有責配偶者からの離婚請求は可能か?有責配偶者の時効も併せて解説
離婚の原因には、性格の不一致のように、どちらが悪いとは一概に言えないものもあれば、浮気や暴力など、明らかに一方に落ち度があるものもあります。浮気や暴力などで離婚の原因を作った者を「有責配偶者」といいます。浮気や暴力の被害を受けた側が有責配偶者に対して離婚を請求するのが一般的ですが、浮気相手との再婚を考えている場合など、有責配偶者から離婚を切り出されることもないわけではありません。そこで今回は、有責配偶者にスポットを当て、有責配偶者とは何か、有責配偶者からの離婚請求は認められるか、有責配偶者に対する離婚請求に時効(期限)はあるのかなどについて解説します。
有責配偶者とは
(1)有責配偶者の意義
有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させ離婚の原因を作った配偶者のことです。
(2)有責配偶者の具体例
(1)でいう離婚の原因とは、民法で定めた5つの離婚原因のことです。5つの離婚原因とは、次のようなものです。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
たとえば、夫(または妻)が不貞な行為(不倫)をした場合、妻(または夫)からみて夫(または妻)は有責配偶者ということになります。「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が破綻したことをいいます。暴力やモラハラなどによって婚姻関係が破綻した場合、暴力やモラハラの加害者が有責配偶者ということになります。
有責配偶者から離婚を請求できる?
(1)なぜ有責配偶者からの離婚が請求できるのかが問題になるのか
「(2)有責配偶者の具体例」の1.~4.については、民法の規定上、有責配偶者からの離婚請求はできない、あるいは想定されていないといえます。たとえば、1.の「配偶者に不貞な行為があったとき」を例にすると、「配偶者」が不貞行為をしたときに他方の配偶者が離婚を請求できるという体裁になっています。夫が不倫をした場合、妻が離婚を請求できるのであって、夫から不倫をしていない妻に対して離婚を請求することはできないのです。2.も「配偶者から」悪意で遺棄「された」という文言から、遺棄された側から遺棄した配偶者への離婚請求を規定しており、遺棄した配偶者から他方配偶者への離婚請求は想定されていないのは明らかです。3.、4.も同様です。
これに対し、5.の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」は、規定の体裁がやや異なります。1.~4.のように、配偶者の具体的な落ち度や事情を挙げず、たんに婚姻関係が破綻したことを離婚原因としているように見えます。そうなると、暴力やモラハラなどの加害者である有責配偶者からも婚姻関係は破綻した、つまり婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚を請求することができるのではないかという問題が生じるのです。
(2)裁判例の変遷
有責配偶者から、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を請求することができるかについては、法律の規定上明らかでないため、法律の解釈にゆだねられることになります。この点について最高裁の判例は、次のように変遷しています。
夫が、妻を差し置いて情婦をもち、妻と別居して情婦と約2年にわたって暮らした後、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして妻に対して離婚を請求した事案において、最高裁は「上告人(夫)が勝手に情婦を持ち、そのため最早被上告人(妻)とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであって、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない。」とした。
参照元:最判昭27・2・19(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57133)
この判決は、「踏んだり蹴ったり判決」と呼ばれる非常に有名な判例で、5.の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」についても、有責配偶者からの離婚請求は認めないことを明らかにしたものです。しかし、その後、最高裁は、次のように、一定の場合には有責配偶者からの離婚請求が許容されるとの判断を示しました。
有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。
参照元:最大判昭62・9・2(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55213)
この判例は、有責配偶者の離婚請求が認められるには、
- 夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと、
- 夫婦間に未成熟の子が存在しないこと、
- 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められないこと
の3つの要件を満たす必要があると判断しているように読めます。しかし、その後最高裁は、次のような判断を示しました。
有責配偶者からの離婚請求が「信義誠実の原則に照らしてもなお容認されるかどうかを判断するには、有責配偶者の責任の態様・程度、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等がしんしゃくされなければならず、更には、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないものというべきである。したがって、有責配偶者からされた離婚請求で、その間に未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく、前記の事情を総合的に考慮して右請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができると解するのが相当である。
参照元:最判平6・2・8(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62731)
つまり、未成熟子の不存在は、独立の要件ではなく、総合的に考慮される事情の一つという位置付けになります。したがって、未成熟子がいた場合でも、最高裁が掲げる事情を総合的に考慮した結果、有責配偶者からの離婚請求が認められる余地があるということになります。
(3)有責配偶者に対して慰謝料を請求できるか
有責配偶者からの離婚請求が認められる場合であっても、他方配偶者は一方的に離婚されて泣き寝入りしなければならないわけではありません。前記最大判昭62・9・2も、「相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものである」として、慰謝料請求の余地があることを認めています。
有責配偶者に対する離婚請求に時効はある?
これまでの解説とは逆に、浮気や暴力などの有責行為から長期間が経過した後に、他方配偶者から有責配偶者に離婚を請求することがあります。他方配偶者からすれば、長期間が経過しても心の傷は癒えないということでしょうが、有責配偶者からすれば、有責行為があったにせよ、それから長期間が経過してなぜ今さら、と言いたいところでしょう。このような離婚請求が認められるでしょうか?有責配偶者に対する離婚請求について、法律上は時効や期限のようなものはありません。したがって、過去に「(2)有責配偶者の具体例」の1.~4.にあたる事由があった場合、原則として他方配偶者は有責配偶者に対して離婚を請求することができます。
ただし、裁判所は、1.~4.の事情がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を認めることが相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができるとされています。ですから、過去に配偶者の不貞行為などがあったとしても、それから離婚請求までの期間の長さやその後の生活状況などを考慮した結果、離婚請求が認められない可能性はあります。たとえば、過去に配偶者が不倫をしたが、その後夫婦関係は修復し、何十年も一緒に円満に生活していたような場合、過去の不貞行為を理由に離婚請求をすることはできないでしょう。
また、暴力やモラハラなど、5.の婚姻を継続し難い重大な事由にあたりうる行為についても、同様にそれから離婚請求までの期間の長さやその後の生活状況などを考慮した結果、婚姻関係はいまだ破綻していないと判断され、婚姻を継続し難い重大な事由はないとして離婚請求が認められない可能性があります。
まとめ
有責配偶者からの離婚請求や有責行為から長期間経過後の有責配偶者に対する離婚請求が認められるかは、いろいろな事情を総合的に考慮して判断されます。専門的な知識がないと、離婚請求が認められるかどうかの見通しを立てにくいでしょう。有責配偶者からの離婚請求や、有責行為から長期間経過後の有責配偶者に対する離婚請求を考えている方には、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。