不倫を知り別居したい…準備するものと離婚に発展した際にやること
配偶者の不倫を知った時、ショックや怒りで衝動的に実家に戻るなどをして別居を始める方がいます。たしかに、配偶者の顔も見たくないとか、冷却期間を置いた方がいいといった思いを抱くことは理解できます。
しかし、衝動的に別居を始めてしまうと後でさまざまな不利益をこうむるおそれがあるので、別居前にきちんとした準備をしなければなりません。そこで今回は、別居前に準備するものや、別居から離婚に発展した際の注意点などを解説します。
別居前に準備するもの
(1)住まい
別居する以上は、何はともあれ住まいを確保することが最優先の課題になります。時間と費用をかけずに別居するには実家に戻るのが一番ですが、家庭の事情で実家に戻ることができない方もいらっしゃるでしょう。
賃貸住宅を探す場合には、(2)の生活費の確保との兼ね合いから、自分の収入で支払い可能な賃貸住宅を探す必要があります。
(2)生活費
専業主婦やパートをしている女性など、主に配偶者の収入で生計を立てていた場合、別居後の生活費をどうするかという問題があります。夫婦は、別居中であっても婚姻費用を分担する義務がありますので、配偶者に対して婚姻費用の分担を請求することは可能です。
しかし、配偶者が素直に支払いに応じるとは限りません。配偶者が任意に支払わない場合には、家庭裁判所の調停・審判という手続を利用して裁判所で婚姻費用の支払いを決めてもらうことができますが、何ヶ月も時間がかかってしまいます。ですから、別居前に仕事を探しておくなど、当面の生活費の目処を立てておくことが必要になります。
(3)子どもの環境調整
(1)、(2)とも関連しますが、未成年の子どもを連れて別居しようと考えている場合には、子どもの環境調整が必要になります。配偶者が不倫していたとしても、配偶者と子どもの関係が悪いとは限りません。
子どもからすれば、突然、配偶者や住み慣れた家、転校が必要な場合には学校や友人からも引き離されることになるのです。別居はやむを得ないにしても、できる限り子どもの精神的ストレスを軽くするように配慮しなければなりません。
別居時に注意すべきこと
(1)悪意の遺棄と言われないようにする
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとされています(民法752条)。そのため、正当な理由がなく別居することは、「悪意の遺棄」として法定離婚事由に該当する可能性があります(民法770条1項2号)。
法定離婚事由とは、民法が定める5つの離婚原因のことで、5つのいずれかに該当する場合には、配偶者が離婚に応じなくても裁判で離婚をすることができるというものです。悪意の遺棄はその5つのうちのひとつで、正当な理由がなく同居・協力・扶助義務を履行しないことをいいます。
仮に「悪意の遺棄」にあたるとすると、離婚原因を作ったのは別居を始めた方ということになり、配偶者から離婚や慰謝料を請求することができるということになります。ですから、別居する際には、配偶者から「悪意の遺棄」にあたると揚げ足を取られないようにしなければなりません。
夫婦には同居義務があるといっても、正当な理由があって別居することは何の問題もありません。たとえば、仕事の都合で単身赴任するとか、親の介護のために夫婦の一方が実家に戻るなどが考えられます。したがって、別居に正当な理由があることを明らかにできれば、配偶者の「悪意の遺棄」という主張を封じることができます。
(2)不倫に関する証拠を確保しておく
別居に正当な理由があることを明らかにするには、不倫に関する証拠を集める必要があります。配偶者の携帯電話の通話履歴、メール、SNSのやりとり、写真などは、別居してから入手することは困難ですから、不倫に関する証拠は必ず別居前に確保しなければなりません。
(3)配偶者の収入や資産に関する証拠を確保しておく
先ほど解説したとおり、別居中であっても配偶者に対して婚姻費用の分担を請求することができます。婚姻費用は双方の収入を基礎に計算されるので、配偶者の収入に関する証拠を確保しておく必要があります。
また、別居後に離婚に発展する可能性を否定できません。離婚する場合には、配偶者に対する慰謝料や財産分与の請求が問題になります。ですから、配偶者の資産に関する証拠も確保しておく必要があるのです。
別居するベストなタイミングは?
(1)衝動的に別居してはいけない
これまで解説してきたように、別居前にはいろいろな準備をしなければなりません。
衝動的に別居を始めても、貯えが底をつきて生活できない、不倫に関する証拠がなくて離婚や慰謝料の請求が認められない、配偶者が財産を隠してしまって正当な財産分与が受けられないなど、いろいろな不利益をこうむるおそれがあります。
ですから、どれだけショックを受け、怒りを覚えたとしても、衝動的に別居を始めてはいけません。
(2)準備がすべて終わってから別居する
不倫に関する証拠や配偶者の収入・資産に関する証拠は、別居前に確保しなければなりません。それは、別居後は証拠を入手することが現実的に難しいというだけではありません。法律上の問題もあります。
というのも、自分から別居を始めた後に、配偶者の自宅に無断で立ち入るようなことをすると、住居侵入罪が成立する可能性があるからです。このようにみると、別居は、「別居前に準備するもの」「別居時に注意すべきこと」で解説した準備がすべて整ってからするべきといえます。
別居から離婚に発展したらどうなる?
(1)財産分与の基準とされることが多い
離婚をする際、夫婦が共同で築いた財産を清算する必要があります。これを財産分与といいます。
財産分与をする場合、どの時点の財産を分与の対象とするかが問題になります。法律には明確な規定がないため、裁判所は個別の事案ごとに判断していますが、別居後の財産は夫婦が協力して築いたものとはいえないとして、別居時の財産を基準にすることが多いようです。
(2)配偶者から離婚請求される可能性
別居から離婚に発展するのは、別居を始めた方から離婚請求する場合に限りません。不倫をした配偶者から離婚を請求される可能性もあるのです。不倫をした配偶者のように、婚姻関係を破たんさせた原因を作った配偶者を「有責配偶者」といいます。
かつては有責配偶者からの離婚請求は認められないとされていましたが、最高裁は、夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び、夫婦間に未成熟子のいない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しい社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、有責配偶者からの請求というだけで許されないとすることはできないと判断しました(最大判昭和62年9月2日)。
別居を始めた方が常に離婚を希望するとは限りません。世間体や経済的事情(離婚せずに婚姻費用をもらって生活するなど)から、夫婦関係修復の余地がなくても籍だけは残したいという方もいます。
しかし、別居を始めた方に離婚の意思がなくても、上記の要件をみたせば不倫をした配偶者から離婚を請求されるおそれがあるのです。ですから、別居をするには、将来的にそのような事態になるおそれがあることも覚悟したうえで、それでも別居したいかを慎重に考える必要があるといえます。
まとめ
今回は、配偶者の不倫を知ったことによる別居について解説しました。
別居をする前に準備しておくものや別居を始めるタイミングについて自分で判断できるか不安だという方は、不倫や離婚問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。別居をしたあとに弁護士に相談しても、すでに証拠の入手などが難しくなっているおそれがあります。
弁護士への相談は、早ければ早いほど効果が高いのです。当サイトでも不倫問題に詳しい弁護士を紹介しているので、まずはお気軽に相談されてはいかがでしょうか。