パートナーの不貞行為を理由に親権は取れる?親権争いで勝つ方法を解説
「不貞行為をしたパートナーに大切な子供の親権を渡したくない」「不倫をするような親が親権を取ったら子供の将来が心配だ」など、配偶者の不貞行為が原因で離婚することになったご夫婦の中には、親権の問題で悩まれる方が少なくありません。
しかし、配偶者に比べて収入が少なくても親権が取れるのか、子供が複数いる場合に兄弟一緒に親権を取れるのか等、親権争いについて具体的にどう対応すればいいのか分からないという方は多いのではないでしょうか。
実際に、不倫をした配偶者よりもご自分の方が子供に対する愛情が深いと思っていても、それだけでは親権を確実にとれるわけではありません。
そこで今回は、不貞行為をしたパートナーに親権を渡さず、ご自身が親権争いで勝つためにどうしたらいいか、どのような対策を取っておくべきか等、親権の獲得についてご説明させていただきます。
パートナーの不貞行為を理由に親権争いで勝てる可能性
子供がいる夫婦が離婚するときに問題になるのが親権です。
親権争いに勝つためには、まずはそもそも親権が何なのかを抑えておく必要があります。
(1)親権とは何か
親権とは、未成年の子供の監護・養育、財産の管理を行い、子供を代理して法律行為をする権利や義務のことをいいます。
成人した子供については、1人で有効に法律行為ができるため、親権は問題になりません。
親が結婚している間は、両親が共同して親権を行使するのが原則ですが(民法818条3項)、離婚する場合は、父親か母親のどちらかを親権者に決めなければいけません。
親権は、子供の世話や教育をする「身上監護権」と、子供の財産を管理し代理人として法律行為をする「財産管理権」の2つに分けられます。
身上監護権の中に、子供が住む場所を指定する権利である居所指定権や、子供のしつけをする懲戒権が含まれるため、一般的に「親権を取って子供と一緒に暮らす」という場合は、身上監護権の内容を指しています。
通常は、身上監督権と財産管理権は一緒に考えるので、「親権者」になれば子供と暮らせますが、離婚の場合は「親権者」とは別に「監護者」を決め、監護者が身上監護権だけを持つこともあります。
この場合は、親権を取っても子供と暮らせないこともあるので、親権をめぐる合意をする際は十分に注意が必要です。
(2)パートナーが不貞行為をした場合の親権争い
パートナーが不倫(不貞行為)をして離婚する場合、このように離婚原因を作った側を「有責配偶者」といいます。
不倫された側からすれば、不倫して家庭崩壊を招いたような親は人間性に問題があるので、親権をとる権利はないと考えたくもなります。
しかし、離婚原因と親権は、別々に考えることになっています。というのも、親権者が父親か母親のどちらになるかは、親の事情や子供の事情を踏まえて、子供の利益になるように判断されるからです。
そのため、事情によっては、有責者配偶者側も親権を取れる可能性があります。
親権争いの手順とルール
離婚する夫婦に未成年の子供がいる場合、夫婦のどちらかを親権者に決めることは離婚の条件になります。
親権者が決まらなければ離婚することはできません。
親権争いが起きても、当事者の話合いで決着がつけば、夫婦のどちらが親権を持っても問題ありませんが、話し合いで合意できない場合は、裁判所の手続きを利用して親権者を決定します。
(1)話合いで親権争いを決める
夫婦が話し合いで離婚をする協議離婚の場合は、親権争いも話し合いで行います。
子供に兄弟がいる場合の親権者の決め方も、全員一緒に親権者になるのでも、兄は父親、妹は母親というような決め方をすることも可能です。
(2)調停で親権争いを決める
当事者の話し合いでは親権争いがまとまらない場合は、裁判所に調停を申し立てて親権者を指定してもらいます。
親権者を決めるためだけの調停(親権者指定の調停)もできますし、離婚自体で争っている場合は、離婚調停と一緒に行うこともできます。
調停とは、調停委員という第三者を間に入れて行う話し合いの制度をいいます。
調停がまとまれば、「調停証書」という書面に合意内容が記載され、調停証書は裁判の判決と同等の強い効力を持ちます。
しかし、あくまでも調停は話し合いの制度なので、必ず合意できるとは限りません。
(3)審判・裁判で親権争いを決める
調停でも親権者争いを合意できなかった場合は、自動的に審判手続きに移り、家庭裁判所が親権者を指定します。
ただし、審判は協議に代わるもので終局的な解決を図ることが難しいので、通常は裁判で親権者を決定します。
家庭裁判所が親権者を決める場合は、裁判所が調査官を派遣して自宅や子供の学校を訪問したりヒアリングをしたりするなどして、親権者を決めるための調査を行うことがあります。
裁判所の判断では、親の年齢や生活環境、監護の熱意、子供の年齢や意思などをもとに、子供の利益を踏まえて親権者が決定されます。
そのため、事情によっては、不貞行為をした配偶者が親権者になる可能性もあります。
調停や裁判での親権争いで有利に考慮される4つの事情
調停や裁判で親権争いを決着する場合、家庭裁判所では、「子の利益」が親権者を決める際に考慮されます。
子の利益を判断する要素として、以下の4つの原則があります。
(1)継続性の原則
離婚は親の事情です。そのような親の事情で、幼い子供の学校生活や友人関係などの環境を変えない方が子供にとって有益であるという考え方に基づきます。
できるだけ子供の生活環境を維持できるように、これまで子供と同居するなどして子供を監護してきた側の親が優先される原則です。
(2)兄弟姉妹不分離の原則
夫婦に複数の子供がいる場合は、親権者は1人ずつ決定します。
つまり、兄の親権者は父、弟の親権者は母という風に、兄弟姉妹の親権者が異なっても問題ありません。
しかし、兄弟姉妹は一緒に生活する方が子供の人格形成の面からプラスになるという考え方に基づいて、兄弟姉妹は分けずに、同じ親に親権を統一した方がよいという原則です。
(3)子供の意思の尊重の原則
親権争いを審判や訴訟でする場合、子供が15歳以上の場合は子供の意見を聞くことが義務とされています。
それだけで親権者が決定するわけではありませんが、特に15歳以上の子供の場合は、その意思が重視されるという原則です。
(4)母親優先の基準
昔は、親権者の決定には母親が優先するとされていました。
昨今は、男女平等の原則やイクメンと呼ばれる育児に積極的な父親の増加に伴い、以前ほど重視されていません。
しかし、子供の年齢が幼い場合は、母親的な役割を担い子供を監護してきた人が親権者にふさわしいという考えに基づき、母親が優先されます。
具体的には、子供の年齢に応じて以下のような目安があります。
- 0歳~10歳:母親が親権者になる可能性が高い
- 10歳~15歳:両親の生活条件などが同じ場合には母親が優先される可能性が高い
- 15歳~20歳:子供の意思を尊重して親権者が決定される
- 20歳以上:成人に達すると親権者の指定は不要
このように、子供が0歳~6歳の未就学児の場合は、母性優先の原則によって、母親が親権者になる可能性が高いということができます。
なお、母親が妊娠中に離婚する場合は、出産した母親がそのまま親権者になるのが原則です。ただし、夫が後から改めて裁判所に親権の獲得を申し立てることもできます。
不倫したのが母親か父親かで親権獲得が変わる可能性
不倫で離婚する場合、離婚の条件については不倫した側が圧倒的に不利な立場になります。
不倫(不貞行為)は、法律で定められた離婚原因であり(民法770条)、夫婦の貞操義務(配偶者以外の異性と性交渉しないという義務)に違反した行為のため、不倫された側は裁判を起こして離婚や慰謝料を請求することもできます(同法90条)。
しかし、離婚と親権の決定は別問題です。
夫婦の問題であり、義務違反や損害賠償が問題になる離婚の問題と、子供の利益を第一に考えるべき親権とは性質が異なるからです。
そのため、不倫したのが母親であっても父親であっても、不倫をした有責配偶者であることを理由に親権獲得が損になるということは大きな影響を与えません。
特に子供が幼い場合は、基本的に母親が親権を獲得するケースがほとんどです。
ただし、親権者の決定には、子の利益に関する4原則に加え、養育の熱意や、子供の面倒を見ているかどうか、子供をこれから世話できるか、子供への虐待はないかなども考慮されます。
特に、不倫をした配偶者に以下のような事情がある場合は、母親であっても父親であっても、不倫をしていない側の親に親権者が認められやすくなります。
- 不倫関係にはまり家事や育児をしなかった
- 朝帰りが多いなど、不倫によって生活が乱れていた
- 不倫相手に心理的、経済的に依存している
- 不倫をした配偶者が家を出て行った
- 不倫相手が子供を虐待した
つまり、不倫をしたのが母親の場合、子供が幼い場合は「母性優先の原則」によって有責配偶者でも親権獲得は母親に有利になりますが、母親の不倫に上記のような事情がある場合は、子供が幼くても母親が親権を取れない可能性があるということになります。
また、親権者の指定ではありませんが、子供の意思が尊重されるという点では、妻が「こどもらもすてたい」といった内容のメールを送ってきたため、夫が3人の子供を連れて別居し離婚したケースで、父親と生活したいという9歳の長男の意思を尊重して、妻への引き渡しを認めなかった裁判例もあります(最高裁平成31年4月26日決定)。
親権争いで負けたくない親がやっておくべき対応のポイント
親権争いで負けたくない、子供の親権を取りたいという場合は、子供の利益の観点から、以下のような対応を準備しておくことがポイントになります。
(1)住居と収入の確保
親権を決める際、親の経済力は考慮される事情の一つになります。
無職である、収入がないというだけで親権争いに負けるわけではありませんが、無収入では子供を養育できません。
また、住居がなければ、子供と同居して学校に通わせることもできません。
そのため、離婚する前に、将来に向けて収入を得る手段や、住居の確保はしておく必要があります。
(2)子育ての実績を残しておく
親権争いにおいて、裁判所は親が子供を監護する能力があるかを考慮します。
具体的には、子供に栄養バランスと取れた食事を作る、予防接種など子供の健康管理に気を付ける、幼稚園や学校の送り迎えをする、一緒にお風呂に入ったり寝かしつけを行ったりなど、子育てを十分に担うことができることを主張していきます。
しかし、実際の調停や裁判では、父親と母親が同じように子育てをしたことを主張したり、何もしなかったと相手の言い分を否定したりするようなケースも多いです。
そのため、子育てをした実績を証拠化できるように、育児日記をつけたり、SNSで日常的に子育ての様子を配信したりするなどしておくと効果的です。
(3)子供の教育環境の安定や教育プランの策定
「子の利益」の判断基準のひとつに、現状維持の原則があります。
これは、子供の生活環境をできるだけ維持することが求められるというものです。
親権を獲得したい場合で、特に引越しを要する場合は、離婚後に子供が学校に従来同様通えること、きちんとした教育を継続して受けられか等、十分に周囲の環境を調べておくことが必要です。
また、自身が子供の教育・養育に熱意があることを示すために、子供の保育所や幼稚園、小中高校などの、発表会や運動会、授業参観などに積極的に参加し、その記録を残しておくことも重要です。
子供との絆を深めることは勿論、養育・監護をするのにふさわしいと有利に判断してもらえる一助になります。
(4)サポート体制の調査と準備
親権獲得のためには、親1人の環境や事情だけではなく、親族など周りのサポートを受けられるかどうかも考慮されます。
特に、収入を得ることが親権獲得の重要な要素であることから、仕事が忙しい場合に親のサポートを受けられるかという点は重視されます。
親や実家のサポートを受けるのが難しい場合でも、働きながら子育てをするのに利用できる託児所を調べておく、利用できる行政のサービスを申し込んでおくなどのリサーチと準備が必要です。
特に、子供が小学校を卒業する12歳以下の場合は、仕事の間に子供の世話を頼める人や場所を見つけておくことがポイントになります。
(5)家庭裁判所の調査官との友好関係
親権を調停や裁判で争う場合、家庭裁判所が調査官を派遣して自宅や学校を訪問したり、子供に質問をしたりするなどして、親の子供とのかかわり方や生活環境を調査します。
調査官は、親権の決定に大きな影響力を持つので、面談などで会う際は待ち合わせの時間を守ることや、清潔感ある服装を心がけること、調査官が自宅に来る場合は掃除をしておくなど、生活環境が安定していることを示せるように準備しておきます。
また、調査官の質問に対する答えに矛盾があると、有利に考慮してもらうことが難しくなります。
ご自分が親権者としてふさわしいと証明できるように、子育ての実績をまとめたり、日々の日課をこたえられるようにしたり、相手方配偶者が主張してくる可能性がある自身に不利な事実について反論や合理的な説明ができるようにまとめておくなど準備しておきましょう。
(6)弁護士への相談・依頼
親権争いに勝ちたい場合は、弁護士に依頼をして、調査官や調停で間に立つ調停委員に親権を取りたい意思を十分に伝える活動をすることも有効です。
調停や裁判では、ご自身が親権者としてふさわしいという主張・立証をすることは勿論ですが、相手方が自分の方が親権者に向いていることを主張するために、ご自身が親権者にふさわしくないとあることないこと主張したり、過去の細かいミスをあげつらったり、場合によってはうそをついてくることもあります。
このようなネガティブな主張に対応するのは、精神的にも非常に辛く追い込まれやすくなります。
1人で対応していると、思わず激高して声を荒げてしまい、調停委員にマイナスに評価されて相手の思うつぼに陥ることもあります。
弁護士を依頼すれば、こうした対応も相談し、任せることができるので安心につながります。
不貞行為で親権を争う場合に弁護士に相談・依頼するメリット・デメリット
不貞行為で親権を争う場合に弁護士に相談・依頼することには、次のようなメリットがあります。
まず、夫婦で親権について話し合う場合には、不倫をした相手よりもご自身の方が親権者にふさわしいことを合理的に主張し、相手を納得させる可能性が高まることです。
文書のやり取りになっても、弁護士が代理人として行うことで、相手に本気度が伝わりやすいメリットがあります。
次に、調停や裁判になった場合にも、ご自身が親権者にふさわしいことを主張するための、育児記録の付け方や学校行事への参加などのアドバイスを受けられ、証拠化できることです。
調停委員や調査官との対応のアドバイスを事前に受けることで、親権決定に大きな影響力を持つ彼らを味方につけ、有利に交渉できる可能性が高まります。
さらに、親権だけでなく離婚や慰謝料請求などについても争いがある場合は、1人の弁護士に相談・依頼することで、一気に解決を目指すことも可能です。
一方で、弁護士に相談、依頼するデメリットとしては、費用面が第一にあげられるでしょう。
実際の弁護士費用は、以下の目安を参考にして下さい。
- 相談料…30分5,000円+税、1時間1万円+税
- 着手金…10万円~50万円
- 報酬金…30万円~(慰謝料額の10~30%)
- 日当…調停や裁判などに出向いた場合の費用
- 実費…郵便代や交通費など
最近は、初回相談無料という弁護士や法律事務所も増えています。
親権獲得は、子供の将来にも関わる大きな問題です。
まずは法律相談で、親権獲得に向けて今すぐ取るべき対応のアドバイスを受けつつ、依頼した場合の見積もりを出してもらいましょう。
まとめ
今回は、配偶者が不倫、不貞行為をした場合に、親権争いで勝つための方法や、実際に考慮されるポイントについてお話しました。
パートナーの不貞行為が原因で離婚する場合、それだけでも辛い上に、親権争いも加わると精神的負担は大きくなります。
親権争いに勝ち、子供と一緒に暮らせる将来の生活を手に入れるためには、取るべき対応、準備すべき内容を、専門家である弁護士からアドバイスを受けておくことがとても大きな助けになります。
親権争いでお悩みの方は、まずは弁護士にお気軽にご相談されてみてはいかがでしょうか。