仮面夫婦の浮気と慰謝料請求|不倫公認でも離婚せずに再構築できる可能性
夫婦の在り方はさまざまです。
仮面夫婦だけれど離婚せず、不倫を公認している夫婦もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そうであっても、「仮面夫婦でも夫の浮気は許せない」「仮面夫婦とはいえ結婚している妻の不倫相手に慰謝料を請求したい」という方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、そもそも仮面夫婦とはどういう夫婦の状況をいうのか、仮面夫婦で不倫した場合でも慰謝料請求をできるのか、不倫公認の夫婦の場合はどうなのかといった慰謝料請求に関する問題と、不倫の事実があっても離婚をせずに夫婦関係を再構築できる可能性についてご説明したいと思います。
仮面夫婦の定義とは?仮面夫婦かチェックする5つの特徴
仮面夫婦、という言葉は、テレビなどで目にしても、具体的にどのような夫婦関係をいうのかよく分からないという方は多いのではないでしょうか。
仮面夫婦とは、法律用語ではなく、一般的な概念で、「対外的にはうまくいっている夫婦として振る舞っているけれど、実際には夫婦の愛情や家族間の親密な関係がなくなった夫婦」のことをいいます。
通常は、親戚やご近所付き合いは問題なくこなし、家庭内でもDVや喧嘩もないことが多く、外からは仲の良い夫婦に見えつつも、実際は互いに無関心・無干渉な状況になっていることが大半です。
仮面夫婦の特徴は以下の5つです。ご自身の夫婦が気になる方はチェックしてみましょう。
(1)夫婦の会話がないこと
仮面夫婦は、夫婦の会話や、挨拶すらしないのが特徴です。
そもそも、「相手が何を考えているか知りたい」「思いを共有したい」という感情がないため、会話はもちろん、メールやLINEなどのやり取りもないことが多いです。
子供がいる場合は、連絡事項など必要最低限の会話にとどまり、子どもがいない場所では一切話さないという夫婦もいます。
(2)お互いに関心・愛情がないこと
仮面夫婦の特徴に、相手の行動にまったく関心がないということがあります。また、夫婦関係を維持するための愛情も失われているのが通常です。
相手に対して怒りを感じたり、行動を干渉したりすることもありませんし、相手がいないほうが気楽で良いと思っている夫婦もいます。
(3)セックスレスが続いていること
仮面夫婦は、お互いのスキンシップを嫌がる傾向にあります。手に触れるなどの行為も嫌がる人が多いため、セックスレスになる夫婦も多いです。
子供を授かるためにセックスを行う仮面夫婦もいますが、義務として行うことが多く、愛情に基づく行為でないことが大半です。
(4)浮気相手がいる場合が多いこと
仮面夫婦の場合は、配偶者に愛情を感じられなくなった状況にあり、ホルモンバランスやその他の原因で性欲が減退したとか、性交渉に問題が生じたというわけではありません。
そのため、浮気相手がいる場合が多く、中には浮気・不倫を互いに公認している夫婦もいます。
(5)世間的には円満な夫婦を装っていること
仮面夫婦の特徴に、外部の人からは仲の良い夫婦とみられやすいことがあります。
仮面夫婦の場合は、喧嘩や言い合いもなく、同僚の結婚式や子供の学校行事、地域行事などには一緒に参加し、実家への帰省も家族で行います。
また、生活費も、お金を渡さないということもなく、家事や育児も普通にこなすことが多いです。
そのため、外から見ると通常の夫婦仲が悪い夫婦よりもトラブルが顕在化せず、表面的には仲良く平和に暮らす夫婦に見えるのが特徴です。
浮気公認の仮面夫婦が慰謝料請求できる条件と可能性
(1)仮面夫婦で慰謝料請求できる可能性
日本では、結婚した夫婦はお互いに「貞操義務」といって「配偶者以外の異性と性交渉をしない義務」負うとされています。
夫か妻が不倫をすると、この貞操義務に違反した「不法行為」をしたことになります。
不倫によって平和な夫婦関係が壊され、精神的苦痛を負った側は、不倫した配偶者と不倫相手に対して、その苦痛をお金で補うために、「不法行為に基づく損害賠償」として「慰謝料」を請求できるというのが不倫慰謝料の考え方です。
しかし、浮気・不倫が違法な行為としても、かならずしも不法行為に基づく損害賠償責任として慰謝料請求が認められるわけではなく、その他の条件も満たさなくてはいけません。
その一つが、「夫婦に守るべき平和な夫婦関係という利益があるか」ということです。
仮面夫婦が不倫・浮気をしても、既に夫婦関係が壊れているケースでは、そもそも夫婦に守るべき利益がなく精神的苦痛も発生しないので、慰謝料は請求できないことになります。
特に、不倫を公認していたような夫婦関係では、浮気が原因で夫婦関係が破綻したという因果関係が認められにくいと言わざるを得ません。
そのような仮面夫婦でも、配偶者の不倫に対して慰謝料を請求したい場合は、自分たち夫婦の関係が破綻していないということを、具体的な事実をあげて主張していく必要があります。
(2)慰謝料請求の条件
上記で、不倫慰謝料の条件をお話しましたが、慰謝料請求をするには、最終的に以下の5つの条件を満たさなければいけません。
①法的な婚姻関係
貞操義務は、婚姻関係にある夫婦が負うものなので、慰謝料請求をするには法律的に結婚をしていなければいけません。
例外的に、夫婦同然の内縁関係の場合は、準婚関係として貞操義務が認められ、浮気された場合は慰謝料を請求できます。
②婚姻関係が破綻していないこと
浮気・不倫による貞操義務の侵害により、夫婦の平和な生活が壊されて精神的苦痛という損害が発生するには、守るべき夫婦の平和な生活があることが前提です。
そのため、そもそも婚姻関係が破綻していた場合は、浮気されても損害が発生していないと考えられ、慰謝料請求できません。
③性交渉の存在
法律的に浮気慰謝料を請求するには、単なるキスやデートの浮気ではなく、法律上の不倫ともいえる「不貞行為」、つまり異性との性交渉が必要です。
キスやデートだけでは慰謝料請求はできないのが実務の運用です。
④浮気相手の故意過失
不倫相手にも慰謝料を請求するには、不倫相手の故意または過失が必要です。
具体的には、既婚者と知ってわざと性交渉したり(故意)、結婚指輪の跡があるのに確認せず性交渉をした場合(過失)などです。
配偶者が独身と偽り、不倫相手が信じることに理由がある場合は、故意過失がないとして慰謝料請求ができない場合があります。
⑤自由意思
慰謝料を請求するには、性交渉が自由な意思で行われたことが必要です。
レイプしたり、酒に酔わせて関係を持ったりしたような場合は、当然慰謝料は請求できないどころか、犯罪として逮捕され、場合によっては実刑判決を受けて懲役刑に服する可能性もあります。
仮面夫婦が浮気をしても離婚しないメリット・デメリット
仮面夫婦は、上記でご説明したように、夫婦の相互に愛情も関心もない状態です。
それでも離婚しないことには、以下のメリット・デメリットが考えられます。
(1)仮面夫婦が浮気で離婚しないメリット
①経済的事情:生活の安定
結婚中、特に妻は、専業主婦や配偶者の扶養控除の範囲内の収入で生活していた人も多く、離婚後すぐに職を得て、家賃や食費などの生活費、税金や年金も払うのは大変です。
また、妻だけでなく、夫も妻に任せきりだった日常の生活を一人で行う必要があります。
また、日本では、夫婦は相互に助け合って生活すべき法律上の義務があります(民法752条、760条)。
そのため、仮面夫婦で浮気をした配偶者も、結婚している以上は生活費を入れ、家事をするなど夫婦相互に助け合わなければいけません。
浮気された配偶者からすれば、浮気を我慢すれば安定した生活が送れるというメリットがあります。
②子供の存在
仮面夫婦は、子供の養育を放棄するようなことはなく、学校行事にも一緒に参加するのが通常です。
それだけに、離婚して、夫婦のどちらかを親権者に決めたり、に苗字が変わったり、転校を余儀なくされると言った子供への影響を考えて離婚を避ける傾向にあります。
ただし、子供が成人して親の手を離れたことをきっかけに離婚を決意するという夫婦も少なくありません。
③社会的対面・仕事上の立場の維持
日本では平成30年の婚姻件数が約59万なのに対し、離婚件数は20万7000と、離婚は決して少なくありません(厚生労働省平成30年(2018)人口動態統計の年間推移)。
しかし、世間体を気にする親に離婚を反対されたり、親族知人に気を遣われたりすることを避けるために離婚をしないこともあります。
また、少ないとはいえ、職種によっては(芸能人、ウエディングプランナーなど)離婚によって仕事のイメージに影響すると考えて離婚をしないことにメリットを感じるケースもあるようです。
④離婚の負担
離婚するにはパワーが必要です。未成年の子供がいる場合は親権者の決定が離婚条件になりますし、金銭面でも、養育費の決定、財産分与、年金分割など、検討しなければならない問題は膨大です。
しかも、当事者間で合意に至るのは難しいケースも多く、もめた場合は調停(第三者を入れて裁判所で話し合う制度)や裁判に移行して結論を出さなければいけません。
離婚する際にかかる労力を考えて、仮面夫婦でいることを選ぶ夫婦もいます。
(2)仮面夫婦が浮気をしても離婚しないデメリット
上記と反対に、仮面夫婦が配偶者に浮気されても離婚しないデメリットとしては、次のようなものが考えられます。
①経済的事情:生活費の負担
上記でお話した経済的事情が、離婚をしないデメリットにもなります。
夫婦は、仮面夫婦であってもお互いを扶養して、婚姻費用を分担する相互扶助義務を負っています(同法752条、760条)。
生活が安定するというメリットがある反面、収入が多い配偶者は、相手の生活費も負担するというデメリットがあります。
また、仮面夫婦になったきっかけがそもそも浮気だった場合、浮気した配偶者が義務違反による損害賠償を覚悟の上で、生活費の支払いをやめて浮気相手にはしる可能性もあります。
②子供への影響
上記と同様、子供のために離婚を避けようとしていることが、反対に子供に悪影響を与えることがあります。
仮面夫婦は、子供の前では仲の良い夫婦を演じることも多いですが、敏感な子供は夫婦の状況を察知し、両親の不仲を自分のせいだと考えてストレスを感じることがあります。
③仮面夫婦がばれた場合の社会的対面
仮面夫婦は、対外的には仲の良い夫婦を装っていることが多く、周囲や親せき、地域の人たちからもそのようにみられているケースが多い特徴があります。
それだけに、仮面夫婦であることが知られるなどすると、周囲に変な噂が広まったり、身内に必要以上に心配をされたりすることもあります。
仮面夫婦に疲れた場合に浮気を解消して関係構築する4つの方法
仮面夫婦でも、できるなら関係を再構築したいとお考えの方はいらっしゃるのではないでしょうか。
仮面夫婦の関係が、絶対に修復されないわけではありません。
関係の再構築をご希望の場合は、次の4つの方法をご検討ください。
(1)できる限り会話をする
仮面夫婦で相互に会話がなかった人が、いきなり会話を始めるのは大変かもしれません。
しかし、大手生命保険会社の調査によると、夫婦円満の秘訣は会話であるという結果も出ており、まずは夫婦の会話を増やすことが大切です(2017年11月明治安田生命「いい夫婦の日」に関するアンケート)。
テレビのこと、ニュースのこと、子供のこと、話すテーマは何でもいいですし、時間も短くて構いません。
また、最初のきっかけとして、感謝の言葉を相手に伝えるということも効果的です。
「ありがとう」と言われて嫌な気になる人はいません。まずはここからスタートしてみてはいかがでしょうか。
(2)旅行などに外出して共に過ごす
無理にでも一緒に出かけ、共通の時間を過ごすことで、夫婦関係が改善されるケースは少なくありません。
仮面夫婦は知っている人の前では仲の良い夫婦を演じがちなので、思い切って誰も知らない人ばかりの地方に遠出してみるのも一つの方法です。
(3)カウンセリングを夫婦で受ける
夫婦問題の相談窓口として、「離婚カウンセラー」という民間資格があります。
離婚と銘打っていますが、離婚に限らず夫婦関係全般を相談することができます。
特に、仮面夫婦になったきっかけが些細なけんかだったり、セックスレスから始まったりというようなケースは、第三者を間に入れて話し合いをすることで、自分の気持ちが整理できると同時に相手の考えを客観的にみることもできるので、関係改善につながることが期待できます。
(4)ルールを決め、あえて距離を置いてみる
仮面夫婦の場合、生活は通常通り行っているのが通常です。
中途半端な関係を一度打切り、ルールを決めて、あえて相手との距離を置くことで関係改善できる場合もあります。
具体的には、一緒に参加する子供関係の行事を決め、それ以外はお互いに干渉しないことにする、自宅で使用する部屋を別にしてみる、などがあります。
実際に別居すると、婚姻費用分担請求など複雑なお金の問題も絡むので、まずは家庭内でルールを決めることをお勧めしますが、一緒にいることが辛い場合は一定期間離れてみてもよいでしょう。
距離を置くことで、相手に求めていたものが明らかになり、復縁に繋がる効果も期待できます。
仮面夫婦の浮気を弁護士に相談・依頼するメリットとデメリット
仮面夫婦が浮気した場合、夫婦の状況によって慰謝料が請求できるかどうか、離婚すべきかどうかなど、その後の対応が変わってきます。
法律の専門家である弁護士に相談することで、慰謝料請求の可能性や子供の問題など、婚姻関係に関する問題を相談しアドバイスを受けることができます。とはいえ、弁護士相談に敷居の高さを感じる方もいらっしゃると思います。
弁護士に相談するメリット・デメリットとして、以下をご参考ください。
(1)仮面夫婦の浮気を弁護士に相談・依頼するメリット
仮面夫婦の場合、いつから仮面夫婦だったか、実際の生活の様子はどうかと言った事情が、慰謝料請求の可否に大きく影響します。
弁護士に相談することで、慰謝料請求できるか、できる場合の慰謝料金額の目安はいくらかなどについてアドバイスを受けられます。
また、慰謝料請求をするときは、依頼すれば代理人として代わりに交渉してもらえるので、配偶者や不倫相手と会いたくない場合は合わずに済みます。
また、弁護士が介入することで相手が支払いに応じやすくなったり、当事者間で解決できず調停や裁判といった手続きに移行したりした場合も、書類の準備から出廷まですべて任せることができます。
さらに、弁護士は、仮面夫婦の浮気問題だけでなく、慰謝料請求や離婚する場合の諸手続きなど、すべての法的問題について相談できることも大きなメリットと言えます。
(2)仮面夫婦の浮気を弁護士に相談・依頼するデメリット
反面、弁護士に仮面夫婦の浮気問題を相談・依頼するデメリットとしては、費用面が最大の問題になるでしょう。
弁護士費用は、弁護士や法律事務所により異なりますが、以下の金額が一定の目安になるのでご参考ください。
- 相談料(依頼する前の法律相談料)…30分5,000円+税、1時間10,000円+税
- 着手金(依頼時に支払う費用)…10万円~30万円
- 日当(弁護士の裁判や示談の出張費用)…1回10,000円~50,000円
- 報酬金(成功した場合にかかる費用)…経済的利益(獲得した慰謝料)の10~20%
- 実費(郵送料や印紙代)…数千円程度
初回相談料は無料という事務所も多いので、ホームページをチェックしたり、法律相談で見積もりを出してもらったりする等して、信頼できる弁護士に依頼するようにしてください。
まとめ
今回の解説では、仮面夫婦の浮気について、慰謝料請求や関係再構築の可能性について解説させていただきました。
仮面夫婦で不倫が公認という場合でも、一度は将来を誓い合った相手の不倫に、自分でも気づかないうちにストレスをためている場合も少なくありません。
慰謝料を請求できるのか、誰にどのくらい請求できるのか、関係構築したい場合にすべきことは何なのか等、法律的に検討することで、取るべき手段を冷静にみることにも繋がります。
ご自身のご夫婦のケースではどうすべきかなど、仮面夫婦の浮気でお悩みの方は、夫婦の問題に詳しい弁護士に、相談することで問題解決につながる場合も多いです。
まずはお気軽に相談してください。