不倫の慰謝料請求|自分で手続きをする流れと専門家に依頼する弁護士費用を解説
不倫の慰謝料を自力で請求したい、または慰謝料請求をしたいけれど弁護士に頼むのは費用が心配など、不倫の慰謝料請求をする方法についてお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
不倫の慰謝料請求は、弁護士に頼まなくても自分ですることができます。
ただ、請求方法や請求する際の文言を誤ると、請求の効果がなかったり、請求した行為が脅迫にあたったりなどとして問題になる可能性もあります。
また、ケースによっては、弁護士に頼んだ方が適正額の慰謝料を短期間で支払ってもらうことができ、コストパフォーマンスがかえって良い場合もあります。
そこで今回は、不倫の慰謝料請求の手続きを自分でする場合の流れと、弁護士に依頼する場合の費用の目安や相場などについて解説したいと思います。
不倫慰謝料を請求できる5つの条件
不倫慰謝料を請求する場合、まず行うべきなのは、ご自身に慰謝料請求権があるかどうか、配偶者の不倫が、法的に慰謝料を請求できるケースかどうかを確認することです。
「不倫」は一般的な概念なので、キスやデートも不倫と考えて、慰謝料を請求した結果、相手が任意で払う分には問題ありません。
しかし、法律的には、不倫は「不貞行為」を指します。
不貞行為とは、配偶者以外の異性とセックスをすることです。日本では不貞行為は犯罪ではありませんが、夫婦は配偶者以外と性交渉をしないという「貞操義務」を負っており、不貞行為はこの義務に違反した「不法行為」に該当します。
法律では「故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法90条)と定められているので、不貞行為をして貞操義務を侵害し、夫婦の平和な生活を壊した人は、夫や妻に負わせた精神的苦痛という損害をお金で償う責任を負います。このお金が「慰謝料」です。
慰謝料を請求できるのは、具体的には次の5つの条件を満たすことが必要です。
(1)婚姻関係にあること
慰謝料は、婚姻届を提出して法律的に結婚した配偶者が不貞行為をした場合に請求できます。
夫婦同然に生活する内縁の夫婦の場合は、準婚関係として貞操義務が認められ慰謝料請求できますが、単なる同棲相手の場合、慰謝料請求はできません。
(2)婚姻関係が破綻していないこと
慰謝料請求が認められるのは、配偶者が貞操義務に違反して不貞をし、夫婦関係が壊れて精神的苦痛を被ったからです。
そこで、既に離婚を前提に別居しているような夫婦には保護すべき夫婦間の利益がないとみなし、不貞をしても慰謝料請求はできません。
(3)不貞行為があったこと
慰謝料は、不貞行為をした場合に貞操義務違反があったとして請求できます。
口淫でも該当するという考えもありますが、裁判では専ら性交渉だけが不貞行為と考えられています。ただし、性交渉を伴わない場合でも、あまりに関係が親密なために夫婦関係が破壊されたような場合は、例外的に慰謝料請求が認められる可能性もあります。
(4)不倫相手の故意・過失
不倫相手に慰謝料請求をするには、不倫相手がわざと(故意)または不注意で(過失)不貞行為をしたことが必要です。
配偶者が独身とウソをつき、不倫相手がそれを信じる合理的な理由があった場合は、不倫相手への慰謝料請求は認めれられません。
(5)自由意思に基づく性交渉
慰謝料請求は、不貞行為が自由な意思で行われたことが必要です。
万が一泥酔させたり、強制的に性交渉をしたりした場合は、不貞行為どころか(準)強制性交等罪(刑法177条、178条2項)の犯罪行為に該当します。
不倫の慰謝料請求での示談書の書き方とは
自分で慰謝料請求をする場合、口頭でも慰謝料支払いの合意は成立しますが、内容を証拠化するために「示談書」(合意書、同意書などということもあります)を作成するのが通常です。
ここではその書き方や注意点を解説します。
(1)不倫慰謝料の示談書に書くべき内容
示談とは当事者間の合意のことをいい、示談書とはその内容を書面にしたものです。
示談は、1回しかできないのが原則なので、示談書には慰謝料の支払いを含めた内容をきちんと記しておく必要があります。
不倫で離婚するか、慰謝料だけを請求するかなど、内容によっても異なりますが、通常以下の5点は記載します。
①不貞行為を認める内容
いつ、誰が、どのような不貞行為をしたかを記します。ここでは「不倫」ではなく、「不貞行為」と書くようにします。
②示談金の金額や支払い内容
示談金は、不倫慰謝料を含む、今回の不倫に関する一切の解決金を指します。
「慰謝料」としても構わないのですが、不倫で離婚や別居を余儀なくされた場合はその引っ越し費用なども含めて「示談金」とするのが一般的です。
あわせて、何月何日までに振り込むなど、支払方法と期限も定めておきます。
③不倫関係を解消することの合意
夫婦が離婚しない場合は特に、不倫関係を解消させたいと思うのは当然です。
不倫相手に限らず、今後不貞行為をしない約束を盛り込んでおくことをお勧めします。
④禁止行為
上記に関係しますが、不倫関係を解消させる約束だけでなく、メールしない、会わない等の約束事も記しておくと確実です。
また、今後の生活を踏まえ、不倫について口外しないということも書いておくと安心でしょう。
⑤ペナルティ
示談金が支払われない場合や、上記の禁止行為に違反した場合のペナルティについても記します。
配偶者に対しては離婚をする旨や、追加の違約金について記載します。
(2)不倫の慰謝料請求書のテンプレート
ここでは、不倫相手と締結する不倫の慰謝料請求の示談書の書き方をご紹介します。
示談書 |
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甲(不倫された配偶者)と乙(配偶者の不倫相手)は、以下の通り合意した。1.不貞行為の事実 乙は、甲に対し、●●年●月から●●年●月の間、甲の配偶者である××との間で、▼▼のラブホテルに行くなど複数回の不貞行為を行った事実を認め、謝罪する。2.示談金 本件不貞行為の示談金として、乙は公に対して、金××円の支払い義務があることを認める。 乙は、上記金××円を、甲の指定する以下の口座に、●●年●月●日までに振り込む方法により支払う。 ××銀行××支店普通預金口座××× 名義 甲3.不貞関係の解消 乙は、甲に対し、××との関係が、●●年●月●日に終了し、今後××と不貞行為をしないことを約束する。4.禁止行為 乙は、甲に対し、××と、二度と面会しないこと及び、電話、手紙、メール、SNSなどいかなる手段でも連絡を取らないことを約束する。 甲、乙は、本件について互いに口外しない。5.違反した場合の合意 乙は、甲に対し、本示談書記載の事項に違反した場合は、金▼▼円を支払うことを約束する。本示談内容を証するため、本示談契約書を2通作成し、各自1通を保有する。 ●●年●月●日 |
相手が応じなかった場合の慰謝料請求の流れとは
上記の示談書は、慰謝料請求に相手が応じた場合に作成するものですが、そもそも話し合いに相手が応じないケースも少なくありません。
そのような場合は、以下の手順で慰謝料請求を行います。
(1)内容証明郵便で請求する
内容証明郵便とは、郵便局が「誰が、誰に、いつ、どのような内容の文書を送ったか」を証明してくれる郵便のことです。
通常の郵便に加えて手数料がかかりますが、後日裁判になった場合に、「いつ、こういう内容の手紙を送って請求した」ことの証拠になったり、慰謝料請求権の時効が近づいている場合には、時効を一旦中断させたりすることができます。
内容証明郵便の用紙は自由ですし、縦書きでも横書きでも構いません。
ただし、縦書きの場合は用紙一枚に26行以内・一行に20文字以内、横書きの場合は用紙一枚に26行以内・一行に20文字以内、用紙一枚に20行以内・一行に26文字以内、用紙一枚に40行以内・一行に13文字以内のいずれかで書く等の決まりがあります。
内容証明郵便で慰謝料を請求する場合は、上記の示談書と書くべき内容は似ていますが、以下のような内容を書いて送りましょう。
①表題
通常は「通知書」と記します。
②不貞行為の事実関係
誰が、いつ、どのような不貞行為をしたかを記します。示談書ではないので、相手が認めて謝罪することは書かず、事実のみを記します。
③不法行為に該当すること
上記の不貞行為が、不法行為(民法709条)に該当すると書きます。
④不貞関係の解消、禁止行為
内容証明郵便にも、配偶者との不倫関係を解消し、接触を禁止する文言を書いて構いません。
具体的には「甲の配偶者である××との交際の中止を請求する」などと書きます。
⑤慰謝料請求、支払方法
不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料金▼▼円を請求する、という金額を明示して請求します。
示談書と同じく、支払期限と振込先を記します。
⑥ペナルティ
上記の支払い期限までに支払いがない場合のペナルティとして「断固たる法的措置に移行する」などと書いておきます。
しかし、会社にばらすとか、ネットに書くとか、脅すような文言を書いたり、違約金1,000万円を払え、など法外な要求をすると、逆に訴えられたり無効になる場合もあるので注意してください。
最後に、示談書と同様、日付を記し、送り主と宛先の氏名、住所を記します。
内容証明郵便は、郵送用、自分の保管用、郵便局の保管用として、同じ手紙を3通作成します。
(2)調停で話し合って請求する
不倫相手が内容証明郵便での請求にも応じない場合は、法的措置に移行します。
しかし、いきなり裁判を起こすのではなく、まず調停の申し立てを行います。
調停は、裁判所において、調停委員という第三者を交えて行う話合いです。
調停で話し合いがまとまると、裁判の判決と同等の強い効力を持つ「調停調書」が作成されます。
調停でも合意に至らない場合は審判に移行します。
審判は、裁判所が非公開の場で離婚について判断する手続きです。
裁判より簡単というメリットがある一方、片方が結果を受け入れないと裁判になるので、実務ではほとんど利用されません。
(3)裁判を起こして請求する
調停や審判でも不倫相手が慰謝料の支払いに応じなかったり、金額を争ったりする場合は、最終的に裁判に移行します。
裁判は、裁判所が強制的に判断を下すもので、慰謝料請求権があるかどうか、慰謝料の額が妥当かどうかなどを、証拠に基づいて決定します。
そこで、特に裁判で慰謝料請求を争う場合は、不貞行為があった事実を示す証拠と、不倫慰謝料の金額の根拠となる証拠を示すことが重要です。
具体的には、不貞行為があった証拠としては、ラブホテルに出入りする写真や動画、性交渉があったことを示したり推認させたりするメールやSNSのやり取り、音声データ、ラブホテルの領収書などがあります。
不倫慰謝料の金額を示す証拠としては、不倫期間の長さや、不倫相手が不倫の主導的立場にあったこと、不倫相手の社会的地位や、夫婦の結婚期間の長さなど、慰謝料を増額させる事情を示すものを提出しましょう。
不倫の慰謝料請求を専門家に依頼した場合の弁護士費用の目安
不倫慰謝料の請求を弁護士に依頼した場合の費用としては、以下の目安をご参考ください。
- 相談料:依頼する前にかかる相談費用…30分5,000円+税、1時間1万円+税
- 着手金:成功、不成功に関わらず依頼時に払う費用…10~30万円
- 日当:裁判などに出張した際の費用…1回あたり1~5万円
- 報酬金:事件が成功した場合の成功報酬…経済的利益(獲得した慰謝料)の10~20%
- 実費:郵送料や印紙代など…数千円程度
最近は、相談料が無料だったり、内容証明郵便の送付だけを数万円でやってくれたりする弁護士もいます。
ホームページで比較したり、法律相談で見積もりを出してもらったりして検討しましょう。
とはいえ、弁護士費用がかかるのは困る、自分でやった方がいいのかと迷う方もいるかもしれません。
不倫慰謝料の請求は、ご自身でもできますが、事案によっては複雑で負担が大きくなることもあり、弁護士に依頼した方が、コスパが良かったり、早期解決が望めたりする場合もあります。
次のようなケースでは、弁護士への依頼を検討することをお勧めします。
(1)不倫相手が交渉を無視する場合
妻や夫からの連絡には応じない不倫相手でも、弁護士から連絡が来ると驚いて連絡が付いたり、こちらの本気度が伝わって交渉が開始できたりするケースは少なくありません。
(2)不倫相手が慰謝料金額に納得しない場合
不倫慰謝料は、損害賠償に加えて、相手へのペナルティの性質もあります。
そこで、相手が支払えるけれどダメージにはなる、という金額を請求することが多いです。
早期解決を目指す場合は、相手の支払いが難しい高めの慰謝料をあえて請求し、相手の減額要求に応じるという手法もあります。
ただし、こうした交渉は、妥当な金額を分かった上での経験が必要になりますし、もし支払いが滞った場合の対処法まで相談できるので、弁護士に依頼した方がいいケースと言えます。
(3)配偶者の社会的地位が高い場合
不倫をした配偶者が公務員、教員、社会的地位が高い場合など、不倫自体がスキャンダルになる場合もあります。
このような場合は、弁護士に依頼して早期解決を図るとともに、勤務先やマスコミに情報が漏れることを防ぎ、今後の口外を防ぐなど対応を依頼することで、リスク回避の可能性が高まります。
弁護士に慰謝料請求を依頼するメリット・デメリット
不倫慰謝料は自分でも請求できますが、あえて弁護士に相談・依頼するメリットとしては、夫婦の事情に応じた慰謝料額や、慰謝料を効果的に請求するための証拠集めから裁判に至るまでの全過程でアドバイスを受けられる点にあるでしょう。
また、委任契約を結んで対応を依頼すれば、代理人として交渉したり、内容証明を送ったり、調停や裁判でも代わりに出廷してもらえるので、難しい法律書類の整備も任せられますし、生活への影響を最小限に抑えることができます。
一方でデメリットとしては上記のような費用がかかることです。
特に離婚を考えているような場合は費用の捻出が難しいという方もいるかもしれませんが、相談料は無料という弁護士や法律事務所も多いので、まずは法律相談を利用してみてはいかがでしょうか。
まとめ
いかがでしょうか。ご自身でもできる慰謝料請求の手順や方法をみてご自身で挑戦してみようと思われた方、弁護士に依頼しようと思われた方、様々かと思います。
どちらの方法をとるにしても、まずは専門家である弁護士に相談することで、今後の見通しを立てたり、ご自身で請求する場合のアドバイスを受けたりすることで、良い選択ができることもあります。
不倫慰謝料でお悩みの方は、まずはお気軽に弁護士に相談してみられることをお勧めします。