母子手当(児童扶養手当)をもらうと養育費が減らされる?制度内容を詳しく解説
ひとり親世帯にとってはなくてはならない公的扶助の一つが、母子手当(児童扶養手当)です。
経済的に困窮しやすいひとり親とその子を助けるために、一定金額の給付金を受けることができます。
ところで、児童扶養手当を受け取っていることを知った元配偶者から「給付金を持っているのなら養育費減らしてもいいよね?」と連絡を受ける場合があります。
児童扶養手当を受け取っていると、養育費を減らされてしまうのでしょうか。
この記事では、母子手当(児童扶養手当)と養育費の関係について、以下のような内容を紹介していきます。
現在児童扶養手当を受け取っている方には役に立つ内容です。参考にしてください。
母子手当と養育費の支払い義務の関係
母子手当(児童扶養手当)と養育費は、どちらも子供の養育に対して支払われるお金であるという共通点があります。
では、児童扶養手当と養育費がどちらも支払われている場合、この二つにはどんな関係があるのでしょうか。
(1)母子手当はあくまで補助的性質の支援制度
結論から言うと、母子手当(児童扶養手当)による経済支援は、あくまで子供の養育を補助する性質のものです。
子供の扶養に対して主に責任を追っているのは、あくまで子供の親です。
そのため、補助的な役割である児童扶養手当をもらっているからといって、当然に養育費が減額されるということはありません。メインはあくまで私的扶助による扶養となります。
(2)養育費の受け取りによる母子手当の減額は考慮が必要
母子手当(児童扶養手当)の受給によって当然に養育費が減額されることはありません。
一方、養育費を受け取っていることによって児童扶養手当が減額されることはあります。
というのも、児童扶養手当は、受給条件として「所得が一定の金額を下回ること」と定めがあるからです。
基準となる金額は、親の所得に対して養育費の8割を足した金額で計算されます。
そのため、養育費の金額によっては「一部のみ支給」「支給不可」と判断されることがあります。
自動扶養手当の詳しい所得制限は後ほど紹介します。あわせて参考にしてください。
母子手当(児童扶養手当)とは
そもそも、母子手当(児童扶養手当)とは、どんな制度なのでしょうか。
この章では、児童扶養手当とはどのような内容の支援なのか、ポイントを一つずつ確認していきます。
(1)ひとり親とその子供を支援するための公的制度
母子手当(児童扶養手当)は、一人親とその子供を経済的に支援するための公的な給付金です。
一人親世帯は、両親が二人とも揃っている場合よりも経済的に困窮しやすいため、その分を行政から支援する、というのが主な趣旨です。
ひとり親世帯を支援するのが目的の制度のため、受給できるのはひとり親世帯と、ごく一部の家庭のみです。
(2)母子手当には所得制限がある
母子手当(児童扶養手当)は、ひとり親家庭であれば誰でももらえるわけではなく、一定の基準の所得制限があります。
また、受給を開始してから5年から7年が経過した際に、以下の一定の条件をクリアしていないと給付が一時停止する場合があります。
- 請求者が就業している
- 就業のめどが立っている
- 障害があり働けない
ひとり親家庭であれば、無条件に誰でももらえるわけではありませんので注意してください。
(3)所得制限と母子手当の受給金額
母子手当(児童扶養手当)の所得制限と、受給金額は以下の通りです。
扶養親族等の数 | 受給者本人の所得制限限度額 (母または父、養育者) |
扶養義務者の所得制限 | |
---|---|---|---|
全部支給 | 一部支給 | ||
0人 | 490,000円 | 1,920,000円 | 2,360,000円 |
1人 | 870,000円 | 2,300,000円 | 2,740,000円 |
2人 | 1,250,000円 | 2,680,000円 | 3,120,000円 |
3人以上 | 以下380,000円ずつ加算 |
所得は前年のものを基準として計算します。
なお「扶養親族の数」は、子供の人数だけでなく、親が扶養に入っている場合なども人数に加算されます。
母子手当(児童扶養手当)の申請方法と手続きの流れ
ひとり親にとって、児童扶養手当は子供の養育を支える大切な支援の一つです。
可能であれば早めに申し込んでおきたいところですが、どこでどうやって申請するのか分からない方もいるかもしれません。
ポイントを一つずつ見ていきましょう。
(1)申請の際に必要なもの
母子手当(児童扶養手当)の申請は、市区町村の窓口で行います。
この際、いくつか事前に準備しておかなければいけないものがあります。
ここでは、滋賀県大津市を例に挙げ、一般的な申請の際に必要になるものを確認してみましょう。
- 戸籍謄本(申請者と対象の児童のもの)
- 住民票(住民票の住所が申請先の市以外の場合)
- 賃貸契約署等(家の居住状況がわかるもの)
- 印鑑(シャチハタでないもの)
- 預金通帳
- 健康保険証(申請者と児童の分)
- 年金手帳
- マイナンバーがわかるもの(申請者・児童・扶養義務者のもの)
- 申請者の本人確認書類(写真付きのもの)
なお、具体的な必要書類は、申請者の状況によって変化する場合があります。
詳細は申請先の各市区町村の窓口までお問い合わせください。
(2)母子手当の支払い日
2020年現在、母子手当(児童扶養手当)は、奇数月の11日が支払い日となっています。
2020年の支払いカレンダーは以下の通りです。
支払い予定日 | 支給対象月 |
---|---|
2020年1月11日 | 11月から12月 |
2020年3月11日 | 1月から2月 |
2020年5月11日 | 3月から4月 |
2020年7月11日 | 5月から6月 |
2020年9月11日 | 7月から8月 |
2020年11月11日 | 9月から10月 |
※11日が土日祝日の場合は繰り上げ支給
なお、新規に申請した場合は申請月の翌月分から支給対象です。
(3)母子手当が申請できないケース
母子手当(児童扶養手当)は、ひとり親であれば誰でも申請できるわけではありません。
例えば、以下のような場合は申請対象外となります。
- 子供を請求者の再婚相手(事実婚も含む)が養育している
- 児童福祉施設に入っている場合
- 里親などに預けていて請求者が養育していない
- 請求者や子供が日本に住んでいない
- 請求者ではない方の親と児童が生計を同じくしている場合
申請を行う際は注意してください。
母子手当以外でひとり親家庭が利用できる支援制度
子供を育てるのにはお金がかかるものです。母子手当(児童扶養手当)を受け取っていても、経済的に苦しいというひとり親は決して珍しくありません。
少しでも生活を楽にするため、使える制度はどんどん使っていきましょう。
この章では、母子手当以外でひとり親家庭が利用できる公的支援を、以下の五種類紹介します。
- 児童手当
- 住宅手当
- 医療費助成制度
- 児童育成手当
- 障害児福祉手当
「これ、うちも利用できるかも?」という制度が見つかるかもしれません。
(1)児童手当
児童手当は、中学校卒業までの子供を扶養している場合に申請できる手当です。
母子手当(児童扶養手当)と同じく所得制限を設けられていますが、こちらはひとり親でなくても受給できます。
具体的な給付金は以下の通りです。
対象年齢 | 月額給付金額 |
---|---|
0歳から3歳未満 | 1万5千円 |
3歳から小学校卒業まで | 1万円(第三子以降は1万5千円) |
中学生 | 1万円 |
申請するには、現住所の各市町村窓口に「認定請求書」を提出する必要があります。
(2)住宅手当
住宅手当は、ひとり親家庭に対して、住居費の一部を支給する制度です。
国の制度ではく自治体独自のもののため、実施しているかはお住いの市区町村へ確認が必要となります。
例として、千葉県浦安市で実施している住宅手当の詳細を見てみましょう。
【支給条件】
- 20歳未満の児童を扶養しているひとり親であること
- 申請者自らの名義で賃貸住宅に月1万円以上の家賃を払っていること
- 所得が限度額以下であること
【所得限度額】
税法上の扶養親族などの数 | 本人の所得額 |
---|---|
0人 | 192万円 |
1人 | 230万円 |
2人 | 268万円 |
3人 | 306万円 |
4人 | 344万円 |
自治体によって類似した制度を用意しているところもあります。
また、家賃の支援はないが、公営団地に優先的に入居できるなど他の施策を用意しているという自治体もあります。
住居関連の支援がないか、居住している自治体に問い合わせてみても良いかもしれません。
(3)医療費助成制度
多くの自治体では、子供向けの医療費助成制度を導入しています。
これは、健康保険に加入している子供に対して、自己負担分を自治体が助成してくれるというものです。
一例として、大阪市が実施している助成制度を見てみましょう。
【助成内容】
医療費や訪問看護の利用料を一部大阪市が負担してくれます。1日の自己負担額は最大500円となり、院外処方の薬代の自己負担がなくなります。
自己負担額が一ヶ月2,500円を超過した場合は申請により超過分を返還してもらうことが可能です。
こちらの制度も所得制限があり、限度額を超えて所得がある場合は利用できません。
少子化が進行している観点から、子供の医療に力を入れている自治体は多いです。
利用していない場合、お住いの自治体に医療費の助成制度がないか確認してみましょう。
(4)児童育成手当
児童育成手当は、ひとり親や障害を抱えた親、障害を負った子を育てている親などを対象に、一定額を給付する制度です。
一例として、三鷹市の制度の内容を見てみましょう。
育成手当 | 障害手当 | |
---|---|---|
対象 | ・ひとり親 ・配偶者に重度の障害があるかつ18歳までの児童を養育している人 |
以下のいずれかの状態の20歳未満の児童を養育している ・身体障害者手帳1・2級程度 ・「愛の手帳」1から3度程度 ・脳性まひまたは進行性筋萎縮症 |
給付金額 | 対象児童1人あたり:月額13,500円 | 対象児童1人あたり:月額15,500円 |
児童育成手当も市町村や自治体の独自制度ですが、制度を用意している自治体は多くあります。該当の方は一度問い合わせてみても良いかもしれません。
(5)障害児福祉手当
障害児福祉手当は、国の支援制度の一つです。心身に重い障害のある20歳未満の方を対象に給付金が出ます。
具体的には、重度の障害を負っており、常時介護を必要とする人を対象に月額14,790円を支給されます。
重度障害のある児童限定ではありますが、生活の一助になる制度です。
養育費を払ってくれないときの対処法
母子手当(児童扶養手当)を受け取っていることなど、様々なことを理由に元配偶者が養育費の支払いを拒否することがあります。
このような場合、どうやって対処すれば良いのでしょうか。
この章では、一方的に養育費を不払いにされた場合の対処方法を紹介していきます。
(1)養育費の支払い拒否や減額交渉を受けることがある
母子手当(児童扶養手当)を受給しているからといって、当然に養育費を減額できるわけではありません。
しかし、元配偶者からの養育費の減額交渉を受ける可能性はあります。
というのも、養育費は両親の合意によって金額が決まるため、話し合いの結果しだいで増額も可能ですが減額もできるのです。
とはいえ、子供の養育に対する責任は、行政の扶助より親の養育が優先します。
もちろん、元配偶者の経済状況が悪化しているなど特別な事情があれば別です。
しかし、特に理由もなく「国の支援があるなら養育費は減らしても良いよね」という主張は筋違いと言えるでしょう。
親としての責任を放棄することになる、としっかり理解してもらう必要があります。
また、同意のない不払いや一方的な減額は明確なルール違反です。
悪質な場合は法的手段による回収も検討する必要があるでしょう。
(2)養育費は差し押さえによる回収が可能
養育費の一方的な不払いや支払いの遅延が続く場合、裁判所の手続きを経て強制執行(差し押さえ)が可能な場合もあります。
預貯金や勤め先からの給与など、元配偶者の資産から養育費を回収する方法です。
差し押さえに至るまでにはいくつか手続きを踏む必要があります。
代表的なのは以下の通りです。
- 養育費支払いの調停(裁判所の調停委員を交えた話し合い)
- 訴訟
- 事前に強制執行受諾の特約が付いた公正証書を作る
こういった手続きを通し、裁判所へ強制執行の申し立てを行うことができます。
それなりの時間と手間がかかるため個人で全て行うのは難しいですが、不払いの金額が大きい場合は弁護士に頼んで回収するのも一つの方法です。
(3)支払いに応じない場合は専門家への相談も視野に入れる
一方的に養育費の支払いを打ち切られ、一向に支払いに応じない場合は強制執行による回収も検討してみてください。
この場合、裁判所への各種手続きは弁護士に依頼するのが効率的です。
もちろん、裁判所の手続きなどは自分でもできます。
しかし、裁判所に提出する書類は内容が難解で様式も細かく、非常にややこしいです。
一つ一つ調べながら行うのはとても手間がかかります。仕事と子育てを並行しながら進めるのは相当骨が折れるでしょう。
不払いの金額がいくらかにもよりますが、金額が大きい場合は弁護士への依頼も検討してみてください。
場合によっては、元配偶者と一度も顔を合わせずに養育費を回収することも可能です。
まとめ
母子手当(児童扶養手当)は、ひとり親とその子を経済的に支えてくれる公的支援です。
ですが、子供の扶養に対する補助は行政より先にその親が義務を負います。
児童扶養手当を受け取ったことを理由に、当然に養育費を減額できるものではありません。
一方的な養育費の減額や不払いを受けた場合は、法的手段による回収も可能です。
「法律や裁判所の手続きなんて難しくて自信がない…」という人も、相談料と着手金無料の事務所に相談することもできます。
- 養育費を確実に回収することはできるのか
- 費用はどのくらいかかるのか
確実に効果が出ることを確認してから依頼を決めることができます。
「万が一の不払いの場合は法的に救済を受けることができる」もしもの場合に備えて、頭の片隅で覚えておくと役に立つかもしれません。