夫婦関係破綻の原因とは?法的定義と主張された場合の対処法
離婚問題では、しばしば「婚姻関係の破綻」「夫婦関係の破綻」といった言葉が現れます。
これまで離婚した夫婦は、どのような理由で夫婦関係が破綻したのでしょうか。
また、法的に「婚姻関係が破綻している」とはどのような状態なのでしょうか。
この記事では、統計から見た夫婦関係の破綻理由と、法的定義における夫婦関係の破綻に関して紹介します。
夫婦関係が破綻する原因は
夫婦が離婚を選び、夫婦関係が破綻するのにはさまざまな要因や背景が存在します。
実際に離婚を決めた夫婦が離婚を申し立てた理由を、裁判所の統計資料をもとにまとめてみました。
夫側、妻側がそれぞれどのような理由で離婚を申し立てているのか確認してみましょう。
(1)男性が離婚を申し立てる理由
裁判所が毎年作成している司法統計データによると、男性の離婚の申し立て理由とその件数は以下のとおりです。
データ出典元:家事 平成30年度司法統計:19 婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別|家庭裁判所
※「その他」「不詳」は除外しています。
離婚申し立ての理由として最も多いのは「性格が合わない」で、1年間に1万件以上と、突出して離婚の申し立て件数が多いです。
次に「精神的に虐待する」「異性関係」「家族親族と折り合いが悪い」が続く、という結果でした。
全体的な離婚の申し立て件数は男性より女性の方が大幅に多いです。
平成30年度の統計では夫からの申し立ては17,146件であるのに対し、妻側からの申し立ては46,756件と、夫からの申し立ての約2.8倍の件数でした。
(2)女性が離婚を申し立てる理由
同じ平成30年度調査で、妻側からの離婚の申し立て理由の分布は以下のようになりました。
データ出典元:家事 平成30年度司法統計:19 婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別|家庭裁判所
※「その他」「不詳」は除外しています。
男性と同じく「性格が合わない」が最も多い申し立て理由ですが、特徴的なのはそのほかの申し立て理由です。
夫側からの申し立てでは「性格が合わない」が突出して件数が多いのですが、妻側からの申し立ては2位以下が1位に肉迫する件数となっています。
2位以下の申し立て理由は「生活費を渡さない」「精神的に虐待する」「暴力を振るう」など、生活や肉体・精神に対する遺棄および虐待が続いています。
「異性関係」も件数としては6,000件を超過していますが、申立の数では5位に留まっています。
総合してみると、価値観や考え方の相違など、性格の相性で離婚を選ぶ夫婦が最も多いです。
一方、配偶者からの虐待やモラルハラスメント、異性関係も大きな割合を占めており、代表的な離婚理由の一つです。では、以上を踏まえ、法的解釈における「夫婦関係の破綻」に関して次項で確認してみましょう。
法的に「夫婦関係が破綻している」とはどのような状態?
「夫婦関係の破綻(婚姻関係の破綻)」は、裁判で離婚する際に離婚の可否を判断する基準の一つとされています。
裁判で離婚する条件として、民法では以下のように規定が設けられています。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
引用:民法七百七十条
婚姻関係の破綻はこの中の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当します。
では、具体的にどのような状況であれば婚姻を継続しがたいと認定されるのでしょうか。
(1)配偶者から身体的・精神的暴力がある
代表的なのは、配偶者からの暴力(DV)や、言葉による暴力(モラルハラスメント)があるときです。
日常的に体や心に対して暴力を受けている場合は、裁判でも離婚理由として認められることが多いです。
DVを理由に離婚したい場合、負傷箇所の写真や暴言のメッセージ、医師の診断書などを証拠として利用できます。
(2)性の不一致
性の不一致も、夫婦関係の悪化に大きく影響を及ぼすとされています。ここでいう性の不一致には、たとえば以下のようなものが挙げられます。
【性の不一致の例】
- 夫婦どちらかによる一方的なセックス拒否
- どちらかに異常な性癖がある(過度なSMプレイなど)
- 勃起不全など性交不能状態にある
日本の民法では、夫婦関係は「安定した環境で子を作り育てる基盤」の性質を持つと解釈されており、性の不一致も離婚理由として認められています。
なお加齢に伴う性欲の減衰など、お互いに不満のない状態で自然とセックスの頻度が減少するようなケースは、離婚事由として認められないとする見解が一般的です。
(3)長期間にわたり別居している
夫婦が長期間に渡り別居しており、夫婦としての実態が存在しない場合も、裁判で離婚を認める基準とされています。
夫婦関係が形骸化しているのであれば、強制的に継続させても意味がないためです。
なおここでいう別居には、出張や単身赴任など正当な理由がある別居は含まれません。
夫婦関係の悪化によりどちらかが家出し、その状態が数年間続いている場合などが対象です。
(4)互いに夫婦を続ける意思がない
夫婦どちらにも夫婦関係を継続する意思がないと認められる場合も、裁判で離婚が認められる可能性が高くなります。
家庭内別居や何年も没交渉であるケースなど、夫婦としての籍こそ残っているものの、ほとんど他人と同じような生活を送っている場合に該当します。
(5)配偶者に浪費癖がある
配偶者のどちらかに浪費癖があり、借金やギャンブルで家計に甚大な悪影響を及ぼしているケースも、離婚が認められやすくなります。
浪費癖を理由に離婚する場合、裁判ではギャンブルにつぎ込んだ金額や消費者金融の借り入れの記録などが分かる証拠を用意するのが望ましいです。
夫婦関係の破綻が認められる基準
実際に裁判や離婚に向けての話し合いを行なう場合、夫婦がどのような状態であれば、客観的に「夫婦関係の破綻」が認められるのでしょうか。
夫婦関係の破綻が認定される基準を見てみましょう。
(1)離婚に向けた別居の有無
先ほども少し触れましたが、離婚を目的としての別居の有無がポイントの一つとなります。
対象はあくまで離婚のための別居であり、親の介護や単身赴任・別居婚など、夫婦関係が円満な中での別居では、関係の破綻は認められません。
別居を理由に婚姻関係の破綻を主張する場合、別居期間の長さが判断基準の一つです。
どの程度別居していれば離婚が認められるかは判例によって見解が異なります。
通常は、婚姻期間の長さに対してどの程度の期間別居しているかを考慮します。
たとえば、20年連れ添った夫婦の場合、1年別居していても婚姻関係の破綻は認められないケースがあります。
一方、婚姻期間が2年間の夫婦であれば、1~2年間の別居でも夫婦関係の破綻が認められる可能性は十分にあるでしょう。
いずれにせよ、破綻の認定を受けるには最低でも1年以上の別居期間が必要という解釈が一般的です。
そのため、1週間前に家出して、別居を理由に夫婦関係の破綻を主張しても認められる可能性は限りなく低いといえます。
(2)過去に離婚協議があったかどうか
夫婦関係の悪化を判定するポイントとして、過去の離婚協議の有無も基準の一つとなります。
離婚協議をおこなったが現在まで婚姻関係が継続している場合は、夫婦関係の破綻が認められやすいでしょう。
(3)夫婦間の交流の有無
夫婦の間で交流があるかどうかも、客観的に夫婦関係の破綻の有無を判断する要素になります。
仮に同じ家で生活していても、まったく交流がない、いわゆる「仮面夫婦」「家庭内別居」状態だと、夫婦関係は破綻していると認定される可能性があります。
一方、家事を共同して行なっている場合や、食事を共にしたりデートをしたりしているケースでは「交流無し」とは認められません。
単に「男女としての交際がない」だけでは、夫婦関係が破綻しているとは認められにくいでしょう。
なお、夫婦間の交流の有無は、立証するための証拠の用意が難しい要素です。
そのため、離婚を希望するのであれば、別居した方が離婚協議や裁判の際は有利になることが多いです。
不倫交渉での婚姻関係の破綻の抗弁への対処
婚姻関係の破綻は、不倫トラブルで有責配偶者が慰謝料の支払いから逃れるための言い訳に使われることがあります。
慰謝料の請求に対し婚姻関係の破綻を主張することを「婚姻関係の破綻の抗弁」といいます。
事実と異なる婚姻関係の破綻を主張された際はどのように対処すればよいのでしょうか。
(1)婚姻関係の破綻は慰謝料請求を帳消しにできる
まず注意が必要なのですが、有責配偶者が不倫をする前に本当に婚姻関係が破綻している場合、慰謝料請求は無効になります。
そもそも婚姻関係が破綻しているのであれば、配偶者の不貞行為を理由とする精神的損害も発生しないと考えられるためです。
仮に慰謝料請求の裁判の場で婚姻関係の破綻が認定されると、慰謝料の支払いは受けられない可能性があります。
(2)存在しない関係の破綻は証明が難しい
前項の内容を見て「婚姻関係の破綻を主張されたら慰謝料を払ってもらえないのでは」と心配された方もいるかもしれませんね。
ただ、ほとんどの場合この心配は無用です。というのも、存在しない婚姻関係の破綻を証明するのは非常に困難だからです。
先ほども少し触れましたが、婚姻関係の破綻を裁判所に認めてもらうには「年単位に渡る別居」や「過去の離婚協議」などの事実を証明しなければなりません。
証明は破綻を主張した側が行わなければならず「存在しない夫婦関係の破綻」を証明するのは困難を極めます。そのため、苦し紛れの主張を恐れる必要はありません。
(3)婚姻関係が破綻していない証拠は?
それでも心配であれば、婚姻関係が破綻していなかったことを示す証拠を用意しましょう。
配偶者の不倫開始前に夫婦として交流があったことが認められればよいので、たとえば以下のようなものが証拠として利用できます。
【婚姻関係が継続していたことを示す証拠(一例)】
- 配偶者との日常のやりとり(メールやメッセージなど)
- 一緒に出掛けたときの写真
- 旅行の宿泊履歴など
夫婦として円満に生活していたことが分かるものであればよいので、難しく考える必要はありません。
夫婦関係の破綻を主張された場合、まずは落ち着いて証拠にできるものがないか確認してみましょう。
夫婦関係が破綻したら慰謝料を請求できる?
夫婦の関係が破綻していると、近いうちに離婚を検討するケースが多いでしょう。
夫婦関係が破綻し離婚する場合、配偶者に対して慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
離婚時の慰謝料について考えていきます。
(1)配偶者が原因で離婚する場合は請求可能
結論としては、配偶者のどちらかの行動が原因で夫婦関係が破綻して離婚に至った場合は慰謝料の請求が可能です。
たとえば、以下のようなケースは慰謝料の請求ができることがあります。
【夫婦関係が破綻し離婚の慰謝料を請求できるケース(一例)】
- 配偶者からモラルハラスメントや暴力を受けている
- 一方的にセックスを拒否され改善のための協力もない
- 配偶者がギャンブルに依存しており家計を圧迫した
このような事情でやむを得ず離婚に至る場合、慰謝料を請求できる場合があります。
一方で、性格の不一致が原因で何年も別居しており離婚に至ったケースなどは、慰謝料が発生しない場合も多いです。離婚する原因によって請求できるかどうかは変わります。
なお、ときおり「女性であれば無条件で離婚時に慰謝料を受け取れる」と考える方もいるのですが、こちらは誤りです。
妻側が有責であれば慰謝料を請求されることもあります。
(2)不倫が原因の場合慰謝料の相場は?
配偶者の不倫が原因で離婚に至るケースでは、不倫をした配偶者に慰謝料を請求することが可能です。
不倫による慰謝料の金額はかなり幅があるため、一概に相場を出すことが難しいです。
あくまで傾向ですが、おおむね100万円から300万円の間で収まる案件が多いといえます。
ただし、不倫の慰謝料は不倫の状況や相手の経済状況などを考慮し、総合的に判断されます。
婚姻期間が短いなど精神的苦痛が少ないと評価されれば100万円以下の金額で収まる場合もあるでしょう。
一方、浮気相手との間に子どもを作った場合など、不倫の態様が著しく酷いケースでは300万円超の金額になることもあります。
慰謝料の金額を左右するポイントに関しては以下の記事でも紹介しています。参考にしてください。
(3)請求の可否は弁護士に相談するのがおすすめ
離婚時に配偶者に慰謝料を請求できるかどうかは、法知識のない一般人では判断が難しい場合もあります。
特に離婚を検討する際、当事者は精神的に追い詰められていることも多く、慰謝料請求について客観的に判断できないケースも多いです。
このような場合、慰謝料の請求は弁護士に相談するのがおすすめです。
自分の場合は慰謝料の請求は可能なのか、可能であれば金額はいくらなのかを相談者に代わって評価してくれます。
また配偶者とトラブルになっており顔を合わせたくない場合などは、慰謝料の請求や離婚時の話し合いを代行してくれます。
弁護士を選ぶ際は、離婚や家庭問題の専門知識を備えた弁護士を選びましょう。
法律の専門家とはいえ全ての法律分野を網羅しているわけではなく、知識や経験が特定の分野に特化していることが多いためです。
離婚問題の解決実績が豊富かどうかを基準に事務所を探してみてください。
なお、近年は無料相談を実施している事務所も多いため、いくつかの事務所に相談してから依頼先を決めることもできます。
親身に相談に乗ってくれて、かつ自分と相性の良い弁護士を探してみてください。
まとめ
夫婦としての実態がなく夫婦関係が破綻している状態は、民法で認められている離婚事由の一つです。
事実、性格の不一致や配偶者からの肉体的・精神的暴力など、夫婦関係の破綻を理由に離婚を申し立てている夫婦は少なくありません。
裁判で夫婦関係の破綻を認定する際は、長期の別居の有無や過去の離婚協議の有無などが基準となります。
逆に言うと、これらの客観的な要素が証明できない場合、夫婦関係の破綻を主張しても認定を受けるのは難しいといえます。
慰謝料請求の際に婚姻関係破綻の主張をされても、虚偽であれば慌てる必要はありません。
夫婦のどちらかが原因で夫婦関係が破綻した場合、離婚時に慰謝料を請求できます。
ただし請求の可否はひとりでは判断できないこともあるので、離婚問題に長けた弁護士に相談することをおすすめします。