不倫慰謝料は誰に請求する?不倫相手(愛人)・配偶者・両方の判断基準
不倫で慰謝料を請求する際、問題になるのが「誰に慰謝料を請求するのか」という点です。
この方針は人によってさまざまで、中には「パートナーとやり直したいから不倫相手にだけ請求したい」という人もいます。
そこで今回の記事では「不倫の慰謝料の請求先をどこにするか」という点をメインに、不倫の慰謝料について情報を紹介していきます。
不倫の慰謝料を請求する三つのパターン
不倫の慰謝料請求は、不倫当事者の誰に対しておこなうか、ある程度選ぶことができます。
慰謝料請求の三つのパターンを見てみましょう。
(1)不倫相手のみに請求する
不倫の慰謝料は、不倫相手にだけ請求することもできます。
離婚しない場合は、関係の再構築にわだかまりを残さないよう、配偶者には慰謝料を請求しないケースも多いです。
なお、相手のみに慰謝料を請求するのであれば、いくつかの注意点が存在します。
後程、詳しく紹介しますので参考にしてください。
(2)配偶者のみに請求する
慰謝料は不倫相手にのみ請求できる一方で、配偶者だけに請求することも可能です。
例えば、不倫相手が配偶者に未婚だと騙されていた場合などは、不倫相手に責任を追及できないことも。こういったケースでは、配偶者にだけ慰謝料を請求することがあります。
また、配偶者・不倫相手の両方への責任追及が可能な状況でも、希望に応じて配偶者のみに慰謝料を請求することが可能です。
(3)不倫相手と配偶者の両方に請求する
不倫相手と配偶者の両方に慰謝料を請求することも可能です。配偶者と離婚を決めている場合だと両者に対して請求するケースがよく見られます。
なお、慰謝料の請求額は二人で均等割りにもできますし、資力や不倫の積極性などを基準に割合を変更することも可能です。
一点注意が必要なのですが、慰謝料の二重取りはできません。
例えば、不倫の慰謝料として300万円を請求するとき、合計額は「配偶者と不倫相手の二人分を合わせて300万円」です。
配偶者と不倫相手の両方に300万円ずつ請求できるわけではないので注意してください。
不倫慰謝料の請求先を誰にするべきかケース別に解説
慰謝料の請求方法は、誰に請求するかで三つのパターンに分かれることを紹介しました。
では、実際に請求先を考える場合はどのように決定すればよいのでしょうか。
ケース別に慰謝料の請求先を考えてみましょう。
(1)離婚しない場合は不倫相手にのみ請求するのがおすすめ
配偶者との離婚を考えていないのであれば、不倫相手にのみ慰謝料を請求することをおすすめします。理由は以下の二点です。
- 配偶者の経済的ダメージは後の夫婦関係に悪影響を及ぼす
- 夫婦の共有財産から出すなら慰謝料は家計内で移動するだけだから
結婚してからの配偶者の給料などは、法的には夫婦の共有財産に当たります。
また、夫婦のお金は一元管理している家庭も多いことでしょう。
こういったケースだと、配偶者から慰謝料を受け取っても、表面的なお金の所属が変わるだけなのであまり意味はありません。
仮に共有財産ではない独身時代の貯金などから払う場合も「自由にお金を使えなくなった」などの理由から、夫婦関係の再構築に悪影響を及ぼすことも。夫婦関係の再スタートをスムーズにおこなうためにも、配偶者には慰謝料を請求せず、不倫相手にだけ請求したほうが良いでしょう。
(2)離婚前提なら配偶者にも慰謝料を請求する
一方、離婚を前提にしているのであれば、配偶者と不倫相手の両方に対して慰謝料を請求できます。というのも、慰謝料の金額に対して一人当たりの金額を分散した方が早く回収できる確率が高くなるからです。
また、配偶者からのDVなど、他にも離婚に際して慰謝料が発生する事由があれば、ひとまとめに請求してしまった方が分かりやすくなります。
もちろん、実際の慰謝料請求では、不倫への積極性などさまざまな点を評価して負担割合を決定することになるので一概には言えません。
配偶者と別れて再スタートを切る前提であれば、両方に請求することも選択肢の一つとして覚えておいてください。
(3)不倫相手に資力がない場合は配偶者に請求すべき?
慰謝料の請求でしばしば問題になるのが、不倫相手が「お金がなくて払えない」と慰謝料の支払いを拒否するケースです。
不倫相手が無資力だと主張してきたら、配偶者にのみ慰謝料を請求した方がよいのでしょうか。
結論から言うと、資力がないという発言をすぐに信じない方が良いでしょう。
不倫相手というのは、往々にして慰謝料の支払いを免れるためにうそをつくものだからです。
不倫相手が無資力であることを主張してきたときは、弁護士に依頼して相手の経済状況を調査してもらうのがおすすめです。
隠していた資産が見つけられる場合や、交渉で慰謝料の金額を合意させられることがあります。
ただ、配偶者に十分な資力があり、かつ早期に解決して離婚したいという希望があるなら、配偶者に全額請求するのも一つの方法です。
具体的にどういった方針を取るのかは、状況に応じて判断してください。
不倫の慰謝料はいくら請求できるのか
不倫で慰謝料を請求する場合、どのくらいの金額を受け取ることができるのでしょうか。慰謝料の相場と、金額が変化する要素を見てみましょう。
(1)不倫の慰謝料相場は50万円から300万円程度
結論から言うと、不倫の慰謝料の相場はおおむね50万円から300万円程度です。
金額にかなり差がありますが、これは慰謝料の金額が「態様のひどさ」「婚姻歴の長さ」など多くの要因によって左右されるからです。
では、具体的にどんな要素で慰謝料の金額が変わってくるのでしょうか。
(2)慰謝料の金額を左右する要素
慰謝料の増減に関わる要因は多く存在します。例えば、以下のようなものが代表的です。
不倫をしていた期間 | 長ければ長いほど増額要因となる |
---|---|
夫婦に子供がいるかどうか | 子供がいると金額が増えることが多い |
夫婦関係の良好さ | 不倫前の夫婦関係が良好であれば、夫婦生活を破壊したとして増額要因となる |
不倫相手の妊娠 | 不倫相手と配偶者に子供ができている場合慰謝料の金額が増額される |
夫婦の婚姻期間の長さ | 婚姻期間が長いほど慰謝料が増額される傾向にある |
請求者に落ち度があるかどうか | 請求者にDVや一方的なセックスレスなどの落ち度があれば慰謝料が減額される場合がある |
以上のような内容を総合的に判断して慰謝料の金額を決定していきます。
なお、これはあくまで「裁判になった際の金額の増減要因」なので、不倫問題を協議によって解決する場合、必ずしもこの限りではありません。
話し合いでは自分と相手方の任意によって金額を決定するため、紹介した内容はあくまで一つの基準として考えてください。
(3)具体的な慰謝料の金額は弁護士に相談する
紹介したように、慰謝料の金額の決定は不倫の状況や家庭の様子なども考慮しつつ、総合的な判断が必要になります。
「自分のケースではいくらになるのか知りたい」場合、弁護士に相談するのがおすすめです。
相手方の資力や不倫の態様から適正な金額を出してくれます。
また「早期回収できる現実的な金額でいい」「分割になってもいいのでなるべく金額を増やして制裁を加えたい」といった希望にも、対応可能です。
ケースごとに最適な解決法を提示してくれるので、一度相談してみてもよいでしょう。
不倫相手に慰謝料を請求できないケース
見落としてしまいがちなのですが、実は不貞行為=慰謝料請求が可能というわけではありません。
不倫の状況によっては、不倫相手への慰謝料請求ができないこともあります。
具体的に、どんなケースで慰謝料請求が難しいのか確認していきましょう。
(1)時効が経過している場合
慰謝料請求権に対する時効が成立しているケースでは、不倫相手には慰謝料の支払い義務がありません。
慰謝料や損害賠償などの権利は、一定の時間が経過することで消滅する場合があるからです。
不倫では、以下のどちらかの要件が成立した段階で、慰謝料請求権が消滅します。
- 配偶者の不貞行為と相手の特定から3年が経過する(消滅時効の成立)
- 不倫関係の開始から20年が経過する(除斥期間の経過)
消滅時効の成立には、配偶者が「どこの誰と不倫をしていたか」知ってから3年の期間が必要です。
不倫相手を特定できていない状況では時効のカウントは始まりません。
一方、除斥期間は不倫の発生したタイミングからカウントが始まり、訴訟などによる停止ができません。こちらは20年という長期の猶予が設定されています。
消滅時効が成立するギリギリのタイミングで慰謝料を請求したい場合「内容証明郵便による慰謝料の請求」「訴訟の提起」などにより、時効の一時停止が必要になります。
一刻を争うケースではスピーディに準備しなければならないため、弁護士に依頼して迅速な対応を頼むのがおすすめです。
(2)不倫相手に過失が認められない場合
不倫相手に過失が認められないときも、不倫相手に対する慰謝料の請求は難しいです。
例えば「配偶者が不倫相手を未婚だと騙していたケース」や「配偶者が暴力や脅迫によって無理やり関係を持った場合」などが当てはまります。
以上のように、不倫相手に落ち度がないときは、慰謝料の請求はできないことが多いです。
また、不倫相手が風俗店のサービススタッフだった場合も、慰謝料の請求を認めない判例が複数存在します。
(3)配偶者から十分な金額を受け取っている場合
すでに配偶者から十分な金額の慰謝料を受け取っているのであれば、追加で不倫相手に慰謝料を請求することはできません。
例えば、慰謝料200万円程度が適正とされるケースで、すでに配偶者から全額受け取っている場合を考えてみましょう。
この状況で不倫相手に別途200万円を請求しても、裁判になると請求が認められない可能性が高いです。
これは、配偶者と不倫相手が共同で負担する分を、すでに配偶者がまとめて支払っていると解釈されるためです。
不倫相手にも慰謝料を請求したいのであれば、配偶者からの支払いは一時保留にし、示談によって金額を確定した後あらためて両者に請求した方がよいでしょう。
(4)夫婦関係が破綻していた場合
不倫が始まった時点ですでに夫婦関係が破綻していると、慰謝料の請求はできない場合があります。
夫婦関係の破綻は、客観的に見て夫婦としての生活が崩壊している状態でのみ認められます。
そのため、単に一時的に不仲になっているような状況では当てはまりません。
夫婦関係が破綻している例としては、家庭内でDVが発生している場合や、不仲によって数年間別居しているような状態が挙げられます。
「夫婦関係の破綻」は、不倫をしていた配偶者が支払い拒否の根拠として主張することがありますが、裁判になったら証拠を用意しなければいけないのは主張した側です。
存在しない「夫婦関係の破綻」の証拠を提出するのは非常に困難なので慌てる必要はありません。
まずは落ち着いて弁護士に相談してみましょう。
不倫相手にのみ慰謝料を請求するときの注意点
不倫相手にだけ慰謝料を請求するケースでは、いくつか注意点があります。
慰謝料をどちらに請求するのか決定する前に、あらかじめ把握しておきましょう。
代表的な三つのポイントを紹介します。
(1)配偶者が慰謝料を肩代わりしないようにする
まず、配偶者が不倫相手の支払う慰謝料を肩代わりしないように注意してください。
「不倫問題を早く解決したい」「不倫相手を庇いたい」といった気持ちから、不倫相手に慰謝料分のお金を渡してしまうことがあるのです。
お金がないと渋っていた不倫相手が、ある日あっさり支払ってきたときは注意してください。
配偶者が不倫相手にお金を渡している可能性もあります。
不倫相手に制裁を加えるために請求したのに「支払ってきたお金が実は配偶者のものだった」では本来の目的を果たすことができません。
念のため共有口座や配偶者の個人口座の残高をチェックしてみることをおすすめします。
(2)不倫相手からの求償権行使に注意する
不倫相手にのみ慰謝料を請求する場合、不倫相手から配偶者への求償権の行使に対策が必要です。
受け取った金額の半分程度を返すよう要求されることがあります。
不倫における求償権とは、共同不法行為である不倫の慰謝料を当事者の一人だけが支払っているときに、支払っていない方に負担分を請求できる権利です。
不倫相手のみが慰謝料を支払っている場合、配偶者の分も合わせて払っていると解釈されるため、肩代わりした分を返すよう請求できるのです。
配偶者と離婚しないケースでは、不倫相手からの求償権行使は夫婦の再スタートに大きな障害となります。
一般的な対策としては、示談の条件の一つに「不倫相手の求償権の放棄」を盛り込んでしまうことが挙げられます。
求償権を放棄する代わりに慰謝料の減額を頼まれることもありますが、夫婦の今後を考えると入れておいた方が安全といえるでしょう。
(3)ダブル不倫の場合は慰謝料を相殺される恐れがある
配偶者と婚姻関係を続行するときに問題になるのが「ダブル不倫」のケースです。
不倫相手も既婚者であれば、不倫相手の配偶者から慰謝料を請求されることがあります。
離婚するのであれば問題にならないのですが、婚姻関係を続けるのであれば、金額の大きい慰謝料は支払い・受け取りともに「夫婦の共同の財布」を使うことが多いです。
結果としてお互いの慰謝料を相殺する形になってしまいます。
不倫相手にも配偶者がいるのであれば、話し合いに同席してもらうなど意向を聞く機会を設けた方が良いでしょう。
「不倫相手とその配偶者は離婚するのか」「慰謝料の請求予定はあるのか」「あるなら金額はいくらか」などを確認しておきましょう。
また、不倫相手の配偶者も巻き込んでの協議は、利害関係の複雑さからスムーズに進まない可能性が高いです。
冷静に話を進めるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
不倫の慰謝料は「不倫相手のみ」「不倫相手と配偶者」「配偶者のみ」の三パターンで請求が可能です。
具体的にどこに請求するかは、離婚するかどうかや不倫に及んだ状況などを考慮して決定します。
配偶者と離婚せず、不倫相手にのみ慰謝料を請求する場合は「相手方から配偶者への慰謝料請求」「求償権の行使」など、スムーズに再スタートするために対策が必要な事項があります。
こういった場合、法律知識のない一般人だけで漏れなく対処するのは難しいため、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すると多額の費用がかかるというイメージもありますが、現在は初回相談料・着手金無料で依頼を受けてくれる弁護士事務所も増えています。
慰謝料は請求できそうか、費用倒れにならないかなどを確認してから依頼できるため、一度相談を検討してみてください。