熟年離婚の前に考えるべきこととは?気になる金銭問題も併せて解説
「熟年離婚」という言葉がすっかり定着したように、長年連れ添った夫婦の離婚が増えていると言われています。その原因にはいろいろなものが考えられますが、離婚をする前に離婚後の生活などについてきちんと考えておかないと、離婚後に後悔してしまうということもありえます。
そこで今回は、熟年離婚の原因、メリット・デメリット、金銭的な問題、防止策など、熟年離婚について網羅的に解説します。
熟年離婚とは
「熟年離婚」は法律上の用語ではないので、明確な定義はありません。一般的には、20年以上連れ添った夫婦が離婚することを「熟年離婚」と呼んでいるようです。
厚生労働省の「平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai17/index.html
によれば、平成29年度の離婚総数212,262件のうち同居期間20年以上が38,285件で、前年と比較すると離婚総数は減少しているのに対し、同居期間20年以上の離婚は増加しています。
熟年離婚の原因
(1)定年を迎えた配偶者が家にいる
フルタイムで働いていた夫が定年退職すると家にいる時間が長くなります。そうなると、妻は、自分一人の時間が持てなくなるとか、家にいるのに夫が家事を手伝わないなどといった不満を抱えるようになります。
(2)夫婦の会話がない
夫婦の会話がない、コミュニケーション不足も熟年離婚の原因の一つです。特に男性は「長年連れ添ったのだからわざわざ言葉にしなくてもいいだろう」と考える方がいるかもしれませんが、日ごろから妻に対する感謝の気持ちを言葉で伝えるなどしておかないと、妻が長年不満を抱えていることが少なくありません。そのような不満が積み重なって、最終的に妻から離婚を切り出されてしまうのです。
(3)子どもが独立した
熟年夫婦の場合、すでに子どもは成人して独立していることが多いでしょう。未成年の子どもがいる場合、配偶者に対して少々の不満があっても、子どものために離婚を避けようと考える方は少なくありません。しかし、子どもが成人して独立している場合、そのような歯止めが効きません。そのため、離婚という結論に至りやすいのです。
熟年離婚のメリット・デメリット
(1)メリット
結婚生活のストレスから解放されるというのが最大のメリットでしょう。また、一人になることで、配偶者のための家事などで時間をとられることもなく、自分の時間を持つことができるようになります。
また、配偶者の親族との関係を切ることができるので、折り合いの悪い親族との付き合いや介護等からも解放されます。
(2)デメリット
離婚してしばらくは解放感を味わうことができますが、時間が経つにつれて長年連れ添った配偶者と別れて一人になったことに孤独感・喪失感を覚える方が少なくありません。また、子どもの立場からみると両親親が別々に暮らすことになるわけですから、帰省や将来の介護などの負担が増えるおそれがあります。
さらに、離婚によって家計を2つにわけることになるので、婚姻時よりも経済状態が悪くなってしまう可能性が高いといえます。特に長年専業主婦をしていた場合、離婚後に仕事を見つけることは年齢的に難しく、離婚後に経済的に困窮してしまう可能性があります。
熟年離婚の流れと特徴
(1)熟年離婚の流れ
熟年離婚の流れは、一般的な離婚の流れと基本的に同じです。まずは夫婦でよく話し合い(協議)をします。協議の結果、合意ができれば、離婚届を作成して役所に提出します。役所が離婚届を受理してくれれば、離婚が成立します。これを「協議離婚」といいます。
しかし、当事者間の話し合いが常にうまくいくとは限りません。話し合いをしても合意ができない場合、それでも離婚したいときは、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。離婚調停は、家庭裁判所の調停委員会を介して話し合いをし、合意の成立を目指す手続きです。離婚調停で合意ができれば、家庭裁判所が離婚することや離婚条件などをまとめた調停調書を作成してくれます。
これを「調停離婚」と言います。離婚調停は調停委員が間に入ってくれるとは言え、あくまで話し合いで合意の成立を目指すものですから、常に合意ができるとは限りません。
調停でも合意ができない場合、離婚訴訟を起こすことができます。離婚訴訟では、最終的に裁判官が離婚を認めるか認めないかを判断するので、配偶者が離婚を拒んでいる場合でも、離婚が認められることがあります。それなら初めから離婚訴訟を起こせばいいのではないかと思われるかもしれませんが、法律上、先に調停をして話し合いをしなければ訴訟を起こせないことになっています(調停前置主義)。
(2)熟年離婚の特徴
熟年離婚の場合、不倫やDVなどの誰から見てもわかりやすい離婚原因がなく、長年の小さな不満の積み重ねが原因ということも少なくありません。このような場合、配偶者に離婚を切り出したとしても、配偶者は自分に非があるとは思わなかったり、非があるとしても離婚するほどのことではないと考えたりすることが多いのです。
そのため、配偶者が離婚に応じず、話し合いが長期化するおそれがあります。それなら早々に離婚協議や離婚調停を打ち切って離婚訴訟を起こせばいいのかというと、必ずしもそうとは言えません。離婚訴訟で裁判所が離婚を認めるには、民法が定める次の5つの離婚原因のいずれかに該当しなければなりません。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
長年の小さな不満の積み重ねということになると、1.~4.には該当しないでしょうから、5.にあたるといえるかが問われます。裁判官が婚姻を継続し難い重大な事由とまではいえないと判断した場合、離婚は認められないということになります。
このように、不倫やDVといったわかりすい理由のない熟年離婚の場合、解決までに長時間を要するおそれがあるうえ、訴訟でも離婚が認められない可能性があります。
熟年離婚後の金銭の問題
(1)離婚時の金銭問題を解決しておくことが重要
熟年離婚のデメリットで解説したとおり、離婚後は婚姻中より経済状態が悪化することが十分に考えられます。離婚後の負担を少しでも減らすためには、離婚の際に財産分与などの金銭的な問題を解決しておくことが重要になります。
(2)慰謝料
配偶者が婚姻関係を破綻させた原因を作ったと言える場合(有責配偶者に当たる場合)には、配偶者に対して慰謝料を請求できます。配偶者の不倫やDVが原因で離婚する場合が典型です。ただし、熟年離婚の場合、有責配偶者とまでは言えないことも多いので、必ず慰謝料を請求できるというわけではありません。
(3)財産分与
夫婦が婚姻中に共同で築いた財産は、離婚時に財産分与の対象となります。預貯金、解約返戻金のある保険、不動産などが代表的な財産分与の対象ですが、すでに支払われた退職金や、近い時期に退職が予定されており退職金が支払われることが確実と言える場合、退職金も財産分与の対象になります。
(4)年金分割
長い間専業主婦(主夫)をしていた場合には、年金分割の手続を忘れないようにしましょう。年金分割によって、婚姻期間中の厚生年金保険の納付記録(標準報酬)が分割されるので、自分がもらえる年金を増やすことができます。
熟年離婚を防止するには
(1)離婚後の生活設計を具体的に考える
離婚をする前に、熟年離婚のデメリットについてよく考えたうえで、離婚後の生活設計をできるだけ具体的に立ててみましょう。人によっては生活水準を大きく落とす必要があったり、生活していけるか不安を感じたりする方もいらっしゃるでしょう。それでも離婚をしたいのか、離婚後に後悔しないようによく考える必要があります。
(2)修復できないほどの不満があるか冷静に考える
これまで繰り返し述べてきたように、熟年離婚の場合、不倫や暴力など決定的な理由があって離婚したいというのではなく、長年の小さな不満の積み重ねということが少なくありません。そのような場合、デメリットを覚悟してでも離婚しなければならないのか、修復ができないのかについて、冷静に考え直す必要があるでしょう。
(3)夫婦で徹底的に話し合う
熟年離婚の場合、コミュニケーション不足であることが多く、自分の不満が配偶者には伝わっていないことも珍しくありません。夫婦でよく話し合い、夫婦関係を改善する余地がないかを検討するといいでしょう。
(4)子どもに協力してもらう
2人で話し合ってもうまくいかない場合には、第三者に間に入ってもらうということが考えられます。熟年離婚の場合、すでに子どもが成人している場合も多いでしょうから、子どもに協力してもらうのも一つの方法です。
(5)カウンセラーなどに相談する
子どもやその他の親族に間に入ってもらった場合、それまでの人間関係次第では、「相手の肩を持っている」と思われかねません。そこで離婚カウンセラーなど、中立の第三者に相談するといった方法が考えられます。経験の豊富な離婚カウンセラーなら、離婚を回避するために有益なアドバイスをしてくれる可能性があります。
まとめ
今回は熟年離婚について解説しました。離婚後の生活設計を立てるには、財産分与、年金分割などでどの程度の金銭を得られるかを予測する必要があります。配偶者に離婚を切り出す前に、まず弁護士に相談してこれらについて正確な知識を身に着けることも検討してもいいでしょう。