1. 不倫慰謝料請求ガイド
  2. 慰謝料を払わない時の罰則

不倫慰謝料請求されたら|払わない場合の罰則も解説

「不倫がバレてしまい、慰謝料を請求された。」

このような問題を抱えて誰にも相談できず困っている方がいらっしゃるかもしれません。
不倫をするといくつかの法律上のペナルティが科せられますが、皆様が最も気になるのは損害賠償義務ではないでしょうか。「払わないで無視していればいつか相手も諦めるのではないか」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、請求を無視し続けていると、訴訟を提起されて強制的な手続をとられる可能性もあります。

この記事では、不倫慰謝料請求に関する基本的な知識や、法律上のペナルティ、そして不倫慰謝料請求をされたときに誰に相談すべきなのか解説いたします。

不倫の法律上の定義と罰則

(1)不倫の定義

既婚者と関係を持つことを一般的に「不倫」といいますが、実は「不倫」という言葉は法律上の用語ではなく、「不倫」という言葉が使用されている法律上の規定は存在しません。
民法第770条には、離婚事由の一つとして「配偶者に不貞な行為があったとき」と規定されており、これがいわゆる不倫や浮気を意味します。したがって法律用語としては「不貞行為」「不貞慰謝料請求」といった表現が適切ですが、この記事ではわかりやすく「不倫」と表記することにします。

友人や恋人と「どこからが不倫か」という議論をしたことがある方は多いかもしれません。「手を繋いだら不倫」「キスをしたら不倫」など個人の価値観は様々かもしれませんが、法律上の「不倫」の定義はこのような曖昧なものではありません。過去の最高裁判所の判例では、不倫とは「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいうとされています(最高裁判所第一小法廷判決昭和48年11月15日民集第27巻10号1323頁)。

「一緒に食事をする」「手を繋ぐ」「ハグをする」「キスをする」といった行為は「性的関係」とは言えませんので不倫には該当しません。
また、脅迫や暴力などの手段により性的関係を強いられた場合には「自由な意思に基づいて」性的関係を結んだとは言えないため、やはり不倫には該当しません。

このように不倫は法律上厳密かつ限定的に定義されています。しかし実際には性的な関係があったことを立証することは困難な場合があります。そこで、実務上は「2人きりでホテルやマンションに入って数時間出てこなかった」「性的関係を伺わせるメールやLINEのやりとりがある」「ホテルの領収書やクレジットカードの明細がある」といった事情があれば性的関係があったと推認されることがあります。

(2)不倫をしたときの罰則

不倫をしたときの民事上のペナルティとして、大きく分けて以下の2つがあります。

まず、前述のとおり民法第770条により不倫が離婚事由とされていることから、配偶者から離婚を請求される可能性があります。本来、離婚は婚姻と同様に両当事者の合意によって成立します。しかし、不倫やDVなど婚姻を継続し難い重大な事由があるときには、当事者の合意がなくても家庭裁判所における手続によって離婚を成立させることができます。つまり、いくら「離婚はしたくない」と希望したとしても、不倫をしてしまった以上、裁判により強制的に婚姻関係を解消させられてしまう可能性があるということです。逆に言えば、不倫が発覚したとしても、配偶者が婚姻を継続することに同意していれば離婚する必要はありません。

そして、2つ目の効果が損害賠償義務です。民法第709条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定されています。これを「不法行為責任」といいます。

不倫は配偶者の貞操義務(配偶者以外の異性と性的関係を結ばない義務)に違反する行為ですので、不倫された側の当事者は、不法行為責任の規定に基づいて不倫をした当事者またはその不倫相手に慰謝料を請求することができます。

慰謝料の相場は50万円から300万円程度と幅があります。不倫が長期間にわたって継続的に行われ、性的関係の回数が多いときや、発覚後も関係が解消されなかったとき、不倫行為によって婚姻関係が破綻した場合などには高額な慰謝料が認められやすくなります。反対に、不倫行為が一回限りだった場合や、不倫があったが離婚には至らなかった場合には慰謝料の額は低くなる傾向があります。

以上にご説明したのが不倫の民事上のペナルティです。他方で、不倫には禁固や懲役といった刑事上のペナルティはありません。
かつての日本には、女性にのみ成立する「姦通罪」という犯罪がありましたが、第二次世界大戦後に日本国憲法で男女平等が定められたことによって姦通罪は廃止されました。今日において不倫は、民事においては違法な行為ではありますが、あくまで当事者間の問題であり国が刑事罰を科すようなことではないとされているのです。
つまり不倫をしたことによって逮捕されて警察から取り調べを受けたり、刑務所に入れられるといったことはありません。

慰謝料を支払わない場合の罰則

(1)強制執行される可能性がある

では、不倫をして慰謝料を請求されたにもかかわらずこれを放置し続けるとどのようなペナルティがあるのでしょうか。「放っておけばそのうち諦めるだろう」と思われる方もいるかもしれませんが、これは大きな間違いです。

まず、相手方による口頭や書面での慰謝料請求を放置し続けていると、裁判所に訴訟を提起されることがあります。訴訟を提起されると、被告、すなわち慰謝料を請求された当事者に「訴状」と「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」が郵送されます。

訴状とは、相手方の主張が記載された書面です。口頭弁論期日呼出状とは、いつどこで口頭弁論を行うので出頭するようにという通知です。そして答弁書催告状とは、相手方の主張に対する反論を記載した答弁書を提出するようにという通知です。

答弁書を提出して口頭弁論期日に出頭し、相手の主張に対する反論を行うと、最終的には裁判官が双方の当事者の主張を踏まえて判決を出します。ところが、答弁書を提出せず、口頭弁論期日にも出頭しないと、相手方の主張を全て認めたものとみなされて判決が出されてしまいます。

「慰謝料を支払え」という判決が出たにもかかわらず支払いを拒絶していると、次のステップとして、「強制執行」という手続をとられる可能性が高くなります。強制執行とは、預貯金、不動産、車、家財道具などの財産を没収して強制的に回収を実現する手続です。強制執行は民事執行法という法律に基づいて国が行う手続で、これを拒絶することはできません。
つまり、慰謝料請求を無視し続けていると、最終的には強制的な手段で回収される可能性があるということです。

(2)遅延損害金を請求される

もう一つのペナルティは遅延損害金です。遅延損害金は支払い期限を守らなかった場合に発生する損害賠償金で、遅延損害金に関する特別な合意がなくても法律上当然に発生します。民法第419条では遅延損害金は原則として元金の5%と定められています。

遅延損害金は、不法行為が終了した日、離婚をした日、あるいは夫婦の婚姻関係が破綻した日から起算されます。

給料差押え等のリスク

訴訟を提起されたのに請求を無視し続けていると、最終的には強制執行により財産を差し押さえられる可能性が高いとご説明しました。強制執行の対象となる財産には、土地・建物といった不動産、車や家財道具といった動産のほかに「債権」が含まれます。たとえば給与を受け取る権利、すなわち「給与債権」です。

給与債権が差し押さえられると、勤務先に裁判所から「債権差押通知」という通知が届きます。そして会社は差し押さえられた分を控除して給与を支払うことになります。
給与全額が差し押さえられてしまうと、差押えを受けた本人は家賃や食費が支払えなくなって困る可能性が高くなります。そこで、差し押さえることができる給与債権の範囲は手取り額の4分の3に相当する部分に制限されています。ただし、差押えは1回限りではなく、差し押さえた額が滞納している額に到達するまで毎月差押えを行うことができます。
債務者にとっては生活の糧となる給与を減額されるばかりか、差押えを受けた事実を勤務先に知られてしまうという大きな不利益が生じることになります。

ただし、給与債権を差し押さえるためには差押えをしようとする者(損害賠償請求する者)が債務者(損害賠償請求されている者)の勤務先を特定する必要があり、これは簡単なことではありません。令和2年4月1日に改正民事執行法が施行され、養育費や婚姻費用などの請求権や人の生命もしくは身体の損害による損害賠償請求権を行使しようとする者が債務者の勤務先を特定しやすいように「第三者からの情報取得手続」という制度が新設されましたが、不貞慰謝料の請求については適用がありません。

銀行に預けているお金、すなわち預金(銀行口座)も差押えの対象になります。預金が差し押さえられると、銀行が債権者に支払いを行ってしまい、預金の残高が慰謝料の額に満たない場合は預金がゼロになります。
預金の差押えを行うためには、預金をしている銀行名と支店名を特定する必要があります。

慰謝料の分割払いは可能か

不倫慰謝料の相場は50万円から300万円程度ですが、これを一括で支払うことが難しいという方も少なくないと思われます。では、慰謝料を分割で支払うことは可能なのでしょうか。

原則として慰謝料の支払いは一括で行われます。これはなぜでしょうか。
慰謝料を請求する相手にとって最も避けたいことは、途中で支払いが滞って慰謝料の満額分を回収できなくなること、すなわち「とりっぱぐれ」が生じることです。そこで、一般的にはそのようなリスクがない一括払いが選択されるのです。

ところが、そもそも一括払いでは支払いができないというケースもあります。多額の慰謝料を請求されたものの支払い能力がなく、破産を余儀なくされてしまったというようなことになれば慰謝料を請求する側にとっても困ります。そこで相手方との交渉により、数回の分割で支払ったり、最初に一時金を支払って残りを分割払いするといった合意がされることがあります。つまり「慰謝料の分割払いが可能か」という疑問に対する答えは「相手方との交渉次第」ということになります。

分割で支払う総額が大きくなるときや、分割の回数が多くなる場合には、慰謝料の分割払いについて公正証書で契約することもあります。公正証書は公証役場で公証人が作成する公文書で、債権者にとっては、裁判での証明力が強い、公証役場で長期間にわたって保管される、裁判所で判決を得なくても強制執行ができるといったメリットがあります。

慰謝料請求された際の相談先

このように、不倫慰謝料請求を放置していると様々な不利益が生じ、結果的には強制的な手段で回収されてしまうことになります。そこで不倫慰謝料請求をされたときにはできるだけ早く専門家である弁護士に相談することが重要です。

「弁護士は裁判になったら依頼するもの」と思ってる方がいらっしゃるかもしれませんが。これは誤りです。弁護士は代理人として法廷に立つだけでなく、不倫慰謝料を請求されているがまだ裁判にはなっていないという段階から相手方と和解に向けた交渉を行うことができます。不倫慰謝料請求では長期になればなるほど相手方の姿勢も硬直化することがありますので、裁判になる前のできるだけ早い段階に弁護士に相談し、解決への道筋を探るのが得策と言えます。

また、不倫慰謝料請求には離婚の問題が付随することがあります。離婚するということになれば、子どもの親権や財産分与といった様々な法律問題が生じ、紛争が長期化する可能性が高くなります。離婚の問題に早く手を打つという意味でも不倫慰謝料請求を請求されたときには弁護士に相談することをお勧めいたします。

まとめ

今回は不倫慰謝料請求に関する基本的な知識と法律上のペナルティについて解説しました。

不倫の慰謝料として一般的に認められる金額は決して安いものではありません。誰にも相談できず放置していると、どんどん問題が大きくなりかねません。
不倫慰謝料請求をされたときにはできるだけ早く法律と交渉の専門化である弁護士に相談することをお勧めいたします。

不倫慰謝料請求に強い弁護士

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