協議離婚とは何か?有利に進める方法や流れを解説
配偶者と離婚をしたいと考えたとき、ほとんどの方は、まず夫婦間で話し合いをしようと考えるでしょう。当事者間の話し合いで離婚することを「協議離婚」といい、日本では離婚の大半が協議離婚と言われています。
しかし、協議離婚の場合、弁護士等の専門家が関与していないことが多いため、本来決めておくべき事柄についての取決めがなかったり、不利な条件に気付かずに離婚してしまったりすることがあります。また、一刻も早く離婚したいとの思いから、不利とはわかっていながら離婚することもあるでしょう。
そのため、協議離婚の場合、離婚した後で離婚条件などについて後悔している方も少なくないのです。そこで今回は、協議離婚の流れや協議離婚で決めておくべきことがら、有利に進める方法などを解説します。
離婚の種類
日本では、離婚は協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4種類に分けられます。協議離婚以外の3つは、家庭裁判所の調停、審判、裁判(訴訟)という手続によって離婚するものです。
- 調停離婚:家庭裁判所の離婚調停(話し合い)で合意をすることによって離婚するもの
- 審判離婚:離婚調停で合意が成立しなかったが、裁判所が相当と認める場合に、審判という形式で離婚させるもの
- 裁判離婚:離婚調停が成立しなかった場合に、一定の理由があるときに裁判所が判決で離婚させるもの
これに対し、協議離婚とは、当事者間の協議によって離婚の合意が成立し、離婚することをいいます。
日本では協議離婚が圧倒的に多い
離婚には4種類あると言いましたが、冒頭でも触れたとおり、日本では圧倒的に協議離婚が多いです。厚生労働省によれば、2017年に離婚した21万2262組のうち約87.2%にあたる18万4996組が、協議離婚によって離婚しています
参考:厚生労働省 人口動態統計 離婚の種類別にみた年次別離婚件数及び百分率
このように、協議離婚が圧倒的に多い理由としてまず考えられるのが、日本では協議離婚が簡易な方法で認められるということです。キリスト教国のなかには簡単に離婚ができない国もありますが、日本では役所に離婚届を出すだけで離婚ができます。これに対して、家庭裁判所の手続を利用するとどうしても費用や時間がかかってしまいます。そのため、離婚条件などに多少不満があっても、協議離婚をする方が多いのです。
また、家庭裁判所の手続には、特定の理由がなければ離婚が認められない(裁判離婚の場合)場合や、慰謝料や財産分与、子どもとの面会交流などの離婚条件について、類似の事件との比較から相場と大きく離れるような結論は出ないといった弊害があります。これに対し、協議離婚の場合、当事者間の合意ができれば離婚の理由や条件はどのようなものでも構いません。協議離婚は合意が出来さえすれば柔軟な解決が可能ということができるということも、協議離婚が多い理由の一つでしょう。
協議離婚の流れ
(1)離婚を切り出す
まずは配偶者に対して、離婚したいことを伝えます。配偶者によるDVが離婚の原因である場合など、事前に別居をしたうえで、文書などで直接顔を合わさずに話し合いを求めることが望ましいこともあります。
(2)交渉
配偶者が交渉の席に着く姿勢を見せた場合には、離婚するかしないか、離婚する場合の条件など(後記「協議離婚で協議すべき事項と協議を有利に進める方法」で詳しく解説します)について話し合いをします。意思疎通ができれば話し合いの形式は問われませんので、直接会って話し合いをするだけではなく、文書や電話、メールなどのやりとりで細部を詰めていくこともできます。
(3)合意成立→離婚届その他書類(養育費についての公正証書など)作成
協議の結果、合意が成立すれば、必要書類の取り寄せや作成をします。協議離婚で最低限必要になるのは、離婚届と戸籍謄本です。離婚届に必要事項を記入し、戸籍謄本とともに役所に提出すれば、離婚が成立します。ただし、後日、離婚の条件などについて争いにならないようにするため、離婚条件などを記載した「離婚協議書」を作成しておくべきです。
とくに、養育費など金銭の支払いについて合意した場合には、「公正証書」にしておくことをお勧めします。当事者間で作成した文書と違い、公正証書を作っておけば、条件が守られなかったときに、裁判をせずに公正証書に基づいて、給与の差押えなどの強制執行ができるからです。
協議離婚で協議すべき事項と協議を有利に進める方法
(1)協議すべき事項
①慰謝料
不倫や暴力など、配偶者の責任で夫婦関係が破たんしてしまった場合、慰謝料を請求することができます。したがって、そのような事情がある場合には、慰謝料について協議する必要があります。なお、離婚時に取決めをしなくても離婚後に慰謝料を請求することもできますが、離婚から3年で消滅時効が完成することに注意が必要です。
②財産分与
離婚にあたって夫婦が婚姻中に共同で築いた財産を分けることを、「財産分与」と言います。預貯金、不動産、自動車などの財産がある場合には、それらの財産をどのように分けるかを協議する必要があります。財産分与も離婚後に請求することは可能ですが、離婚から2年が経過すると請求できなくなることに注意が必要です。
③年金分割
専業主婦(夫)が離婚するような場合、老後の生活に備えて「年金分割」についても協議をしておく必要があります。
年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金記録(厚生年金保険料の納付実績)を当事者間で分ける制度で、これによって将来受給できる年金額を増やすことができます。
年金分割の請求手続も離婚成立から2年以内にしなければならないとされています。
④未成年の子どもがいる場合
未成年の子どもがいる場合、必ず親権者を指定しなければなりません。離婚届に親権者を指定する欄があり、指定がない場合には離婚届を受理してもらえません。ですから、離婚後にどちらが親権者となるかを必ず協議しなければなりません。
また、養育費や子どもとの面会交流についても協議する必要があります。これらについて取決めがなくても離婚自体はできますが(離婚届は受理してもらえますが)、民法は「父母が協議上の離婚をするときは」「父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担」について協議すべきだと定めています。子どもが不利益を受けることのないよう、きちんと話し合っておくべきでしょう。
(2)有利に進めるための注意点
①離婚を切り出す前に証拠を集める
離婚協議を始める前に、証拠を確保しておく必要があります。たとえば、配偶者の不倫を理由に離婚したいという場合、証拠がなければ配偶者に否定されてしまい、話し合いが進展しないこともありえます。また、証拠がなければ慰謝料を請求することも難しいでしょう。
さらに、財産分与についても、預貯金通帳など配偶者の財産についての資料がないと、具体的な話し合いができません。しかし、不倫や配偶者の財産に関する証拠を離婚を切り出した後に集めようとしても、配偶者が警戒してしまい、証拠の隠滅や財産隠しをされるおそれがあります。ですから、離婚を切り出す前に必要な証拠の収集を終える必要があるのです。
②感情的にならない
夫婦間で話し合いをすると、ついつい感情的になりがちです。しかし、こちらが感情的になると相手方も感情的なってしまいます。その結果、こちらが法律的には正しい主張をしても、相手方が感情的に受け入れず、いたずらに交渉が長引いてしまうこともありえます。ですから、離婚の協議は冷静に行うように心がけましょう。
③話し合いの内容を記録に残す
一度で話し合いが終わらず、何度か話し合いを重ねることも珍しくありません。そうなると、相手方が前言をひるがえす(一度は不倫を認めながら後になって否定するなど)事態も考えられます。そのような事態を防ぐため、話し合いの詳細な記録を残しておく必要があります。その場でメモを取って双方が確認するとか、録音するといった方法が考えられます。
④弁護士に相談する
どのような証拠を集めればいいか、慰謝料はどの程度が相場か、協議すべき事柄を忘れていないかなど、専門的な知識がなければわからないことも多いでしょう。できれば早い段階で弁護士に相談し、証拠の集め方や離婚条件の相場、交渉の進め方などについてアドバイスをしてもらう方がいいでしょう。
協議離婚がまとまらない場合
配偶者と協議を重ねても、合意に至るとは限りません。協議がまとまらない場合、まだ同居しているのであれば、別居をして離婚の決意が固いことを配偶者に理解させるという方法が考えられます。それでも配偶者が離婚に応じない場合にどうしても離婚をしたいときは、家庭裁判所の手続を利用するしかありません。
家庭裁判所の手続を利用する離婚の中で、裁判離婚は相手方が離婚に同意しなくても裁判所が離婚を決めることができるというものです。ですから、配偶者が離婚に応じないがどうしても離婚したいという場合、裁判離婚の手続がふさわしいように思われます。
しかし、制度上、いきなり離婚裁判を起こすことは認められていません。まず家庭裁判所の離婚調停をし、裁判所の調停委員を介して話し合いをしても合意ができず、調停が成立しなかったときにはじめて、離婚裁判を起こすことができるとされています。したがって、協議離婚がまとまらない場合にどうしても離婚したいときは、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。
まとめ
今回は、協議離婚について解説しました。協議離婚は、うまく進めれば費用も時間もかけず、柔軟な解決ができるので、当事者にとってはメリットの大きいものです。離婚を考えている方は、今回の記事を参考に、準備を整えたうえで離婚の話し合いをするようにしてください。自分ひとりで交渉できるか不安だという方は、早めに離婚問題に詳しい弁護士に相談するというのも選択肢に入れるといいでしょう。