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婚約者が浮気!浮気が原因の婚約破棄で慰謝料は請求できる?慰謝料の増額方法も解説

結婚を約束したパートナーの浮気が原因で、結婚がとりやめになったという例は少なくありません。正式な結婚をしていないとはいえ、大きなショックを受けるでしょうから、慰謝料を請求したいと考える方もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、浮気を原因とする婚約破棄で慰謝料が請求できるのか、できるとすればどうすれば慰謝料を増額させることができるかなどについて解説します。

婚約とは

婚約とは、将来婚姻をするという当事者の予約(合意)をいいます(神戸地裁尼崎支部昭52・8・31家裁月報32・10・55)。一般的には婚約指輪を渡したり、結納をしたりすることも多いのですが、法律上は特に様式は定められていないので、誠実な合意であれば、婚約指輪や結納がなくても婚約は成立すると考えられます。

判例も、当事者が真実夫婦として共同生活を営む意思で婚姻を約束し、長期にわたり肉体関係を継続するなどの事情のもとにおいて、一方の当事者が正当の理由がなくこれを破棄した事案について、「たとえ、その間、当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納を取かわし或は同棲しなかつたとしても、婚姻予約の成立を認めた原判決の判断は肯認しうる」(最判昭和38・9・5
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54939)とし、結納等が婚約の条件ではないことを明らかにしています。

ただし、口頭による約束では、後になって「言った、言わない」の水掛け論になるおそれがありますし、仮に言ったとしてもどの程度誠実なものかは必ずしも明らかになりません。このようにみると、婚約指輪や結納は、婚約の条件そのものではないが、将来の婚姻を誠実に合意したことの有力な証拠になる、と理解することができます。

婚約を破棄することができるか?

(1)破棄することは可能

「婚約とは」で解説したとおり、婚約は当事者の合意、つまり一種の契約であると考えられます。一般的な契約の場合、相手方が契約で定めた内容を守らない場合(債務を履行しない場合)、裁判を起こして履行を強制することができます。しかし、婚姻は身分に関する行為ですから、一般的な財産に関する契約と同じように裁判所が履行を強制する(結婚させる)ことはできないとされています。したがって、婚約が成立したとしても、破棄をすること自体は可能です。この点については、次のような裁判例があります。

「東京地判平15・7・17」
現代における婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する(憲法24条)ものであるから、いわゆる「婚約」は、本来的に一方当事者のみの意思表示により解消され得る性質を有する。したがって、被告が原告と婚姻しなかったという結果自体から直ちに婚約不履行という債務不履行責任が生じるものではない。

(2)正当な理由がなければ損害賠償義務を負う

しかし、裁判所が強制することができないので破棄は可能ということと、破棄をしても一切責任を問われることがないこととはイコールではありません。(1)の裁判例も、(1)で引用した部分に続けて次のように述べています。

しかしながら、他方、婚約は、将来法律上の夫婦になることを前提としてその実現に向かって当事者双方が準備行為を行っていくことを合意するものであり、婚約成立後は結婚という目的に向けて様々な事実行為、法律行為が積み重ねられていくことが予定されているから、客観的にみて婚姻を解消することに正当な理由があると認められないような一方的な婚姻解消を行う者は、婚約成立以後に、結婚という目的のために積み重ねた行為によって相手方に生じた損害について、相当な範囲でこれを賠償すべき義務を負うと解するのが相当である。

つまり、正当な理由のない婚約破棄は、損害賠償の対象となるのです。さらにこの裁判例は、次のように判断して、結婚準備のための出費に加え、慰謝料の請求を認めました。

本件においては、被告の原告に対する婚約解消の意思の通告の仕方は極めて唐突で、時期及び方法ともに原告に対する配慮に全く欠けるものであるうえに、通告した直後に一旦撤回して原告と性交渉をもつなどしてしまい、その後またすぐに撤回を撤回するというものであり、このような被告の行動により原告が著しい精神的苦痛を受けるに至ったことは、容易にこれを認定することができる。よって、前記の正当な理由のない一方的な婚約解消に基づく責任とは別に、被告が婚約解消に至るまでにとった具体的な方法・行動そのものについて、原告に対する不法行為が成立すると認めるのが相当である。

(3)正当な理由の具体例

正当な理由の代表的な例は、婚約者の浮気(他の異性との性的関係を持つこと)です。婚約が成立すれば、婚約者以外の異性と性的関係を持たない義務を負います。この義務に違反して婚約者とは別の異性と性的関係を持つことは、婚約破棄の正当な理由になるのです。

したがって、AがBと婚約しているにもかかわらず、別の異性Cと浮気した場合、Bが婚約を破棄することは正当な理由があります。他方、AがBよりもCの方が好きになったとしてAの方から婚約を破棄することは、Bには何の落ち度もないので正当な理由とは言えません。浮気以外の正当な理由としては、暴力行為、虐待、重大な侮辱などがあげられます。

相手の浮気を原因とする婚約破棄で慰謝料請求できるか?

(1)元婚約者への慰謝料請求

「婚約を破棄することができるか?」で解説したとおり、婚約が成立すれば、婚約者以外の異性と性的関係を持たない義務を負います。この義務に違反した場合、不法行為が成立し、慰謝料を含む損害賠償義務を負うことになります。したがって、相手の浮気を原因とする婚約破棄の場合、元婚約者に慰謝料を請求することができます。

(2)浮気相手への慰謝料請求

浮気相手が婚約の事実を知っていた(故意がある)か、婚約の事実を知らなかったが通常の注意を払えば知ることができた(過失がある)場合、浮気相手にも不法行為が成立し、損害賠償義務を負います。したがって、浮気相手に故意または過失が認められる場合、浮気相手に対して慰謝料を請求することができます。

(3)実際に請求するには証拠が必要

元婚約者や浮気相手に慰謝料請求ができると言っても、元婚約者や浮気相手が婚約の成立や浮気の事実を簡単に認めるとは限りません。ですから、慰謝料を請求するには証拠が必要になります。

具体的には、元婚約者に対して慰謝料を請求する場合は、

  • 婚約が有効に成立したことについての証拠
  • 浮気についての証拠

が必要になります。

「婚約とは」で解説した通り、婚約指輪や結納は婚約についての有力な証拠になりますが、これらがなくても、具体的な生活状況や結婚に向けた準備行為(新居を探す、職場を退職するなど)から婚約の事実が認定されることもあります。次に、浮気についての証拠が必要になりますが、ここでいう証拠とは、浮気相手と性的関係を持ったことを推認させるもの(浮気相手と一緒にラブホテルに入る写真など)をさします。

浮気相手に慰謝料を請求する場合には、婚約が有効に成立したことについての証拠、浮気についての証拠に加えて、浮気相手が婚約していることについて故意過失があること居ついての証拠も必要になります。

高額の慰謝料を認めた裁判例と考慮された事情

婚約破棄の慰謝料は、多くの事例が数十万円~300万円程度となっており、これが一応の相場といえます。このように大きな開きがあるのは、医者慮の算定に当たって、

  • 婚約破棄の理由
  • 婚約期間の長さ
  • 結婚に向けた具体的な準備行為の有無、内容
  • 妊娠、中絶、出産したことがあるか
  • 婚約破棄によりうつ病を発症するなど心身に影響があったか

など様々な事情が考慮されるからです。

たとえば、暴力を伴う形で婚約破棄されたことや、新居用不動産を購入し、リフォームしていたことを慰謝料の考慮要素として(購入した不動産や行ったリフォームの価値は残っているので財産的損害としては認めず)、300万円の慰謝料を認めた裁判例があります(神戸地判平14・10・22http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=7116)。

浮気が原因の婚約破棄で高額の慰謝料が認められた事例には、次のようなものがあります。

「東京地判平18・2・14」
「YがXと同棲(約2年間)し、その後婚約して結婚の準備(披露宴の予約等)をしていたにもかかわらず、Xに隠れて複数の男性と関係を持ち、結婚式のわずか4日前に他の男性と一夜を共にし、その後Xに一方的に通告して婚約を破棄したこと、このようなYの背信的行為をXは結婚式の直前に知らされたこと、Yが責任を免れるため友人や家族を巻き込んでXを非難したことなどが考慮要素とされ」、慰謝料300万円が認められた(引用:ぎょうせい 千葉県弁護士会編集 慰謝料算定の実務第2版p23、24)。

「東京地判平18・7・26」
「XがYとの間で正式な夫婦関係が成立したと考えるのも無理からぬ面があること(結婚式は既に終えており、外国籍であったYが日本国籍を取得後、婚姻届けを提出することとされていた。)、Yの不倫が婚約解消の原因であること等が考慮要素とされ」、慰謝料300万円が認められた。「なお、直接算定の要素とはされていないが、交際期間中、肉体関係があったこと、Xが新居用のマンションをX名義で購入していた等が認定されてい」ます(引用:ぎょうせい 千葉県弁護士会編集 慰謝料算定の実務第2版p24)。

まとめ

浮気を原因とする婚約破棄の慰謝料請求について解説しました。離婚の慰謝料請求と比べると、婚約自体を証明しなければいけないこと、浮気相手が婚約の事実を知らなかったと弁解する可能性が高くなることから、婚約破棄の慰謝料請求の方が、より難易度が高いといえます。ですから、婚約破棄で慰謝料請求を検討している方は、専門家である弁護士に相談するといいでしょう。

不倫慰謝料請求に強い弁護士

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