費については、従来の算定方式でも標準的な額は考慮されています。標準的な額を超える医療費が実際にかかった場合には、標準額からの増額部分については、収入に応じて按分負担すべきとされています。
養育費以外のシングルマザーへの補助
(1)児童手当
中学校修了まで(15歳になって最初の3月31日まで)の子どもがいる家庭に支給される手当です。所得制限はありますが、ひとり親世帯に限らず、子どもがいる全ての世帯が対象になります。
(2)児童扶養手当
18歳になって最初の3月31日までの子どもがいるひとり親家庭(父子家庭、母子家庭)に支給される手当です。こちらも所得制限などの要件があります。名称は似ていますが、児童手当と児童扶養手当は別の制度です。ですから、それぞれの要件を満たす場合には。児童手当と児童扶養手当の両方をもらうことが可能です。
(3)住宅手当・家賃補助
国の制度ではありませんが、市区町村が独自にひとり親家庭に対し、賃料の負担を軽減するため、住宅手当・家賃補助などの名称で一定の補助をしていることがあります。制度の有無、要件、支給される額は自治体によって違いますので、詳細についてはご自身がお住いの、あるいは離婚後にお住みになる予定の自治体に問い合わせてください。
(4)ひとり親家庭の医療費助成
これも国ではなく自治体独自の制度ですが、ひとり親家庭の子どもの医療費について、健康保険でカバーされない自己負担を軽減するため、一定の補助を行っています。これも自治体によって内容が違いますので、詳細についてはご自身がお住いの、あるいは離婚後にお住みになる予定の自治体に問い合わせてください。
(5)生活保護
病気で働くことができない等の事情がある場合には、生活保護の申請をするという選択肢もあります。生活保護には医療扶助が含まれるので、無料で診察を受けることができるというメリットもあります。
養育費の支払いを拒否された場合の対処法
請求をしても養育費の支払いを拒否された場合、家庭裁判所に養育費の支払いを求める調停を申し立てます。調停では、家庭裁判所の調停委員に間に入ってもらい、話し合いをすることになります。通常、調停委員が算定表に基づく養育費の目安などを説明してくれますので、当事者だけで話し合いをするよりは合意ができる可能性が高くなります。養育費について合意ができれば、裁判所が合意された養育費の額や支払方法をまとめた調停調書を作成してくれますので、大切に保管しておきましょう。調停で合意ができない場合、調停は不成立となり、審判という手続に移行します。
審判では、裁判所が証拠に基づき、養育費の額を決めることができます。裁判所が養育費の額や支払方法などをまとめた審判書をいう文書を作成してくれますので、大切に保管しておきましょう。なお、未婚の場合、「養育費を請求できる場合」で解説したとおり、まず認知を受ける必要があります。相手方が任意に認知をしないときは、家庭裁判所の手続による強制認知を受けるという方法があります。
家庭裁判所の手続には、認知の調停と認知の訴訟がありますが、まず調停で話し合いをし、それでも合意ができない場合に初めて訴訟を提起することができるとされています(調停前置主義といいます)。ですから、まず認知を求める調停をし、調停で話し合いをすることになります。調停でも合意ができない場合、認知の訴訟を起こし、父子関係が認められるかについて裁判所に証拠に基づいて判断してもらうことになります。
養育費が支払われなくなった場合の対処法
まず、相手方に任意の方法で養育費を請求します。電話やメールなどで請求しても構いませんが、請求した証拠を残すため、郵便局の内容証明郵便(郵便局が相手方に送付した文書の写しを保管する制度)を利用するのが望ましいといえます。任意の方法で請求しても支払いをしない相手方に対しては、裁判所の手続を利用して強制的に養育費を支払わせる必要があります。
このとき、養育費の額や支払方法について、裁判所の調停調書・審判書・判決、支払いを怠ったときは直ちに強制執行に服する旨の条項(強制執行認諾約款)付きの公正証書で取決めをしていた場合、直ちに給料や預貯金口座の差押え等の強制執行が可能になります。これに対し、上記の文書がなく、口頭で約束したに過ぎない場合、あるいは自分たちで文書を作ったにすぎない場合には、まず裁判所で養育費の支払義務を確定する必要があるため、時間がかかってしまいます。ですから、裁判をせずに養育費の合意できた場合でも、公正証書を作っておくことをお勧めします。
まとめ
シングルマザーの養育費全般について解説しました。養育費の不払いは社会問題にもなっており、法改正も検討されていますが、いまだに法整備が追い付いていないのが現状です。子どもの生活を守るためには、養育費の不払いに自分で対応しなければなりません。自分だけでは不安だという方は、養育費の問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。