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母親の不倫で子供は不倫慰謝料を請求できる?

不倫で被害を受けるのは、不倫をされた夫や妻だけではありません。親の庇護のもとに暮らしている子供も不倫による被害者です。
むしろ、子供には経済能力がなく、環境を選択することもできないので、子供の方が不倫による経済的・精神的な苦痛は大きいと言えるかもしれません。

特に、母親が不倫して家庭崩壊に至った場合の子供のリスクは深刻です。
母親が不倫して、子供が精神的かつ経済的な損失を被った場合に、子供が不倫相手や親に慰謝料を請求することはできるのでしょうか?

母親の不倫で子供は慰謝料を請求できる?

不倫慰謝料というのは一般的に不倫をされた側の配偶者が、不倫相手や不倫をした配偶者に対して請求するものです。
しかし、冒頭述べたように、子供も不倫によって損害を受ける側の立場です。不倫によって家庭環境が崩壊してしまったり、進学を諦めたりする必要が生じてしまうケースは少なくありません。

また、母親の不倫によって子供が家事をすることになり、勉学に支障が生じてしまうかもしれません。
このような時に子供が親や親の不倫相手に慰謝料を請求することができるのでしょうか?
まずは不倫慰謝料の支払いが認められるための条件について見ていきましょう。

(1)不倫慰謝料が請求できる場合は故意または過失があり、権利の侵害があった場合

不倫慰謝料を請求することができるのは、相手に故意または過失があり、不倫によって配偶者の権利が侵害された場合です。
故意とは、不倫相手が既婚者であることを知っていたことを指します。また、過失とは、不倫相手が既婚者であることを知り得る状況にいたことです。

例えば社内不倫であれば、不倫相手が既婚者であることはほぼ確実に知り得る状況であるため、過失が認められる可能性が高くなります。また、権利の侵害とは、不倫によって配偶者としての権利を侵害されたということです。

夫婦間には貞操権という権利があります。貞操権とは「結婚した相手が自分以外と性的関係を結ばないことを要求する権利」を示します。
つまり、配偶者が自分以外の人間と性的関係を結んだ時点で権利の侵害が認められることになります。
夫婦間では不倫相手に故意または過失があり、性的関係を結んでいた場合には不倫慰謝料が認められる可能性が極めて高いということができます。
では、子供が不倫によって慰謝料を請求することができる条件はあるのでしょうか?

(2)子供への権利の侵害は認められるのか?

子供が不倫慰謝料の請求を認められるかどうかについて、明確な条件はありません。
確かに、不倫によって子供の権利は侵害されるケースが考えられます。
前述したように、円満だった家庭環境が不倫によって壊れてしまい精神的な負担になりますし、経済的に困窮し進学を諦めるケースもあるでしょう。

子供が親の不倫慰謝料を請求できるかどうかについては、明確な条件がない以上は、裁判所がどのように判断するのかに左右されるのが実情です。

子供への権利の侵害は認められないのが一般的

結論を先に言えば、親のどちらか一方が不倫をして離婚に至ったとしても、裁判所は子供の権利が不倫によって侵害されたとは直接的に判断できないと結論を出すケースがほとんどです。
以下の理由によって親が離婚に至っても、子供の権利は侵害していないと判断されるためです。

(1)離婚しても親子関係は継続する

離婚をすると、一方の親は親権を失ってしまいます。
しかし、親権を失ったからと言って親であることは変わりありませんので、離婚によって親を失ったとは法律的には解釈されません。

(2)離婚後も法律上の扶養義務は発生する

また、離婚後はどちらか一方の親が親権を失いますが、子供に対する扶養の義務は残っています。
つまり、離婚をした後でも、子供は親から扶養を受けることができると判断されますので、「離婚によって経済的に困窮する」とは必ずしも判断されないのが実情なのです。

(3)離婚後も面会交流は可能

離婚後も親であり扶養者である以上、離婚して離れて暮らす親との面会交流は可能です。
法律的、経済的、そして物理的にも離婚によって親を失ったとは判断できないので、親の不倫によって子供の権利が直接的に侵害されるわけではないというのが法律的な解釈です。

子供からの慰謝料請求は認められないの?

親の不倫によって子供の権利の侵害が認められることは難しいと判断できます。
しかし、離婚によって子供の権利が侵害されないというのはあくまでも法律的な解釈で、現実的には離婚した親から養育費を受け取ることができずに進学を諦めたり、離婚後はほとんど親との面会交流が行われなかったりするケースも少なくありません。

このような理由から、子供からの慰謝料請求が必ずしも認められないわけではありません。
結論的に言えば「一般的には子供が親の不倫慰謝料を請求することは難しいが、裁判所の判断によっては認められるケースもある」というところでしょう。
過去の判例などを参照し、見ていきましょう。

(1)過去の判例

昭和54年の子供が親の不倫慰謝料を請求した判例を見てみましょう。

妻および未成年の子のある男性と肉体関係を持った女性が妻子のもとを去った男性と同棲するに至った結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなったとしても、その女性が害意をもって父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
ただし、父親がその未成年者の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行なうことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によって行なうことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被ったとしても、そのことと女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。

簡単に言えば、不倫によって離婚したとしても、不倫相手が害意を持って離婚した親の子供に対する監護等を阻害するなどの特段の事情がない以上は、不倫相手の行為が子供に対して不法行為を構成するとは言えないとされています。

また、親が子どもに対して監護などを行うことは、親の意思に基づいて行うことができるので、不倫と親からの愛情、監護や教育を受けることができなくなったことについての因果関係はないとの判断です。
つまり、判例では、親の不倫によって子供が不倫慰謝料を請求することは認められていないのです。

(2)必ずしも認められないわけではないが

上記の判例では、子供からの不倫慰謝料請求は認められてはいませんが、過去には下級審で子供からの慰謝料請求が認められたケースも存在します。
つまり、子供が親の不倫相手に対して慰謝料請求を行うことが100%不可能というわけではないのです。

しかし、受け取ることができる慰謝料はそれほど高額にはならないと考えられますし、そもそも裁判で負けてしまう可能性があることを考えれば、子供が親の不倫相手に慰謝料を請求することは現実的ではないと言うことができるでしょう。

子供の慰謝料請求が認められなくても配偶者は認められる

子供が親の不倫慰謝料を請求して認められないケースがないわけではありません。
しかし、現実的には認められない可能性の方が高いと考えられますし、そもそも子供が裁判を起こすことができるような大人になってから慰謝料を請求することが現実的とは言えないのではないでしょうか?

また、子供が親の不倫慰謝料を請求しても、配偶者が請求するよりも金額的に少額になることが想定されます。
つまり、子供が親の不倫慰謝料を請求することは現実的でないばかりか、あまりメリットもないのです。
子供が不倫慰謝料を請求するくらいであれば、子供が不倫をされた側の親に関わって、親の不倫慰謝料を高額にするようにした方がいいと言えるでしょう。

(1)子供がいる場合には慰謝料が高くなる

不倫慰謝料の相場は、不倫によって離婚に至った場合には200万円〜300万円と言われています。
しかし、一般的に夫婦に子供がいる場合には慰謝料は高くなる傾向にありますので、子供が不倫をされた側の親の慰謝料請求に関わることで、自分は慰謝料を請求することができなくても、不倫をされた側の親が受け取る慰謝料が高くなる可能性があります。

離婚をされた側の親と交渉して、受け取った慰謝料の一部を親に贈与してもらうなどの方法であれば、実質的に子供が不倫相手や親から慰謝料を受け取ったことと同じになりますし、こちらの方が現実的ということができるでしょう。

(2)不倫前は夫婦関係が良好な場合には慰謝料は高くなる

不倫慰謝料は不倫によって夫婦関係がどのように壊れてしまったのかによって高額になる傾向があります。
不倫前は家庭環境が良好であったのに、不倫によって両親が会話をしなくなった、自宅での喧嘩が多くなったなどの場合には、慰謝料が高額になる可能性があります。

このように、子供が直接不倫慰謝料を親の不倫相手や親に請求するよりも、不倫をされた側の親に請求する方がよほど現実的だと言えるのです。

子供と不倫との関わり方

子供がいる夫婦がどちらか一方の不倫によって離婚する場合には、その離婚事由を子供に告げるかどうか、どのタイミングで告げるのか、またはずっと伏せておくのかということは切実な問題です。
不倫をされた側の親は「子供にありのままを伝える」と感情的に考えがちですが、子供のためを思えば感情的に判断すべきではないと考えられます。

子供に不倫の事実を告げるかどうかは、実は不倫慰謝料と同じくらいセンシティブなことですし、できるかぎり夫婦で話し合ってから離婚をすることが非常に重要になります。

(1)子供への不倫の事実に対する説明は?

子供に不倫の事実をどのように話すのかは、夫婦で離婚前にしっかりと話し合っておくべき問題です。
不倫をした側からすれば「自分は悪くない」とか「不倫をした事実はできる限り隠したい」と考えてしまうものですし、不倫をされた側からすれば「不倫の事実はありのままに伝えたい」または「元配偶者のことをできる限り悪く子供に伝えたい」と感情的になってしまうものです。

しかし、子供からすれば、双方の親からの説明が異なるものであれば混乱してしまいますので、子供に伝えることは、お互いの説明で齟齬がないことが重要です。
統一見解とまではいかなくとも、お互いが子供に対して異なる説明をすることがないようにすることが重要です。

また、子供には離婚の原因を隠しておくという選択肢もあります。
この場合も、「子供が何歳になったら説明する」「生涯事実は伏せておく」などの約束事はやはり作っておいた方がよいでしょう。

(2)有責配偶者を公正証書に明記する場合

協議離婚する際に公正証書を作成する場合、有責配偶者を明記することがあります。
有責配偶者とは、離婚の原因を作った配偶者のことです。
離婚に至る原因は様々で、夫婦間において離婚の原因をどちらにするのかということは難しい問題ではありますが、不倫の場合や暴力の場合には、有責配偶者は明確です。

離婚をする時に「何が原因で離婚に至ったのか、子供にしっかりと伝えたい」という思いで公正証書への有責配偶者の記載を希望するケースが少なくありません。
離婚後に単独で親権者となる親とすれば、公正証書に有責配偶者を記載することで、責任関係を明確にして、「自分には責任はない」と証明し、子供からの信頼を得たいという理由で行われることが多いのですが、記載するかどうかはともかくとして、この公正証書を子供に見せるかどうかについては非常に微妙な問題です。

慰謝料請求の際には、夫婦どちらに責任があるのかを明確にすることは重要です。
しかし、それは親の問題で、子供にとっては親のどちらに責任があるのか、親に甲乙をつけるべきなのかということは無関係です。子供にとって親は2人しかいないためです。
子供にとっては離婚した後でも親権を失った親と良好な関係を保つことがベストであることは間違いありません。

離婚した後も公正証書によって、「どちらか一方の親に責任がある」と子供に見せることが正しいことなのかどうかについては大きく意見が分かれます。
あえて離婚の原因を記載した公正証書を子供に見せるかどうかについては慎重な対応が必要で、答えが出せない時は、子供が大人になった後に見せるなど十分に検討し、決して感情的に子供を巻き込まないようにしましょう。

配偶者の不倫で離婚したかどうかは、夫婦間の問題で子供には無関係だということをよく理解するようにしましょう。

(3)離婚後の子供に負担にならないように面会交流について事前にとりきめる

たとえ離婚の原因が夫婦どちらかの不倫であったとしても、不倫した親も子供にとっては大切な親です。
不倫による離婚は不倫をされた側の感情的な問題から「子供には会わせない」と主張する親も少なくありません。

しかし、不倫をした親であっても子供は親に会いたいものなのです。不倫慰謝料の請求だけでなく、面会交流についても事前にしっかりと話し合っておきましょう。

また、前述したように、子供に離婚原因についての説明も齟齬がないように注意しましょう。
面会交流については子供の年齢を考慮することも重要で、たとえば離婚時に子供が中高生などの多感な時期であれば交流の頻度を落とすなど、子供の精神状態に十分配慮したうえで、やはりくれぐれも親の自己満足とならないように取り決めるのが重要です。

まとめ

子供が親の不倫慰謝料を請求することは可能です。しかし、判例においても子供の不倫慰謝料を裁判所が認める可能性は決して高くはないと言えるでしょう。
裁判では不倫によって離婚しても子供の権利の侵害は不倫とは因果関係がないと判断される可能性が高いためです。

子供は直接的に親の不倫慰謝料を請求し勝ち取ることができる可能性は低いですし、勝ち取ったとしてもそれほど金額は大きくなることはないでしょう。
それよりも親を介して不倫慰謝料を獲得した方が確実です。不倫慰謝料は夫婦に子供がいるケースの方が高くなりますし、不倫によって家庭環境が壊れた度合いが大きいほど高額になります。

特に母親が不倫した場合には、家庭環境が壊れる度合いは一般的には父親が不倫をした場合よりも大きくなるので慰謝料は高額になる可能性があります。
いずれにせよ、親は離婚によって子供にかかる精神的な負担軽減に努める必要があります。
たとえ不倫をした親でも、子供にとってはかけがいのない親ですので、決して感情的になってはいけません。
慰謝料請求までは「どちらに責任があるのか」という問題が重要になりますが、その後は子供の目線で面会交流や不倫の事実の告知などについては親同士で慎重に検討するようにしてください。

不倫慰謝料請求に強い弁護士

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