不貞行為の立証責任とは?証拠の集め方と相手の反論への対処法
不貞行為を行った配偶者や不倫相手に対しては、多くのケースで慰謝料を請求します。
このとき問題になるのが、不貞行為があったことを証明する「立証責任」の所在です。
不貞行為の立証はどのように行えばよいのでしょうか?
この記事では、不貞行為の証明における立証責任と反論時の対処法、有効な証拠の収集方法を紹介します。
不貞行為の立証責任とは?
不貞行為の立証責任とは、読んで字のごとく、不貞行為の証明をしなければならない責任のことです。
裁判で慰謝料を請求する際は必ず立証が必要となり、裁判まで発展しない場合もほとんどの場合証明を要求されます。
(1)裁判では慰謝料を請求する側に立証責任がある
日本の裁判におけるルールとして、権利や事実を主張する場合、主張する側に立証責任が発生します。
慰謝料問題で言えば、慰謝料を請求する側、すなわち不倫被害者に立証責任があります。
「不倫をした側が潔白を証明すべきでは?」と思う方もいるかもしれませんが、慰謝料を請求する場合は不貞行為の存在を被害者側が証明しなければなりません。
(2)不貞行為の立証は証拠の提出で行う
では、どのように不貞行為の存在を立証すればよいのでしょうか。
日本の裁判における事実の証明は、もっぱら証拠の提出によって裏付けを行います。
この証拠も何でもよいわけではなく、不倫問題であれば不貞行為の存在が客観的かつ明確に分かるものでなければなりません。
弱い証拠でも提出はできますが、裁判の場で相手方から主張を覆される可能性があります。
そのため、不貞行為の証拠は、その有無がひと目で分かるほど確実なものが望ましいです。
不貞行為の存在を立証できる証拠とは
不倫の証拠として使えそうなものはいくつか存在しますが、前述の「客観的かつ明確に証明できる証拠」はどのようなものなのでしょうか。
(1)肉体関係を示す証拠が必要
結論からいうと、不貞行為の存在を立証できる証拠は、配偶者と不倫相手の「肉体関係」を示す証拠です。というのも、慰謝料請求権の根拠となる不貞行為の定義が「自由意志に基づき肉体関係を結んだこと」だからです。
そのため「デートをしていた現場の写真」「キスの現場の動画」などでは、不貞行為の慰謝料を請求する証拠としては弱いといえます。
(2)裁判で証拠として利用できるものの例
では、具体的に肉体関係の裏付けとなる証拠として、どのようなものが考えられるのでしょうか。
不貞行為の証拠にできるのは、肉体関係の有無を証明、または推定できる内容のものです。
例えば、以下のようなものが当てはまります。
【裁判で不貞行為の証拠にできるもの(一例)】
- 不倫相手との肉体関係を匂わせるメッセージのやりとり
- ラブホテルに出入りしている写真や動画(複数回分)
- 探偵の作成した尾行結果の報告書
- 性行為中の動画や画像
- 不倫相手や配偶者の自白を録音したもの
そのほか、不倫の証拠に関しては以下の記事でも紹介しています。参考にしてください。
(3)違法に集めた証拠は無効とされる
不貞行為の証拠を集めるうえで注意しなければならないのが、違法な手段で集めた証拠は無効になるということです。
たとえ決定的な証拠であっても、収集方法によっては証拠能力を否定されることがあります。
たとえば、浮気相手の家に無断侵入して得た物証や、暴行・脅迫によって引き出した自白などは証拠として利用できません。
こういった方法を使うと証拠として利用できないだけでなく、逆に配偶者や不倫相手から訴えられるリスクが発生します。
場合によっては刑事罰の対象になることもあるでしょう。慰謝料請求を有利に進めるためにも、証拠の収集方法には注意してください。
なお配偶者のLINEメッセージやメールのコピーに関しては、不倫の調査として相当な範囲内であれば、証拠として利用可能と判断されることが多いです。詳細は後述します。
不貞行為を主張された相手のよくある反論と対処法
裁判で不倫による慰謝料を請求された場合、配偶者や不倫相手はさまざまな主張を行い慰謝料の請求を拒否しようとします。
相手方から反論された場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
不倫の裁判における「あるある反論例」を見てみましょう。
(1)既婚者だとは知らなかった
不倫相手からの反論でよく見られるものが「既婚者とは知らなかったので責任はない」というもの。
不倫の慰謝料請求の要件の一つに「既婚者と知った上で、自由意志で肉体関係を持つこと」が含まれるため、しばしばこの主張がなされます。
実は、この理由で慰謝料の支払いを免れるのはそう容易なことではありません。
既婚だと知らなかった場合でも、過失を認定されると慰謝料の支払いを命じられるためです。
この場合の過失とは「既婚者だと気付かなかったことに落ち度がない」ことを指します。
不倫では、不倫相手が配偶者の様子に注意を払っていれば不審な点に気付きやすいものです。
そのため、一定の期間の付き合いの不倫相手が無過失を主張しても否定されることが多いと言えます。
仮に不倫相手からこの主張が飛んできても慌てる必要はありません。
このケースでは、期間の長さを示す証拠や、配偶者からの証言を取ることで対処できるでしょう。
(2)誘われて応じただけなので責任はない
配偶者・不倫相手のどちらからも時折見られるのが「自分は誘われただけで、積極的に不倫をしていないので責任はない」という主張です。
基本的に、この主張に関しては対策を取る必要はありません。というのも「どちらから誘ったか」という要素は、慰謝料の支払い義務の有無には関係ないからです。
たとえ相手から積極的に不倫に誘ってきた場合でも、応じた時点で被害者の権利を侵害しています。
具体的な慰謝料の金額を決定する際に、積極性の有無が評価のポイントとなる場合はあります。
ただし「誘われただけだから慰謝料は払わない」という主張は通りません。
(3)夫婦関係は既に破綻している
慰謝料の支払いを拒否したい相手方から「夫婦関係が破綻しているので慰謝料は払わない」という主張がなされることもあります。
夫婦仲が悪化して既に実態がないため、慰謝料請求の根拠となる精神的苦痛も存在しない、という言い分ですね。
通常、夫婦関係の破綻が事実無根であれば慌てる必要はありません。夫婦関係の破綻を証明するのはかなりハードルが高いからです。
夫婦関係の破綻には「修復不可能なほど夫婦の関係性が崩壊している」ことが要件となり、以下のような基準で判断されます。
【夫婦関係の破綻を認定する基準(一例)】
- 別居期間の有無(年単位での別居が必要)
- 過去の離婚協議の有無
- 夫婦間の交流の有無
これらを裏付ける証拠を相手方が用意する必要があるため、思い付きで主張しても認められる可能性は低いといえます。
一方「破綻していない」証明は比較的容易で、一緒に外出した記録や旅行の写真などがあれば簡単に覆すことができるでしょう。
(4)無理やり迫られたので責任はない
配偶者や不倫相手が「無理やり迫られた」ことを理由に、慰謝料の支払いを拒否しようとするケースも見られます。この場合はどうでしょうか。
もし、不倫をした一方が他方に対し、職権による脅迫や暴力で無理やり関係を持った場合、慰謝料の請求は不可能な場合があります。
ただし、強要の度合いや迫られた側の対応によっても請求の可否は変化します。
例えば、脅迫や暴行を伴わず強引に迫られた場合、拒否できる程度の強要だと判断されれば、慰謝料を請求できることがあります。
また、当初は強要から始まった関係であっても、途中で心変わりしその後も長く関係を持っていた場合、慰謝料の請求を命じられる場合があります。
このケースでは、配偶者と不倫相手のやりとりや、交際期間の長さを示す証拠、配偶者からの証言などが証拠として活用できるでしょう。
(5)肉体関係はない
慰謝料請求は不倫の肉体関係を根拠とするので、デートはしていたが肉体関係はない場合、通常慰謝料の請求はできません。
そのため「食事をしていただけ」「デートをしていただけ」と主張されることもあります。
この反論をさせないために、慰謝料を請求する際は「肉体関係の存在の証拠」を複数抑えておくことが大切です。
「肉体関係を匂わせるメッセージとホテルの写真」「探偵の報告書とホテルの領収書」など、組み合わせて用意しておくことで、より説得力が高く言い逃れできない証拠となります。
もしも「ホテルに入っていった写真」など一種類しか用意できない場合「酔っぱらって介抱していただけ」などと反論される場合があります。
証拠が一種類しかないのであれば、複数回分集めておくことをおすすめします。
不貞行為の証拠を集める方法
裁判や話し合いで慰謝料請求を有利に進めるには、不貞行為の証拠を集めることが近道です。では、具体的に証拠の収集はどのように進めればよいのでしょうか。
(1)まずは身の回りやお金の流れを調べる
浮気をしているかどうかがそもそも曖昧な場合、まずは確証を掴むことが大切です。
配偶者の身の回りを調べ、情報を集めてみましょう。
財布やカバンの中、最近の不審な行動をチェックしてみましょう。例えば以下のようなものが入っていないでしょうか。
【配偶者の身の回りで見つかりやすい不倫の痕跡(一例)】
- 避妊具
- 配偶者の好みでない店のレシート
- 旅行雑誌
- 異性の毛髪
怪しい行動の痕跡がとくに如実に現れるのがお金の流れです。
不倫相手がいる場合、食事やプレゼントの購入でお金を使うことが多くなります。
クレジットカードの明細や銀行の取引明細などを確認し、不審な出金や買い物がないか確認してみてください。
カードの明細は、使用した店と日時も確認できるため有用な手がかりとなります。
この時点では、まだ裁判で有効な証拠が見つからないことも多いです。
焦らずに身の回りを調査してみましょう。
逢瀬の日時や場所の傾向など「本命の証拠を入手するために役立つ情報」が出ることもあります。
(2)探偵に調査を依頼する
探偵に浮気調査を依頼するのも、有効な証拠を掴む方法の一つです。
不倫相手や配偶者を尾行して、怪しい行動があれば写真や動画に残し証拠を収集してくれます。
探偵に依頼することで、ホテルに出入りする写真や、浮気調査の報告書など「裁判で活用できる証拠」が入手できることから、不倫の証拠集めで探偵や興信所を利用する人は多いです。
探偵に依頼する場合に懸念されるのが調査費用です。調査が長期間に渡ると費用も高額になりやすく、ときには50万円以上の報酬が発生することもあります。
ただし、探偵に依頼する費用は工夫しだいで安くすることができます。
探偵への依頼報酬は、調査時間と必要な人員の数で大きく異なるためです。
例えば、配偶者の身辺を自分である程度調査し、デートの日程や場所をある程度絞り込んでみてください。
ピンポイントで調査を依頼することができるようになるため、その分費用が安くなります。
また探偵事務所では、証拠が取れたときだけ報酬の発生する「成功報酬プラン」や、時間あたりの単価が安くなる「〇時間パック」など、さまざまなプランが用意されています。
依頼者の希望や予算に応じたものを提案してくれるでしょう。
自分に合ったプランを選ぶことでも費用を抑えることができます。
探偵に依頼する際の費用相場や料金形態などは以下でも紹介しています。参考にしてください。
(3)弁護士を伴い浮気相手を訪ねる
浮気相手を訪ね、不倫相手から自白を取ることができれば、こちらも裁判の証拠となります。
相手が特定できている場合に限りますが、訪問も選択肢の一つにできるでしょう。
不倫相手のもとには一人で赴くこともできますが、以下の理由から弁護士の同伴をおすすめします。
- 不倫相手があとから「脅迫されて自白させられた」と言い出しにくい
- 不倫相手と自分のヒートアップを防げる
- 「不倫を許さない」という姿勢を明確に示せる
- 不倫相手との話し合いを円滑に進めてくれる
なお、不倫相手との面会の場は、カフェやホテルのラウンジなど、無関係の第三者の往来がある場所が望ましいです。
「閉じ込められて自白を強要された」と虚偽の主張をされることもあるため、自宅など個室での面会は避けた方が無難といえます。
また、いきなり職場に乗り込むのも控えた方が無難でしょう。不倫相手の態度が一気に硬化ますし、名誉棄損で訴えられるリスクもあります。
弁護士と相談のうえで面会場所を決定しましょう。
自白を取ったら後々の活用を見据え、書面に残して捺印させるか、改変できないアナログテープで録音しておきましょう。
(4)配偶者のプライバシーには注意する
浮気の証拠を集める中で、一般的に行われるのがLINEやメールなど、配偶者のメッセージを無断で閲覧する行為です。
この調査方法は、証拠能力を損なわないのでしょうか。
結論からいうと、配偶者のメッセージのやりとりを勝手に閲覧する行為は、刑事事件ではプライバシー権の侵害にあたる可能性があります。
ただし、家事事件においては、夫婦間でメッセージを閲覧したり、コピーを取ったりしたものであれば、証拠能力を損なわないとされることが多いです。
そもそも不倫の証拠収集は難度が高く、無断で閲覧したとしても影響が限定的であることから、このような判断がなされることが多いようです。
なお、メッセージを証拠として利用する場合、閲覧・コピーするのは不倫の証拠として利用する必要最低限にとどめることが大切です。
不倫に無関係なメッセージまで全てコピーしてしまうと、違法性が高いと判断されることもあるため注意してください。
まとめ
不貞行為の立証責任は、基本的には慰謝料を請求した側にあります。
慰謝料を請求する際は、言い逃れできない証拠を固めたうえで臨みましょう。
不貞行為の証拠にできるのは、ホテルに出入りしている写真など、配偶者と不倫相手の間の肉体関係を示すものです。
数種類の証拠を組み合わせるか、複数回分用意しておくとより確実です。
不倫の慰謝料請求は自分ひとりでも可能ですが、できれば弁護士に依頼することをおすすめします。
「妥当な慰謝料額が分からない」「裁判に発展した場合に対応できない」など、専門知識の必要な場面では自分だけではうまく進められないことがあるからです。
近年では相談料・着手金無料の事務所も増加しています。まずは、信頼できる弁護士探しから始めてみてください。