事実婚(内縁)の不倫で慰謝料請求は可能?必要な証拠も併せて解説
世の中には、夫婦同然の生活をしながら、さまざまな理由で婚姻届けを提出していないカップルがいます。そのような、いわゆる事実婚の夫婦については、子どもが生まれた場合どうなるのか、一方が死亡した場合どうなるのかといったいろいろな問題があります。今回は、その中でも事実婚の不倫に焦点を当て、事実婚の不倫で慰謝料を請求することができるか、請求できる場合にはどのような証拠を集める必要があるのかなどについて解説します。
法律婚と事実婚の違い
(1)法律婚とは
「法律婚」とは、婚姻届を提出することで成立する法的に認められた婚姻をいいます。法律婚には、民法などの法律でさまざまな効力が認められています。主なものとしては、
- 配偶者の3親等内の親族が自分の親族になる(民法725条3号)
- 夫または妻の氏を称する(民法750条)
- 同居し、互いに協力、扶助義務を負う(民法752条)
- 未成年者が婚姻をしたときは成年に達したものとみなす(民法753条)
- 夫婦間の契約は、婚姻期間中はいつでも取り消すことができる(民法754条)
- 婚姻から生じる費用を分担する(民法760条)
- 日常の家事によって生じた債務について連帯責任を負う(民法761条)
- どちらに帰属するか明らかでない財産は共有と推定する(民法762条)
- 配偶者に対して貞操義務を負う(民法770条1項1号参照)
- 妻が婚姻中に妊娠した子どもは夫の子と推定する(民法772条)
- 配偶者の相続人になる(民法890条)
といった効力があります。
(2)事実婚とは
「事実婚」という言葉は法律上の用語ではないので、明確な定義はありません。一般的には、婚姻の意思があり、夫婦として共同生活の実体を備えているが、婚姻の届出をしていないために、法律上の婚姻とは認められないもの、といった程度に理解すればいいでしょう。裁判所が用いる「内縁」という表現も、上記の事実婚と同じような意味です。婚姻の意思はあるが、夫婦別姓を希望している(婚姻によって氏を変えたくない)ので婚姻届は提出しないというカップルが、事実婚の典型例でしょう。
事実婚のほかに婚姻届を提出していないカップルが一緒に生活する場合として、「同棲」があります。同棲と事実婚の違いは、婚姻の意思があるか、夫婦共同生活の実体があるかということにあります。たとえば、お互いに学生のカップルが一緒に生活しているような場合、婚姻の意思や夫婦共同生活の実体までは認められず、事実婚ではなく同棲に当たる場合が多いでしょう。
事実婚で浮気されたら慰謝料請求できる?
(1)事実婚の効力
単なる同棲ではなく事実婚(内縁)と認められた場合、法律婚に準ずる保護を受けることができます。判例も、
「「いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が会い協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異なるものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない」」(引用)
(最判昭33・4・11民集12・5・789
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54851)としています。
ただし、「法律婚と事実婚の違い」で紹介した法律婚と全く同じ効力が認められるわけではありません。夫または妻の氏を称する(夫婦が同じ氏を称する)、子どもを夫の嫡出と推定する、配偶者が死亡したときに相続人となるといった効力は、戸籍の記載と密接不可分ですから、婚姻届を提出していない事実婚には認められないとされています。これに対し、同居・協力・扶助義務、婚姻費用分担義務、貞操義務などは、戸籍の記載とは密接不可分なものではないので、認められると考えられます。
(2)パートナーへの慰謝料請求
事実婚(内縁)であっても貞操義務は認められます。したがって、パートナーが貞操義務に違反して別の異性と性的関係を持った場合、法律婚の場合と同様、慰謝料を請求することができます。
(3)浮気相手への慰謝料請求
浮気相手に故意(事実婚であることを知っていた)または過失(事実婚であることを知らなかったが、通常の注意を払えば知ることができた)がある場合、浮気相手に対しても慰謝料を請求することができます。
慰謝料請求に必要な証拠とは
(1)パートナーに慰謝料を請求する場合
パートナーに不倫の慰謝料を請求する場合、大きく分けて事実婚であることの証拠と、不貞に関する証拠が必要になります。法律婚の場合、婚姻関係は戸籍で容易に明らかになります。しかし、事実婚の場合は、単なる同棲ではなく、法律婚に準ずる保護を受ける事実婚であることを証明しなければならないのです。事実婚に関する証拠の代表的な例は、次のようなものです。
①住民票
住民票の続柄の記載には、「夫(未届)」「妻(未届)」「同居人」といった種類があります。「夫(未届)」「妻(未届)」と記載されている場合、事実婚であることの有力な証拠になります。
②健康保険証
内縁(事実婚)の妻(夫)も、社会保険上の扶養に入ることができます。内縁の夫(妻)の被扶養者となっている場合、事実婚であることの有力な証拠になります。
③賃貸借契約書
不動産の賃貸借契約書には通常、契約者の氏名のほかに、同居者の氏名や契約者との続柄を記載します。続柄が内縁の妻(夫)と記載されている場合、事実婚であることの証拠の一つになります。
④家計簿など家計に関する資料
生計をともにしている(共同生活の費用を分担している)ことは、事実婚であると認められる事情の一つです。そのため、家計簿など家計に関する資料も証拠になります。
⑤電話、メール、LINEなどのやりとり
パートナーとの電話、メール、LINEなどのやりとりも、婚姻意思があることを推認させるような内容であれば、証拠になります。
不貞に関する証拠は、法律婚の場合と基本的に変わりません。法律上の「不貞行為」とは、配偶者以外の異性と性的関係を持つことをいいますから、パートナーが別の異性と性的関係を持ったことを推認させる証拠が必要になります。具体的には、不貞相手と一緒にラブホテルに入る写真などです。
(2)浮気相手に慰謝料を請求する場合
浮気相手に慰謝料を請求する場合、(1)で解説した事実婚に関する証拠、不貞に関する証拠に加えて、浮気相手に事実婚についての故意または過失があったことに関する証拠が必要になります。たとえば、浮気相手がパートナーとの間で、事実婚であることを認識しているような電話、メール、LINEのやりとりをしている場合などが考えられます。
慰謝料請求に必要な証拠の集め方
(1)主な証拠の集め方
住民票は市区町村の役所で入手することができます。健康保険証はお手元にあるでしょうし、賃貸借契約書や家計簿など家計に関する資料は通常は自宅内にあるでしょう。
(2)不貞に関する証拠の入手方法
「慰謝料請求に必要な証拠とは」で解説したとおり、不貞に関する証拠は、性的関係を持ったことを推認させるものでなければなりません。ですから、たとえばパートナーが別の異性と2人で食事に行ったという程度では足りません。パートナーの携帯電話やスマートフォン、パソコンなどに別の異性と性的関係を持ったことを推認させるやりとりや、画像などが残っていれば、自分で証拠を入手することができる場合もあるでしょう。
それ以外の証拠、たとえば先ほど挙げたラブホテルに入る写真などは、自分で入手するほかに探偵事務所に依頼するという選択肢もあります。自分で入手する場合、つまり自分や友人などが配偶者を尾行して写真を撮ることは、費用をかけずに済むというメリットがあります。しかし、素人が尾行等をしようとしても技術的に難しいと思われます。
探偵事務所に依頼をした場合、通常は自分でやるよりは効果が期待できますが、費用がかかります。また、探偵業には国家資格などはなく、警察に届出をするだけでいいので、探偵を名乗っていても必ずしも能力が保証されているわけではありません。ですから、探偵に依頼をする場合には、どの探偵事務所に依頼をするのか、慎重に検討する必要があります。
まとめ
事実婚の効力や、事実婚の不倫の慰謝料請求について解説しました。慰謝料請求をする場合、そもそも事実婚が認められるかが問題になりますし、不倫相手が事実婚を知らなかったと主張する可能性があり、法律婚よりも立証のハードルが高くなります。ですから、事実婚で配偶者の不倫にお悩みの場合は、専門家である弁護士に相談をするといいでしょう。