卒婚中に配偶者が浮気!慰謝料を請求できるのはどんなケース?
新しい夫婦の在り方として「卒婚」を選択する人が増えています。
しかし、卒婚は生まれてから歴史が浅いこともあり、問題を指摘する声も散見されるスタイルです。
卒婚に関する問題点の一つが、「卒婚中の浮気はどう取り扱うのか」という点です。
この記事では、卒婚中の浮気に対し、慰謝料の請求や離婚対策を考えていきます。
卒婚とは?
そもそも、巷でしばしば耳にする「卒婚」とはどのような夫婦関係を指すのでしょうか。卒婚の定義や離婚との違いを整理してみましょう。
(1)どんな状態を「卒婚」と呼ぶかは夫婦によって異なる
結論から言うと、どのような夫婦関係を「卒婚」と呼ぶかは、夫婦それぞれの考え方によって異なります。
もともと卒婚という言葉は、杉山由美子さんの書籍『卒婚のススメ』から生まれた造語で、そこから一般に広まった概念です。
法律上の定義が特に存在せず、卒婚について判断する基準がないため、「卒婚」をどういう夫婦関係と捉えるかは個人で異なります。
一般的には「離婚はせずに、夫と妻それぞれが自分の人生を生きる夫婦のスタイル」と解釈されていることが多いです。
このように非常に緩やかに理解されている考え方なので、一概に「こんな状況なら卒婚といえる」とは定義できません。
事例を見ると「夫婦関係を少し緩めて自分の世話は自分でする」という程度のものから「籍だけ残して別居し会う機会も設けない」とほぼ他人になるものまで、その態様は様々です。
(2)卒婚と離婚の違い
卒婚と離婚の大きな違いは「婚姻関係の有無」にあると言えます。離婚は夫婦としての関係を解消して別居し、法律的にも夫婦でなくなることです。
一方、卒婚は夫婦としての籍はそのままに、夫と妻それぞれが自分の人生を生きることを指します。別居するかどうかは夫婦によってまちまちです。
卒婚という関係は定義がゆるい概念なので状態は様々ですが、離婚との最も大きな違いは法律上の婚姻関係にあるかどうかでしょう。
(3)卒婚中の夫婦関係は破綻している?
卒婚中に夫婦関係が破綻しているかどうかは、それぞれの夫婦の状態によって異なります。
たとえば、全くの他人になってもう何年も別居しており、お互いに連絡も取っていない状況であれば、婚姻関係は破綻していると考えるのが自然です。
一方、お互いのために食事作りや洗濯などの家事はしないが、同居していて互いに交流もあるような場合だと、婚姻関係が破綻しているとは判断できないこともあります。
何をもって卒婚と呼ぶのか定義がない以上、夫婦関係が破綻しているか否かも、それぞれの夫婦の関係性から個別に判断することが必要です。
(4)卒婚のメリット
夫婦が互いに別の道を歩む場合、卒婚よりも離婚を選ぶのが一般的です。そんな中、あえて卒婚を選ぶことにはどんなメリットがあるのでしょうか。
卒婚のメリットはいくつか挙げられますが、一般に広く認知されているものは以下の通りです。
- 配偶者の世話をしなくてよくなる
- 離婚しないので世間体を保つことができる
- お互いの合意だけで結婚生活を再開できる
- 離婚に関係する面倒な手続きをしなくていい
法的手続きが伴わない分、より緩やかに夫婦関係を解消・再開できるのが最も大きなメリットと言えます。
卒婚は、いわば離婚のメリットだけを享受できる夫婦スタイルです。
(5)卒婚のデメリット
メリットばかりにも見える卒婚ですが、一方で以下のようなデメリットも存在します。
- 新たに恋人ができても、書類上は既婚者なので関係を築きづらい
- 経済的に自立している必要がある
- 親戚や友人など周囲の理解を得にくい
夫婦としての籍が残っていることから、卒婚後の生活にはある程度の縛りができることを覚悟しておかなければなりません。
また、卒婚後は生計を別にする夫婦も多いため、その場合は自分一人でも生計を維持できる収入が必要になります。
卒婚中の浮気は不貞行為に当たるのか
卒婚を考える際、気になるのが不貞行為の取り扱いです。もし卒婚中に配偶者が浮気した場合、不貞行為には当たるのでしょうか。
(1)法律の定義上は不貞行為にあたる
結論から言うと、卒婚中の浮気は、民法の一般的解釈では不貞行為に該当します。
そもそも不貞行為とは、婚姻期間中発生する貞操義務に違反し、配偶者以外と体の関係を持つとことを指します。
貞操義務は夫婦が婚姻関係にあれば常に発生しているものなので、夫婦としての形が残っている以上、卒婚中であっても不貞行為の要件に当てはまるのです。
(2)離婚理由にはなるが卒婚の意味はなくなる
不貞行為は、民法七百七十条に規定のある離婚理由の一つです。ただ、正当な離婚理由にはなっても、卒婚の場合「離婚してしまうとそもそも卒婚の意味がなくなる」という問題が発生します。
離婚のデメリットを回避するために卒婚というスタイルを取ることが多いので、離婚すると本末転倒になってしまうでしょう。
卒婚中の浮気に慰謝料は請求できる?
もし卒婚中に配偶者が浮気をした場合、慰謝料は請求できるのでしょうか。卒婚中に発生した浮気の慰謝料について、その取扱いを考えていきます。
(1)婚姻関係が破綻していると慰謝料の請求は難しい
卒婚中の浮気で慰謝料を請求できるかどうかは、夫婦関係が破綻しているかどうかが一つの判断基準になります。
というのも、不倫における慰謝料の請求の可否は、戸籍上に夫婦としての形が残っているかどうかより、実態が伴っているかを重視して判断するからです。
そのため、事実婚や内縁関係といった、婚姻届を提出しない夫婦関係でも不倫の慰謝料請求は可能になります。
卒婚において不倫の慰謝料請求が可能かどうかという疑問については「婚姻関係が破綻して夫婦として実態がなければ請求できない」と考えるのが妥当と言えるでしょう。
卒婚後別居し、何年も連絡を取っていないようなケースだと、慰謝料の請求は難しいかもしれません。
(2)婚姻関係破綻の定義
では、婚姻関係が破綻しているかどうかはどのように判断すればよいのでしょうか。
不倫を語るうえでよく登場する「婚姻関係の破綻」とは、民法七百七十条に定める離婚事由のうち「その他婚姻を継続しがたい重大な自由があるとき」を指します。
実際の判例で裁判所が、婚姻関係が破綻していると判断しているのは、たとえば夫婦が以下のような状況にあるケースです。
- 長期間にわたり別居している
- 配偶者からの暴力や虐待(DV)がある
- どちらかに著しい浪費や散財がある
- 重大犯罪によって服役している
夫婦関係がこのような状態に陥っており、誰から見ても夫婦生活が崩壊していて回復の見込みがない場合に「婚姻関係が破綻している」とされます。
なお、卒婚は基本的に両者の協議によって行われることが多いです。そのため、婚姻関係が破綻しているかどうかの判断は「別居期間の長さ」が基準になると考えられます。
婚姻関係の破綻要件については以下の記事でも詳細を紹介しているので参考にしてください。
(3)卒婚中の浮気で慰謝料を請求できるケース
卒婚中の浮気では、夫婦関係が破綻しているかどうかによって慰謝料請求の可否が判断できます。では、卒婚中の浮気で慰謝料が請求できるのはどのようなケースでしょうか。
卒婚中の浮気では婚姻関係の破綻がキーになるため、たとえば以下のように婚姻関係が破綻していると考えにくいケースでは、慰謝料を請求できることがあります。
- 卒婚中だが同居しており、性交渉や一緒に外出するなど恋人に近い関係性である
- 夫婦のどちらかが勝手に卒婚を宣言して出ていった
- 卒婚中に過去の不倫が発覚し時効が成立していない
以上のように、卒婚中でも婚姻関係が破綻していない場合や、時効成立前の不倫が卒婚中に発覚した場合などは、慰謝料を請求できる可能性があるでしょう。
なお、慰謝料請求の可否は専門家の判断を仰ぐのが確実なため、弁護士に相談して確認することをおすすめします。
卒婚中に浮気した夫(妻)から離婚を切り出されたら?
卒婚中の配偶者が外で恋人を作ってしまった場合、浮気相手と新たな人生を歩むために離婚を申し出てくる可能性があります。
卒婚中の配偶者から離婚を切り出された際は、どのように対処できるのでしょうか。
(1)離婚したくなければ協議離婚は拒否できる
配偶者から離婚の申し出があったタイミングでは、離婚したくなければ申し出を拒否することができます。
当事者間の話し合いで行う協議離婚はあくまで自由意志に基づいて行われるものなので、離婚の請求も自由ですが離婚を希望しないのであれば断ることも可能なのです。
卒婚においては、離婚を避けることを目的に現在のスタイルに収まっている方も多いはずです。離婚したくないのであれば、まずはしっかりと意思表示をしましょう。
(2)離婚届けの不受理申出
離婚協議を拒否した場合、配偶者が勝手に離婚届けを作成して提出してしまう可能性があります。
事実離婚トラブルにおいてはこういった事例が多く存在しており、意思に反して離婚を成立させられてしまった方は少なくありません。
こんなときに利用できる制度が「離婚届けの不受理申出」です。
この制度を簡単に説明すると、配偶者と離婚したくないけれど離婚届けを提出される恐れがあるときに、役所に離婚届けを受理しないようあらかじめ申し立てておくというものです。
- 配偶者が勝手に作った離婚届けを提出されそうなとき
- 勢いで記入してしまったけれどやっぱり離婚したくない
以上のようなケースで利用できます。なお、離婚したくなった際には取り下げることも可能です。
不受理申出は、夫婦の本籍地の市町村役所に対しておこないます。戸籍担当の課で用紙が用意されているので、窓口に取りに行ってください。
なお、各都道府県が公式サイトでPDFデータを配布していることもあるので、そちらを印刷して提出することもできます。(書式は全国共通なので他府県のものも利用可能です)
手続きを行う際はパスポートや免許証など「官公庁発行の写真付き本人確認書類」の提示を求められますので、窓口で書類を提出する際に持参するようにしてください。
参考:不受理申出|札幌市役所
(3)調停離婚・裁判離婚の可能性がある
配偶者からの協議離婚の要求を拒否した場合、相手が離婚調停や離婚訴訟を起こす可能性が考えられます。
卒婚中の夫婦は、状況次第では「夫婦生活の実態なし(婚姻関係が破綻している)」と裁判所に判断されてしまうことがあります。
夫婦の関係によってはあっさりと離婚を認める判決が出る可能性があるので注意が必要です。
まずは自身の状況を整理し、婚姻関係の実態があるかどうかを考えてみてください。
どうしても離婚したくないときは、弁護士に相談して法廷で争うことも選択肢の一つになるでしょう。
卒婚中の浮気で離婚した際の財産分与
卒婚中の浮気で離婚になってしまった場合、慰謝料を請求できるかは状況によって異なります。では、慰謝料と同じく代表的なお金の問題である「財産分与」についてはどうなるのでしょうか。
結論から言うと、卒婚中の浮気で離婚するケースでも、通常の離婚と同じように財産分与はおこなわれます。ただ、法廷で争ったときは「別居前の共有財産のみを対象として計算する」という判断がなされることがあります。
どういうことかというと、財産分与の対象となるのは「夫婦が共同して作り上げた財産」に限定されるからです。
結婚前から保有している貯金などが対象にならないのはこの要件が理由となっています。
財産分与はあくまで夫婦が協力して作り上げた財産を計算し分配することが目的です。
そのため、夫婦としての実態が消滅している卒婚中に個人で購入した車や不動産、貯金の増加分などは共有財産として認められない可能性が高いでしょう。
財産分与の計算が煩雑になる場合は弁護士などの専門家に依頼することをおすすめします。
卒婚中の浮気を防止する方法
離婚を回避するためにわざわざ卒婚という形を取っているにも関わらず、配偶者の浮気によって卒婚のメリットをぶち壊しにされてはたまりません。
卒婚中の浮気を防止する方法はないのでしょうか。卒婚中の浮気の予防法を考えていきます。
(1)卒婚中の浮気について事前に話し合っておく
卒婚中の浮気を防止したい場合、卒婚関係になる前に浮気について話し合っておくのが最も効果的です。
卒婚に突入してから恋人が欲しくなってしまった際、取り決めがなければ無用なトラブルに発展してしまいます。
また、浮気以外の点でも、配偶者との認識の擦り合わせは必要になるでしょう。
たとえば、卒婚の定義について以下のように認識が食い違っていると、後々のもめ事の種になります。
妻:離れて暮らすけれど交流は続ける別居の恋人のような関係
夫:籍が入っているだけの他人で恋愛も自由な関係
「卒婚」は言葉の定義が非常に緩やかなので、自分と相手が必ずしも同じ方向を向いているとは限りません。
卒婚というスタイルを取るのであれば、最低でも以下の条件は取り決めておきましょう。
- 卒婚の定義
- 夫婦としての今後の関わり方
- 生活費や共有財産の取り扱い
- 浮気の際の対処
以上の内容を明確化することで、卒婚後のトラブルを防止できます。
(2)約束した内容を契約書にすることも可能
卒婚中の夫婦関係について取り決めた内容は、契約書にして各自保管しておくことをおすすめします。
記憶は劣化するため、口約束では万が一の備えとしては心もとないからです。
また、内容も「浮気はしない」などの抽象的なものではなく、約束を破った場合にどのような対処を行うかなど、具体的に詰めておきましょう。
なお、取り決めには破った際の損害賠償など、各種罰則を定めることも可能です。
しかし、法外な金額を要求できるといった条件や、違法な制裁を加えるなど、公序良俗に反する内容は無効となります。
法的に有効な契約とするためにも、契約書の作成は弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。
まとめ
卒婚中の浮気の慰謝料については、夫と妻がどんな関係なのか、どんな生活スタイルなのかを個別に判断する必要があります。
そのため、卒婚中だから請求できる・できないと一概には言えません。まずは自分と配偶者の現在の関係を整理してみましょう。
「卒婚中で浮気の慰謝料を請求できるか分からない…」「慰謝料を請求したいけれど自分の場合はいくらもらえるのか分からない…」こういった不安があるのなら、無料相談が可能な弁護士に意見を聞いてみることをおすすめします。
慰謝料を請求できる見込みはあるか、あるならいくらなのか専門家の目から教えてくれますし、依頼した場合に費用倒れにならないかも確認できます。
卒婚中の配偶者の浮気に悩んでいるのであれば、一度検討してみてください。