養育費の受け取り方法・確実に払わせる方法と不払いの際の対処法も解説
離婚した元配偶者からの養育費は、子供を育てるために不可欠なお金です。
別れた相手とは言っても、子供の親であることは変わりなく、養育費を滞りなく支払う義務があります。
しかし、近年元配偶者からの養育費が不払いになるケースが多く発生しています。
ひとり親世帯のうちの8割が養育費の遅延や滞納を受けているという調査もあるのです。
子供を健やかに育てるために必要な養育費。確実に受け取るためにはどうすれば良いのでしょうか。
この記事では、養育費を元配偶者に支払わせる方法と、不払いが発生した際の対処法を紹介します。
- 養育費を確実に受け取るにはどうすれば良いか
- 養育費の相場はいくらか
- 不払いになった際に取れる手段
こういった内容を紹介します。参考にしてください。
養育費を確実に受け取る方法
まずは、養育費の不払いを防止し、確実に受け取るための方法を見ていきましょう。
不払いを防止するにはいくつかの方法があり、特に効果的なのは以下の三点です。
(1)養育費の受け取りについて記載した公正証書を作成する
養育費を確実に回収したい場合の強力な手段の一つが、養育費の受け取りについて記載した書面を「公正証書」にすることです。
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する契約書類のことです。
当事者に加え、第三者である公証人が契約の締結に立ち会うため、契約書の効力を公的に証明できます。
- 契約の合意に至った当事者の意思
- 書面の内容
などを公証人が保証することで、書面の証拠能力を高めることができるのです。
また、当事者とは別に公証人が「契約内容」や「契約意思」を確認するため「無理やり署名させられた」「偽造された書類だ」といった言い訳が通じなくなります。
また、公正証書に強制執行認諾約款(「不履行の際は強制執行されても構わない」という旨の特約)をつけておけば、裁判を省略して給与や資産の差し押さえが可能です。
このように、公正証書の作成は、養育費の不払いを防止する高い効果を期待できます。
相手がお金にルーズな場合など、養育費の滞納が予想される場合は、離婚の条件をまとめた離婚協議書を公正証書にしておくと良いでしょう。
(2)養育費を一括で受け取る
相手がきちんと支払ってくれると確信できない場合、養育費をある程度まとめて受け取ることもできます。
向こう何年か分をまとめて受け取っておけば、急に不払いが発生した場合も、ある程度の金額を確保しておくことが可能です。
何年か分は先払いされていることになるので、すぐに経済的に困窮するという状況を回避できます。
なお、養育費は通常課税対象ではありませんが、まとまった金額を一度に受け取ると課税される場合もあります。
あらかじめ知っておきましょう。詳細は後ほど説明しますので参考にしてください。
(3)受け取り口座を子供の名義にする
受け取り口座を子供の名義にしておくのも、不払いを防ぐ一定の効果が期待できます。
養育費を受け取るのは本来子供が持つ権利なのですが、人によっては「別れた元配偶者にお金を渡したくない」という考えから支払いを停滞させてしまうのです。
受け取り口座を子供の名前にしておくと、振込の度に名義を見て「子供が育つために必要な費用」と確認してもらうことが可能です。
「どうして別れた相手にお金を払わないといけないのだろう」と言う心理的な抵抗感を薄れさせることができます。
法的に強制力のある方法ではありませんが、子供に愛情を持っている相手であれば、養育費の滞納防止に役立つでしょう。
養育費の相場
子供を連れて離婚することが決まった場合、気になるのが養育費の金額です。
養育費はどのくらい受け取ることができるのでしょうか。
この章では、養育費の金額と、受け取れる期間について以下の三つの側面から紹介していきます。
- 養育費の算定表から見る相場
- 養育費の金額は個別の事情によって変わる
- 養育費は20歳まで受け取るのが一般的
一つずつ詳細を見ていきましょう。
(1)養育費の算定表から見る相場
実は、養育費には「月○円以上支払わなければならない」などと金額の基準を示した法律は存在しません。
代わりに、家庭裁判所の裁判官が研究してまとめた「養育費の算定表」というものが存在します。
養育費の算定表は、子供の年齢と夫婦それぞれの年収から、基準となる養育費の金額を提示したものです。
協議によって離婚を行う場合、養育費の金額はこの算定表を目安に決定することが多いです。
例えば、以下のようなモデルケースを見てみましょう。
夫:年収500万円
妻:年収300万円
子供:1人
この夫婦が離婚する場合、算定表による標準的な養育費金額は「月額2万円から4万円」が基準になります。
(2)養育費の金額は個別の事情によって変わる
養育費の金額がいくらになるかはケースバイケースです。
算定表による一定の基準は存在しますが、事情に応じてそれより多い場合も少ない場合もあります。
養育費の増減に関わる要因は、例えば以下のようなものが代表的です。
- 子供の年齢
- 子供が何人いるか
- 夫と妻の年収
- 子供に受けさせる教育のレベル(私学に通わせるかどうかなど)
算定表の内容はあくまで一つの基準に過ぎません。
両者の合意さえあればどんな金額でも問題はないのです。
そのため実際に養育費の金額を考える際は、算定表を一つの目安としながら家庭の事情や方針によって個別に決定する必要があります。
(3)養育費は20歳まで受け取るのが一般的
子供が何歳になるまで養育費を受け取れるのかも気になるポイントだと思います。
一般的には、子供が20歳(成人)に達するまでの期間を、養育の支払い対象とすることが多いです。
とはいえ、何歳まで養育費を受け取るのかも、養育費の金額と同じくケースバイケースです。
例えば、子供が高卒で就職した場合は18歳で支払い終了とする場合もあります。
一方、大学や大学院に進学するのであれば、卒業するまでの期間を養育費の支払い対象とするのも珍しくありません。
一般的には、子供が経済的に自立したタイミングを支払い終了の基準として考えます。
養育費は課税対象なのか
養育費を受け取るにあたり、気になるのが税金を課税されるかどうか。
通常、土地や現金などの資産を誰かに贈った場合、贈与税の対象として課税されるのが一般的です。
元配偶者から子供に対する養育費は、税金の課税対象なのでしょうか。
それぞれ詳しく確認していきましょう。
(1)一般的な範囲であれば養育費は非課税
基本的に、相場通りの養育費を毎月受け取る場合、養育費は非課税です。所得税や贈与税の対象となることはありません。
というのも、養育費は、法律が定める「親が子の扶養義務を履行するために給付する金品」にあたります。
所得税法(9条1項15号)と相続税法(21の3条1項2号)のどちらも課税対象外と規定しているのです。
ただし、養育費の金額があまりにも大きい場合や、一括でまとまった金額を受け取る場合は贈与税の課税対象とされることがあります。
(2)養育費の金額が大きいと課税されることがある
贈与税が非課税となる範囲は「生活費又は教育費として必要な都度直接これらの用に充てるために贈与によって取得した財産」に限ると規定されています。
つまり、子供の生活費や教育資金で、必要に応じて定期的に支払われるものが対象です。
そのため、一括で受け取った養育費をすぐに使わず預貯金した場合、贈与税の課税対象となる可能性があるのです。
具体的な税額は支払われる養育費の額によって変動します。
仮に500万円を一括で受け取る場合であれば、贈与税は受け取った金額の26%程度です。
ただ、贈与税として課税するかどうかは、状況に応じて税務署の判断が変化します。
一括で受け取ったからという理由で杓子定規に課税されるわけではないので安心してください。
課税するかどうかは、金額の過多や個別の事情に応じて異なります。
一括払いの必要があり、金額が子供の養育に対する費用として適切であれば非課税が相当と判断されることもあるようです。
養育費の一括払いを希望する場合、事前に税務署に相談し、事情を説明することをおすすめします。
養育費が不払いになった際の対処方法
分割払いを受けている養育費が、ある日突然振り込まれなくなった。こんな場合、一体どうすれば良いのでしょうか。
養育費が不払いになった際の対処方法を紹介していきます。
(1)電話やメールなどで連絡する
養育費の支払いが遅れたら、まずは電話やメール、自宅の訪問などで支払ってくれるよう連絡してください。
単に振込を忘れていただけということも考えられるので、連絡すればあっさり払ってくれることもあるでしょう。
約束したお金を期日に支払わないとなると不信感を抱いてしまう気持ちは分かります。
ただ、いきなり強硬手段に出ると今後の支払いがますます滞るかもしれません。
まずは普通に連絡を取って支払いを促してください。
(2)元義両親に連絡する
明らかに連絡を無視している場合や、支払いを拒否するときは、元配偶者の親(元義両親)から働きかけてもらうのも一つの方法です。
大人であっても、金銭のことで親から叱られるのはバツが悪いもの。
元配偶者の言うことは無視しても、元義両親からの督促には応じる可能性があります。
離婚に伴い元義両親と関係が崩壊していない場合に限りますが、話せる関係であれば一度相談してみても良いでしょう。
(3)内容証明郵便で督促する
再三の督促にも応じない場合、内容証明郵便を利用して催促してみましょう。
内容証明郵便とは、法律トラブルなどでよく使われる郵便の様式の一つです。相手に送った手紙の内容と差し出し日時を郵便局が証明してくれます。
なお「そんな書類は受け取っていない」ととぼけるのを防止するため、いつ配達したかを合わせて証明できる「配達証明」をつけることをおすすめします。
内容証明郵便は、封筒に赤字で「内容証明」と大きく印字され、中身も一目で法的文書と分かるものものしい書式です。
受け取った相手が自体の深刻さを理解して支払ってくれる効果が期待できます。
引き続き不払いが続く場合も、事前に督促したことを証明できるため、法的手段を取る際の前準備としても利用可能です。
(4)法的手段により支払いを促す
督促を無視され、内容証明にも反応しない場合は、いよいよ法的手段によって支払いを要求することになります。
具体的には、以下の点です。
- 養育費の支払いを求める訴訟を起こす
- 養育費の支払いの調停(裁判所で行う話し合い)を申し立てる
- 財産から養育費を回収するための強制執行の準備をする
可能であればここまでこじれない方が良いですが、財産があるのに支払わないなど、悪質な場合はできる限りのことをやった方が良いでしょう。
元配偶者に対して養育費を求めるのは子供の権利です。大切な子を健やかに育てるためにも、確実に回収しましょう。
弁護士に相談するメリットと料金
養育費の受け取りに関して元配偶者とトラブルになった場合、弁護士に相談した方が良いのでしょうか。
- 「莫大な金額の報酬を請求されたら困る…」
- 「失敗しても着手金だけ取られるのではないか」
- 「別に弁護士に頼まなくても自分でなんとかできるのではないか」
こんな風に思う方もいるかもしれません。
結論から言うと、支払いの滞った養育費を回収するには、弁護士に頼むのが最も効率的です。その理由を解説していきます。
(1)法的手段を検討する場合は専門家に頼むのがおすすめ
法的手段を検討する場合、弁護士などの法律家に依頼することをおすすめします。
というのも、内容証明郵便の作成や裁判所の手続きなどは、素人が一人で取り組むには非常にややこしいのです。
もちろん自分で調べながら手続きを進めることもできますが、相当な手間と時間がかかるでしょう。
何より、支払いを拒否する相手にお金の請求を行うのは非常にストレスがたまるものです。
離婚した理由は人それぞれですが「できればもう顔を見たくない」という人も少なくないでしょう。
「慣れない裁判所の手続き」「仕事」「子育て」これら全てを一人で負担する労力は計り知れません。
弁護士に依頼すれば、裁判所関連の手続きや交渉は丸投げしてしまうこともできます。
自分は仕事と子育てに集中でき、一方できちんと養育費も回収してくれるので、弁護士を利用した方が心理的負担も少なく効率的なのです
(2)相談料・着手金無料の事務所もある
弁護士を依頼するとなると、心配になるのはお金の問題です。
「相談だけでも着手金や相談料を請求されるのではないか」と心配される方も多いでしょう。
結論から言うと、その心配は無用です。現在は相談料・着手金無料で受任してくれる事務所も多いため、話を聞いただけで高額な報酬を請求されることはほとんどありません。
養育費の不払いで経済的に困窮しているのであれば、まず話だけでも聞いてみるのがおすすめです。
- 養育費は回収できそうか
- 費用はどの程度かかるのか
こういった内容を確認してから、依頼するかどうか決めることができます。
見積書を出してもらえば、あらかじめ費用感もチェックできるので安心です。
まとめ
養育費の受け取りは親に対する子供の権利です。離婚前にできる限りの対策をしておくことをおすすめします。
性格の不一致などで円満離婚した場合は「相手を信用しているし別にそこまでしなくても…」と思うかもしれません。
しかし、養育費は統計的に見ても不払いの確率が高いです。万が一に備えて準備しておくに越したことはありません。ぜひ今回紹介した内容を参考にしてみてください。
万が一養育費の支払いが滞り、督促に応じてくれない場合は弁護士に相談することも検討しましょう。
場合によっては弁護士の名前で手紙を送っただけであっさり支払うケースもあります。
「頼みたいけど報酬の支払いが心配」という場合、無料相談が可能な事務所で見積もりを受けてみるのがおすすめです。
解決見込みと費用感を教えてくれるため、相談してから依頼するか決めることができます。
養育費の支払いで悩んだら、選択肢の一つとして頭の片隅に置いておきましょう。