養育費の未払いの対処法と支払われない状況を予防する方法
離婚時に養育費のとりきめをしたにもかかわらず、養育費が約束どおりに支払われることは多くありません。厚生労働省の「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188138.html)によれば、離婚した父親から現在も養育費を受けているのは24.3%にすぎず、養育費の未払いは大きな社会問題になっています。
そこで今回は、養育費の未払いについて、対処法、防止法、時効の有無、弁護士に依頼する必要の有無など、全般的に解説したいと思います。
養育費の未払いが起きた場合の対処法
(1)相手方に督促する
まず、相手方に電話やメール、内容証明郵便(郵便局が写しを保管し、いつ、だれが、誰に対して、どのような内容の文書を送付したかを証明してくれる郵便)等で督促するのが一般的でしょう。相手方がうっかり振り込みを忘れていたり、多忙で振り込みに行けなかったりといった事情が原因で未払いになっている場合は、相手方に督促するだけで支払を受けられる可能性があります。
相手方への督促に効果がなかった場合の対処法は、養育費の支払いをどのように決めたかによって変わります。
(2)家庭裁判所で養育費を決めた場合
家庭裁判所の調停や審判で養育費を決めた場合、家庭裁判所が養育費の額や支払期日等を記載した調停調書または審判書という書類を作成してくれます。調停調書や審判書で定められた養育費が支払われなかった場合、養育費を受け取る権利のある者は、家庭裁判所に対して、「履行勧告」の申し出をすることができます。履行勧告とは、家庭裁判所が養育費の支払義務者に対し、決められた養育費を支払うよう勧告する制度です。
費用がかからないこと、家庭裁判所からの勧告であるため当事者が督促するよりは効果が期待できることというメリットがあります。ただし、あくまで勧告ですので、相手方が勧告に従わない場合に、養育費の支払いを強制する効力はありません。
履行勧告より効力の強い制度として、家庭裁判所の「履行命令」を申し出ることもできます。履行命令とは、家庭裁判所が調停や審判で決められた義務を履行するよう命じる手続で、正当な理由なく従わないときは10万円以下の過料という制裁を加えられる可能性があります。しかし、履行命令はあくまで過料という制裁を加えることで履行を確保しようとするものにすぎず、強制的に養育費を支払わせることはできません。
養育費を強制的に支払われる手段としては、「強制執行」があります。強制執行とは、調停や審判などで決められた権利を強制的に実現するための裁判所の手続をいいます。具体的には、給与や預貯金口座を差し押さえ、雇い主や銀行から直接支払いを受けるということが考えられます。このように、家庭裁判所の調停や審判で養育費を決めた場合、履行勧告、履行命令、強制執行という複数の対処法があります。
それぞれ効力が異なりますが、履行勧告がだめなら履行命令を、履行命令でもだめなら強制執行をというステップを踏まなければいけないわけではありません。相手方の対応から履行勧告や履行命令では硬貨が期待できないと予想される場合には、最初から強制執行をしてもいいのです。どの対処法をとるかはケースバイケースと言っていいでしょう。
(3)当事者間の話し合いで決めた場合
家庭裁判所の手続を利用せず当事者間の話し合いで養育費を決めた場合、家庭裁判所の履行勧告や履行命令を申し出ることはできません。具体的な対処法については、養育費についての取決めをした「公正証書」があるかないかで変わります。
公正証書は公証人が作成する文書ですが、調停調書や審判書と同様、債務名義にあたります。債務名義という言葉はなじみがないかもしれませんが、権利を公的に証明する文書のことで、それがあれば強制執行ができる文書と理解してください。したがって、公正証書を作っておけば、養育費の未払いがあった場合に強制執行をすることができます。
これに対して、公正証書を作らず、口約束や当事者間で覚書のようなものを作った場合、権利が公的に証明されたとはいえないので、口約束や当事者だけで作った文書では債務名義にはなりません。そのため、ただちに強制執行をすることはできないのです。このような場合は、まず家庭裁判所に養育費請求の調停を申し立て、調停調書などの債務名義を獲得する必要があります。債務名義を獲得した後の流れは、(2)のとおりです。
養育費の未払いを防止するには?
(1)協議で合意ができても公正証書を
「養育費の未払いが起きた場合の対処法」で解説したとおり、債務名義がないと一から家庭裁判所の手続を利用する必要があります。調停を申し立ててから第1回の調停期日までは1~2ヶ月ほどあり、その後は月に1回ほどの頻度で調停期日がもうけられます。したがって、債務名義を獲得するまでに何ヶ月もかかってしまう可能性も十分あります。
養育費が未払いで困っているのに何ヶ月もかかるのかと不満に思われる方もいらっしゃるでしょう。このような事態を防ぐため、離婚時に合意ができていても、公正証書を作っておくべきです。
(2)面会交流を認める
離婚した元夫(元妻)と子どもを会わせたくないという方は少なくありません。しかし、元夫(元妻)は、子どもに会わせてもらえないのに養育費だけ払わないといけないのかという不満を抱くことでしょう。養育費を払う側からすれば、子どもの成長を実感できてこそ養育費を払う気になるのです。
ですから、子どもへの虐待などが「離婚原因」の場合は別ですが、可能な限り子どもと元夫(元妻)との面会交流を認め、子どもと元夫(元妻)とのつながりを保っておく方が、養育費の支払いを続けさせるうえで効果的と言えます。
養育費の未払いは自分で請求できる?
「養育費の未払いが起きた場合の対処法」で解説したとおり、養育費の未払いに対する対処法には、状況別にいくつかの選択肢があり、難易度などもそれぞれ異なります。自分で督促するとか、履行勧告、履行命令の申し出をする場合は、それほど複雑な手続ではありませんので、自分ですることもじゅうぶん可能でしょう。
これに対して、強制執行の手続をする場合や、債務名義がないためまず調停を申し立てるような場合、裁判所にいろいろな書類を提出する必要があります。
これらの手続についても、文献やインターネットを調べて自分ですることは不可能とまではいえません。しかし、自分でやる場合には、書類の不備などで予想外に時間がかかってしまう恐れがあります。ですから、これらの場合には、専門家である弁護士に依頼した方が迅速かつ円滑に手続が進むと言えます。
養育費の未払いを弁護士に依頼した方がいい?
(1)依頼した方がいいケース
弁護士に依頼をした方がいいケースとして考えられるのは、次のようなケースです。
①債務名義がない場合
債務名義がない場合、まずこちらに有利な債務名義を獲得するところから始めなければなりません。「養育費の未払いは自分で請求できる?」で解説した事情からも、弁護士に依頼をした方がいいでしょう。
②養育費義務者が転居などにより所在不明の場合
養育費を支払う義務を負う元夫(元妻)の所在が分からなくなってしまった場合、家庭裁判所に履行勧告や履行命令をしてもらうことはできません。弁護士は、職務上請求といって、委任を受けた事件の処理に必要な場合には、第三者の戸籍や住民票等を取り寄せることができます。
ですから、弁護士に依頼をすれば元夫(元妻)の所在が判明し、養育費を請求することができる可能性があります。
③未払いが多額の場合
弁護士に依頼をすると、どうしても弁護士費用がかかってしまいます。未払いが少額の場合、弁護士費用を考えるとなかなか依頼に踏み切れないでしょう。逆に、長期間未払いが続いており、未払い額が多額になっている場合には、費用をかけてでも回収する実益があるでしょう。
(2)依頼した場合の弁護士費用の目安
現在、弁護士費用は自由化されており、弁護士と依頼者との協議で決めることになっています。そのため、いくらが相場とはなかなか言えないのですが、平成16年まで存在した旧日本弁護士連合会報酬等基準が、一応の目安になります。
旧基準によれば、未払いの養育費について弁護士に強制執行を依頼した場合、着手金と報酬は次のようになります。
- 依頼者の受ける経済的利益が300万円以下の場合
- 着手金:経済的利益(請求額)の4%、ただし最低5万円
- 報酬:経済的利益(回収額)の4%
未払い養育費に時効はある?
(1)協議で決めた場合
養育費を協議で決めた場合、毎月〇万円という支払方法を決めることが一般的です。このように、1年以内の一定の時期に一定の金銭等を支払わせる債権を「定期給付債権」といいます。民法上の債権の多くは10年の消滅時効がありますが、例外的に定期給付債権には5年で消滅時効に完成するとされています(民法169条)。
(2)裁判所で決めた場合
ただし、家庭裁判所の調停調書や審判書など、裁判所の作成する文書で養育費の支払いを決めた場合は、例外的に時効期間が10年になります。
(3)時効期間が経過すると絶対に支払ってもらえない?
消滅時効は、法律で定められた事項期間が経過すれば自動的に効果が生じるわけではありません。時効の効果を発生させるには、時効によって利益を受ける者が、時効の効果を受ける意思表示をすることが必要とされています。これを「時効援用」といいます。
したがって、時効期間が経過した後でも、元夫(元妻)に対して養育費を払うよう要求することは可能で、元夫(元妻)が時効を援用せずに支払いに応じた場合には、これを受けとることに法律上の問題はありません。
養育費未払いの場合の救済
(1)児童扶養手当との関係
離婚して母子家庭(父子家庭)になった場合に頼りになるのが、「児童扶養手当」です。児童扶養手当は、所得に応じて支給額が変わるのですが、所得を算定する際、支払を受けている養育費の8割を所得に含めることになっています。養育費をもらっていなければ計算上の所得が少なくなるので、児童扶養手当の計算上は有利になります。
(2)兵庫県明石市の取り組み
養育費の未払いに対するより直接的な公的救済として、自治体による養育費立て替え事業があげられます。
これは、兵庫県の明石市が平成30年11月からモデル事業を始めるもので、市が業務委託した保証会社が、養育費の不払い分を立て替えて支払い、養育費を払う義務のある親に対して立替分を請求するというものです。1年間実施したうえで本格導入の可否を検討することとされているので、本格導入されるか、他の自治体にも普及するかが注目されます。
参照元URL:離婚後のこども養育支援 ~養育費や面会交流について~
(https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/soudan_shitsu/kodomo-kyoiku/youikushien/youikushien.html)
まとめ
養育費の未払いについて全般的に解説しましたが、参考になったでしょうか。養育費の未払いに対する対処法は状況に応じてさまざまで、どのような対処法が効果的かはなかなか判断ができないかもしれません。養育費の未払いでお悩みの方は、まずは養育費の問題に詳しい弁護士に相談してみるといいでしょう。