プラトニックラブは不倫になる?不倫慰謝料を請求する条件
不倫相手との関係に性的関係がない、プラトニックの関係という人も世の中にはいるのではないでしょうか?
不倫と言えば「既婚者と性交渉をすること」と一般的には考えられています。
しかし、不倫相手との関係がプラトニックなものでも不倫慰謝料を支払わなければならないケースも存在し、不倫相手と性的関係がないからと言って、必ずしも安心というわけではありません。
プラトニックな不倫で慰謝料の支払いを命じられるケースについて詳しく解説していきます。
法律上の不倫とは
プラトニックの不倫について考えるにあたって、法律では不倫をどのように定義しているのかを知ることは非常に重要です。
法律上では不倫をどのように定義しているのかについてまずは解説していきましょう。
(1)不貞行為と明記されている
民法第770条1項には離婚事由として以下のように記載されています。
夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
民法では配偶者に不貞行為があった場合には離婚の訴えを提起することができると記載されています。
その他にも民法では、配偶者の3年間生死が明らかでない場合や、夫婦関係を継続し難い精神的な疾患になった場合なども離婚事由とされています。
不倫による離婚の場合には、既婚者以外と不貞行為があった場合は法律上の不倫とみなされ、離婚事由となり慰謝料を請求することができるのです。
(2)不貞行為の線引きは難しい
民法では、配偶者に不貞行為があった場合には離婚事由に該当すると記載されていますが、そもそも不貞行為とは何なのかの判断が難しいところです。
不貞行為とは何なのでしょうか?
一般的には不貞行為とは異性とのセックスだと判断されています。
またセックスに類似する行為を既婚者以外と行っていた場合にも不貞行為と判断されることがあります。
しかし、何が不貞行為だと判断することは実際には難しいのが実情です。
例えばキャバクラなどに飲みに行き、初めて出会ったお店の女の子がキスをしてきた場合、不貞行為と断ずるのは無理があります。
一方、セックスはないキスをする、体を触るなどの行為を同じ異性相手に継続的に行っていた場合には不貞行為と判断される可能性があります。
このように、セックスに関しては議論の余地なく不貞行為ですが、セックスに類似した行為が不貞行為に該当するかどうかはケースバイケースで、最終的には裁判所の判断に委ねられると考えられます。
プラトニック不倫とは
では、プラトニック不倫は一般的な不倫とはどう異なるのでしょうか?
簡単に言えばプラトニックな不倫は、民法で規定された不貞行為が成立しにくいということができます。
(1)性行為も性行為に準じた行為もない
プラトニックとは、 Platonicと記載し、「プラトンのような」というような意味です。
ご存知の通り、プラトンはギリシャの哲学者です。
つまり、プラトニックとは哲学的な、精神的なという意味です。
プラトニックな不倫というのは、性的関係にはないが精神的に愛し合っている不倫というような意味でしょう。
(2)お互いに恋愛感情はある
プラトニックな不倫というのは、肉体関係はないが、お互いに恋愛感情があるということです。
既婚者が(と)セックスをするのはリスクが高いこと、悪いことなどという理由からセックスをしていないだけで、お互い精神的には愛し合っており、またお互いの気持ちの確認も行っているケースが多いと言われています。
プラトニック不倫は肉体関係がないので、不貞行為と断ずることが極めて難しいと考えられます。
しかし、不倫をされた側としてみれば、パパ活や風俗などで異性と性交渉を行うよりも、濃密な恋愛感情があるプラトニック不倫の方が精神的なダメージを負う可能性があります。
では、このようなプラトニックな不倫関係について慰謝料を請求することは可能なのでしょうか?
プラトニック不倫で慰謝料は成立する?
では、配偶者にプラトニック不倫をされた人は、配偶者や不倫相手に慰謝料を請求することができるのでしょうか?
結論的に言えば、請求することはできても裁判に勝つのは非常に難しいということが言えます。
(1)請求することは可能
プラトニックな不倫でも、慰謝料を請求すること自体は可能です。
しかし、交渉による請求の場合には相手方からしてみれば「性的関係もないのになぜ慰謝料を支払わなければならないのか」と相手にされない可能性が非常に高いでしょう。
相手がプラトニックな不倫でも慰謝料の支払いに応じれば慰謝料を勝ち取ることはできますが、そうでない場合には裁判による請求をしなければなりません。
プラトニックな不倫で慰謝料を請求するためには交渉によって慰謝料を請求することが容易ではないので、裁判になる可能性が非常に高いと言えるでしょう。
(2)ただし証拠集めが難しい
プラトニック不倫でも、慰謝料を請求すること自体は可能です。
しかし前述したように不倫相手とすれば、あえて肉体関係を結ばなかったのにも関わらず、慰謝料を請求されて素直に「すみませんでした」と支払いに応じるとは一般的には考えられません。
また、プラトニック不倫の場合、友人関係との区分も不明瞭ですので、「不倫じゃなくて友人だ」と主張されてしまったら対抗するのが難しいのが実情です。
どうしてもプラトニック不倫から慰謝料を請求したいのであれば、やはり裁判になるでしょう。
しかし、裁判に勝つためには、「不倫だ」と裁判所が判断するだけの証拠を用意する必要があります。
肉体関係のある不倫であれば、証拠を集めるのはそれほど難しくはないでしょう。
2人でホテルに入る写真でもあれば不倫の有力な証拠になりますが、プラトニックの場合には不可能です。
つまり、プラトニックの不倫で慰謝料を請求したい場合には、友人関係ではなく恋愛関係があるということを客観的に証明できなれば慰謝料を勝ち取ることは難しいと判断できます。
証拠さえあればプラトニックでも不倫慰謝料は請求できる
前述したように、プラトニック不倫で慰謝料を勝ち取るのは簡単なことではありません。
しかし、証拠さえあればプラトニック不倫でも慰謝料を獲得することができた事例もあります。
一時期話題となった判決ですが、肉体関係のないプラトニックな不倫についてどのように慰謝料が請求されたのかについて詳しく見ていきましょう。
(1)2014年の大阪地裁の判例
2014年の大阪地裁の判決は肉体関係のない不倫でも、慰謝料の支払いを裁判所が命じたことで話題になりました。
この裁判は、大阪府内の女性が夫と夫の同僚が夫と親密な関係になり精神的苦痛を受けたとして、夫の同僚女性に220万円の損害賠償を求めた訴訟です。
この裁判で大阪地裁は同僚女性に44万円の支払いを命じました。
同僚女性は夫との間に肉体関係はありませんでしたが、裁判所は夫が妻に冷たい態度を取ったことと同僚女性との因果関係を認め、慰謝料の支払いを命じたものです。
裁判所は、同僚女性は夫から何度も肉体関係を迫られながら、巧みにかわして貞操を守ったと認定しました。
しかし、同僚女性が夫のアプローチをはっきりと拒絶せず、何度も2人で会い続けたことについては、夫の妻への因果関係があると認めたことになります。
この裁判では、裁判所が夫と同僚の間に肉体関係がなかったと裁判所が認定したにも関わらず慰謝料の支払いを命じられたという点で「プラトニックな不倫でも慰謝料の支払いを命じられる」ということで話題になりました。
(2)重要なのは証拠
この裁判でも重要なことはやはり証拠です。
夫と同僚女性に肉体関係はなかったものの以下の点が立証されたので因果関係があると判断されたものです。
- 夫が何度も女性に肉体関係を求めたこと
- 同僚女性が夫の求めをはっきり拒絶しなかったこと
- 何度も夫と会っていること
プラトニック不倫でもこれらの証拠をしっかりと立証することができれば、慰謝料を請求することができる可能性があるのです。
特に肉体関係を求めた、求められた相手がはっきりと拒絶しなかったなどの証拠を揃えることは容易ではありませんが、その証拠を揃えることができればプラトニックな不倫関係でも慰謝料を獲得することができる可能性はあるでしょう。
(3)慰謝料は少額になりがち
しかし、この判例でも分かるように、プラトニックな不倫の場合の慰謝料は少額になりがちです。
実際に肉体関係がないのですから、不倫をした夫(妻)への権利の侵害の度合いは少ないと判断される可能性が高くなります。
一般的な不倫慰謝料の相場は200〜300万円と言われています。
しかしプラトニックな不倫の場合、不倫慰謝料が認められたとしても、そこまで高額になることはなく、2014年の大阪地裁の判決のように、数十万円程度になる可能性が高いでしょう。
不倫の証拠集めを探偵に依頼し、弁護士に請求を依頼するという人が多いですが、プラトニック不倫の場合には、慰謝料請求のために探偵や弁護士に支払う金額の方が勝ち取ることができる慰謝料の方より多くなってしまう可能性が高く、決して経済的利益を得られるようなものではありません。
とは言え、慰謝料請求は感情的な理由で行われることが多いので、証拠さえ集めれば慰謝料を勝ち取ることができる可能性はあると言えるでしょう。
もちろん、プラトニックな不倫であっても、それが原因で夫婦が離婚してしまった、夫婦が別居してしまった、子供がいるような場合には慰謝料が増額される可能性はありますが、やはり肉体関係ありの通常の不倫慰謝料よりは金額的に少額になってしまう可能性が高いと思った方がよいでしょう。
プラトニック不倫で慰謝料を請求するには
プラトニック不倫で慰謝料を勝ち取るためには証拠が全てと言っても過言ではありません。
そして、プラトニックな関係の場合、ホテルに2人で入るなどの一発アウトの証拠を得ることができないので、証拠集めは困難で長期間に渡る忍耐も必要になります。
プラトニックな不倫の証拠を集めるためには以下のポイントが重要になります。
(1)メールやLINEの履歴
大阪地裁の判例であったように、実際に性的関係がなくても性的交渉を迫った証拠と、それをはっきりと断っていない証拠が必要になります。
メールやLINEの履歴が有力な証拠になります。
あまり良いこととは言えませんが、LINEやメールのやり取りは有力な証拠です。
配偶者のパスワードを知っているのであれば、寝ている間やお風呂に入っている間にLINEの履歴を確認し、「セックスしたい」などと明確に肉体関係を求めている画面を写真に収めておきましょう。
また、LINEなどのSNSは匿名で行っている人も多いので、不倫相手から「トークの相手が自分ではない」と主張されるケースも少なくありません。
そのため、アイコンをしっかりと写真に残すとか、トーク履歴の中の夫と不倫相手の写真を撮影しておくなど、誰と誰の会話なのかということを明確に証明できるようにしておきましょう。
(2)長期にわたる証拠集め
また、大阪地裁の判決では「何度も逢瀬を重ねていた」ことも慰謝料支払いを命じる有力なポイントとなりました。
プラトニックな不倫の場合には、ホテルに入るなどの一発アウトの証拠を得ることができないので、時間をかけて継続的に恋愛関係であることを証明する必要があります。
このため、証拠は長期に渡って集める必要があり、「今日会おう」などの逢瀬の約束をしているLINEの履歴などは継続的に写真に収めておく必要があります。
相手のマンションに通っているようであれば、何度も相手のマンションに入る様子を写真に収めることで有力な証拠になりますが、やはりそれにも時間がかかります。
プラトニックな不倫は証拠さえ集めれば慰謝料を獲得することができる可能性がありますが、肉体関係ありの不倫よりも証拠集めに時間も手間もお金をかかってしまうことを覚悟しておく必要があります。
認定が難しいプラトニック不倫はプロに相談
このように、肉体関係のないプラトニックな不倫は自分1人で証拠を集めようとしても、裁判で慰謝料を認めてもらうことは困難を極めます。
前述したように、プラトニックな不倫で慰謝料を勝ち取ったとしても経済的利益を獲得することは難しいのが実情です。
そもそもプラトニックな不倫の慰謝料請求でお金のことを考えていない人が多いので、「お金ではなく名誉の問題」だという人はプロに依頼した方が確実です。
(1)まずは探偵などに依頼する
とにかく不倫慰謝料の裁判で重要なことは証拠です。
特に証拠集めが難しいプラトニックな不倫の場合には証拠集めは難航します。
そのため、探偵などのプロに調査を依頼した方がよいでしょう。
浮気調査の探偵の相場は4日間で30万円〜90万円と高額ですので、プラトニックの場合にはこの何倍ものお金がかかることが予想されますが、自分で証拠を集めるよりもより確実な証拠を取得してくれる可能性が高いのです。
探偵に依頼するとかなりの高額になる可能性がありますが、お金に余裕がある場合には探偵に依頼することで有力な証拠を集めることができるでしょう。
(2)慰謝料請求は弁護士に依頼する
慰謝料の請求も弁護士に依頼した方がよいでしょう。
そもそもプラトニックな不倫は不倫慰謝料を獲得できるかどうか非常に微妙な事例ですので、裁判になった場合には弁護士などに依頼した方がよいことは言うまでもありません。
弁護士に依頼することによって交渉によって慰謝料を取ることができる可能性があります。
ほとんどの一般人は弁護士から内容証明郵便が届いたら精神的に圧迫を感じますし、交渉の上手な弁護士であれば、裁判にせずに慰謝料を獲得できる可能性もゼロではありません。
やはり費用はかかってしまいますが、より慰謝料獲得の可能性を上げたいのであれば弁護士に依頼した方が確実です。
まとめ
肉体関係のない不倫であっても以下の全てに該当する場合には慰謝料を勝ち取ることができる可能性があります。
- どちらか一方が肉体関係を継続的に求めた場合
- 相手がはっきりと肉体関係を拒否していない場合
- 継続的に会っていた場合
これらの証拠を集めて裁判所に慰謝料を認めさせることは容易なことではありません。
しかし、忍耐強く証拠を集めていけば裁判所が慰謝料を認めた事例もありますので、どうしてもプラトニックな関係の不倫での慰謝料を請求したい場合にはとにかく証拠を集めるようにしましょう。
また、不倫をしている側も肉体関係がないからといって、必ずしも慰謝料の支払いが発生しない訳ではないというリスクを十分に認識すべきでしょう。