浮気(不倫)の慰謝料はどこから対象になる?不倫の定義も併せて解説
夫(または妻)が浮気(不倫)をしていたことが分かった場合、夫(または妻)や浮気相手に対して慰謝料を請求することができることは広く知られています。
しかし、そもそもどこから浮気(不倫)といえるのかについては、あまり知られていないのではないでしょうか。そこで今回は、どこから慰謝料請求の対象となる浮気(不倫)になるのかを解説したうえで、慰謝料請求をするために必要な証拠等について裁判例を交えて紹介します。
どこから浮気(不倫)になるのか?
日常会話では「浮気」「不倫」等と言いますが、法律上の離婚原因となったり、慰謝料を請求する根拠になったりするのは、「不貞行為」と呼ばれるものです。
「不貞行為」とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」であって、「相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わない」とされています(最判昭和48・11・15民集27巻10号1323頁)。つまり、互いに恋愛感情があったか等ではなく、性的関係があったかどうかで判断するというのが、裁判所の立場ということになります。
不倫の慰謝料を請求できる場合・できない場合の境界線
(1)慰謝料請求ができる場合
「どこから浮気(不倫)になるのか?」で解説した不貞行為の定義からすると、不貞行為といえるかどうかは、性的関係があったかどうかが重要ということになります。
しかし、実際に性的関係があったとしても、不貞行為をした配偶者や不貞行為の相手が素直に認めるとは限りません(しらを切ることの方が多いでしょう)。その場合、不貞行為の慰謝料を請求する側が、性的関係があったことを証明しなければなりません。
そうなると結局、不倫の慰謝料を請求できるのは、性的関係があったことを推認させる証拠がある場合ということになります。
(2)慰謝料請求ができない場合
①性的関係がない場合
これまで解説してきたとおり、不貞行為と言えるためには、性的関係があったことが必要になります。したがって、たとえ配偶者以外の異性と両想いになったとしても、食事に行ったりデートをしたりするだけでは、不貞行為にはあたりません。
②性的関係があったことを推認させる証拠がない場合
実際には性的関係があったとしても、それを証明できるだけの証拠がなければ、慰謝料を請求することはできません。したがって、たとえば、2人だけで食事をしたりドライブをしたりといった写真があるというだけでは、性的関係があったとまでは認められないので、慰謝料請求はできないということになります。
③すでに婚姻関係が破綻していたとき
配偶者ある者が、配偶者以外の者と性的関係を持ったとしても、婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、不倫の慰謝料を請求することはできません。
不貞行為で慰謝料を請求することができるのは、それが婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為にあたるからです。不貞行為の時点で婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則としてこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえません。そのため、慰謝料を請求することができないのです(最判平成8・3・26民集50巻4号993頁参照)。
慰謝料請求をする場合にすべきこととは
性的関係があったことを証明できないと慰謝料請求は認められないので、慰謝料請求をしたい場合には、事前に証拠を集めて確保しておくことが重要になります。性的関係があったことについての証拠としては、次のようなものが考えられます。
(1)写真・画像データ
不貞行為の相手方の裸の写真や画像データを配偶者が所持していることがありますが、このような写真等は性的関係があったことを強く推認させる証拠となります。また、配偶者と不貞行為の相手方がラブホテルに出入りする場面の写真など、同室に宿泊したことをうかがわせる写真も、特段の事情がない限り、性的関係があったことを推認させる証拠となります。
これに対し、宿泊を伴わない場合は、一定の時間、同室で過ごしたとしても、それだけで性的関係があったとまでは認められない可能性があります。たとえば、次のような裁判例があります。
「東京地判平成21・12・16」
被告宅内で原告の妻と被告が2人だけで約2時間半を過ごし、被告宅を出てから被告と手をつないで歩いていた事実をもって、原告の主張するように被告宅で被告と原告の妻が肉体関係を結んだこと及びその余韻を表しているなどと即断することはできない(上記事実は原告主張のような疑念を抱かせるものではあるが、被告が被告宅で原告の妻の資格取得のための質問に答え、愚痴を聞いていたなどとする被告の主張及び供述が虚偽であると判断するに足りる証拠等はない。)。
(2)録音テープ・データ
ICレコーダーなどで長時間の録音が可能になったこともあり、録音テープ・データなどが不貞行為を推認させる証拠となる場合があります。たとえば、東京地裁平成27・3・25は、「原告が原告宅居室内にボイスレコーダーを設置していたところ、被告は、平成25年9月2日原告宅居室を訪れ、原告の夫と共に15分くらいいて性交類似行為をし、同宅マンションの非常階段で性行為に及んだ」として、ボイスレコーダーによる録音から不貞行為を認定しました。
また、不貞行為そのものの録音ではなくても、会話の中で配偶者が不貞を認めるような発言をしたことの録音があれば、不貞行為を推認させる証拠になるでしょう。
(3)メール等
近年、不貞慰謝料請求訴訟において、配偶者と不倫相手との間のメール、SNSのやりとりなどが証拠として提出されることが非常に多くなりました。メール等から不貞行為を認定できるかどうかは、メールの通数(通信の頻度)だけでなくその内容が重要です。
①不貞行為を認定した裁判例
「東京地裁平成27年2月27日」
被告は、平成25年2月頃、A(原告の妻)に対し、複数回にわたり、「結婚した~いした~い」、「実現したい」、「家出資金作り!?」、「愛してるAと一緒に暮らしたいよ」、「Aちゃんと泡風呂入り……逢うたんびにホテルはいやでしょ?」、「今、着いたよ 俺も、楽しかったし愛をいっぱい感じたやっぱり、Aちゃんと居るのが一番楽しい 愛してるよ」などという記載内容のメールを送信したことなどから、不貞行為を認めた。
②不貞行為を認定しなかった裁判例
「東京地裁平成28・1・28」
平成21年7月27日以降、原告の夫から被告に宛てた電子メールには、抱き締めたい等の身体的に親密な接触の願望を直截に記載したり、肉体関係を持ちたい旨の願望をほのめかしたものが増えてはいるが、被告から原告の夫にその旨の表明がなされたことをうかがわせる証拠がないことからすると、これら原告の夫から差し出された電子メールを以て不貞行為があったとするには疑問の余地が残るとして、不貞行為を認めなかった。
①、②ともに被告(不倫相手)からのメールのみで配偶者からの返信の有無やその内容までは明らかでないという共通点があります。ただし、②の事案が被告の願望をほのめかしているだけにとどまるのに対し、①の事案では、配偶者とホテルに行ったことなどをうかがわせる内容になっており、このことが両者の結論が分かれたポイントになったと考えられます。
まとめ
不倫の定義と慰謝料を請求するために必要な証拠等について解説しました。不倫慰謝料を請求するには証拠の収集が重要ですから、慰謝料請求に必要な証拠や証拠の入手方法についてより詳しく知りたい方は、不倫問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。