夫婦関係破綻後の浮気で慰謝料や離婚を請求できる?|破綻の考慮要素をチェック
夫婦関係がすでに破綻していたとしても、配偶者の浮気に心を痛める方は少なくありません。
「夫婦の関係は冷えているが、相手の浮気は許せない」「まだ離婚していないのに配偶者が浮気をしたので慰謝料を請求したい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際に夫婦関係の状態によって、配偶者が浮気や不倫をしても、慰謝料や離婚の請求ができない場合があります。
そこで今回は、慰謝料や離婚の請求が問題になる夫婦関係が破綻した状態はどのような状況なのか、どのような事情があれば慰謝料請求が認められるのかなど、夫婦関係の破綻に関する注意点などについてご説明させていただきます。
夫婦関係破綻・婚姻関係破綻の状態で考慮される5つの要素
夫婦関係や婚姻関係の破綻とは、法律では「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法第770条1項5号)がある場合とされ、「夫婦が婚姻関係を続ける意思がない」「夫婦として共同生活を送る関係が回復する見込みがない」状態をいいます。
この状態にあるかどうかを判断するために、裁判では次のような要素が考慮されます。
(1)別居しているかどうか
浮気より以前から夫婦が別居していた場合は、夫婦関係が破綻していると認められやすくなります。
ただ、短期間の別居ではなく、概ね5年程度の長期の別居期間が必要です。
ただし、結婚1年で別居を開始し、別居期間が1年に及ぶ場合は長期の別居と認められます。
ただし仕事の都合で長期間別居している場合は、別居期間が数年でも夫婦関係が破綻しているとは認められないなど、長期の別居期間といえるかどうかは、夫婦の事情や別居の理由により異なります。
また、家庭内別居であっても、生活スペースが分断されており、長期間お互いに口をきくことも顔を合わせることもない状況では、夫婦関係の破綻が認められる場合があります。
(2)離婚に向けた話をしているかどうか
配偶者が浮気をする前から夫婦で離婚の話し合いが勧められていたような場合は、夫婦関係が破綻していたと認められやすくなります。
ただし、夫婦の一方が離婚したいと友人に相談していたり、喧嘩の最中に離婚を口走ったりしていたというだけでは足りず、具体的な離婚条件などについても話し合っていることや、離婚調停まで話が進んでいることなど、実際に離婚意思が具体化されていることが求められます。
(3)モラハラ、DVの有無
夫婦間にモラハラやDVがある場合は、夫婦関係の破綻が認められます。
ただし、1回平手打ちをされたとか、けんかで酷いことを言われたというだけではDVやモラハラと認められるのは困難です。
夫婦関係が破綻していたと認められるためには、暴力を受けて体に暴行の跡ができたことや、継続的にモラハラの被害を受けていたなどの事情がわかる、写真や音声などの証拠や記録が必要です。
(4)夫婦関係の程度や関係修復の意思
別居はしていなくても、夫婦との接触がなく、生活費も各自がそれぞれ出しているなどの事情がある場合は、夫婦関係が破綻していると認められる場合があります。
しかし、夫婦関係は冷えていても子供には会いたいので、家族全員で食事をするなどの機会を持っているような場合は、客観的に夫婦関係が破綻しているとは認められにくいです。
(5)性の不一致
夫婦の一方が性交渉を拒絶するセックスレスの状況が続いていた場合や、性的嗜好が異なっているような状況では、夫婦関係の破綻が認められる場合があります。
夫婦関係破綻後の浮気と普通の浮気の違いとは
夫婦関係が円満と思っていたけれど浮気をされたのか、客観的に夫婦関係が破綻した状況で浮気されたのかを明確に整理する理由は、慰謝料がもらえるか否かに多きく関わります。
(1)浮気で不貞行為が成立する条件
浮気や不倫は一般的な概念なので、デートは浮気、キスは不倫など、人によって考え方はさまざまです。
しかし、慰謝料請求や離婚をしたい場合には、法律上の不倫である「不貞行為」があったかどうかが問題になります。
不貞行為とは、結婚している夫婦が、配偶者以外の異性と性交渉をすることをいいます。
夫婦は、お互いに、配偶者以外の異性と性交渉をしないという「貞操義務」を負っています。
夫婦の一方がこの義務に違反して浮気をして、もう一方の配偶者に精神的苦痛を与えたり夫婦関係を破綻させたりしたような場合は「不法行為」(民法90条)にあたるとして、不倫された側はした側に対して、被った精神的苦痛という損害をお金で補うための慰謝料を請求できると考えます。
具体的には、次の5つの条件があると、浮気で慰謝料を請求できることになります。
- 不貞行為があったこと
配偶者以外の異性との性交渉があったとされる証拠が必要です。
キスやデートしたという承認からでも、本人が自主的に慰謝料を払うなら問題はありませんが、裁判になり、上記の証拠がない場合には、慰謝料を請求することはできません。 - 結婚していること
不貞行為は、法律的に結婚している夫婦で問題になります。
夫婦同然の内縁関係では準婚関係として貞操義務が認められますが、単なる同棲では認められません。 - 夫婦関係が破綻していないこと
浮気の慰謝料は、不貞行為により夫婦関係が破壊され、精神的苦痛を被ったことへの代償なので、既に夫婦関係が破綻している場合は守るべき利益がないと考えられます。 - 浮気相手の故意・過失があること
浮気相手にも慰謝料請求する場合は、浮気相手が、配偶者が既婚者であることを知りつつ不貞行為をしたか(故意)、または不注意で気付かなかった(過失)、いずれかの証拠が必要です。 - 自由意思で性交渉をしたこと
不貞行為は、配偶者と浮気相手が自由意思で性交渉をしたことが必要です。
レイプや酒に酔わせて関係を持ったような場合は不貞行為ではなく犯罪行為になります。
(2)夫婦関係破綻後の浮気の場合
今の日本では、浮気・不貞行為は犯罪ではないため、逮捕されたり刑罰を科されたりすることはありません。
しかし、不貞行為が「不法行為」にあたるとして、配偶者に浮気された側がした側に慰謝料を請求できるのは、夫や妻の権利、貞操義務を要求する権利、結婚生活の平和が、法律上守られるべきものと考えられているからです。
逆に、夫婦関係が浮気の時点で破綻している夫婦の場合は、離婚届けをまだ提出していなかったとしても、法律上守られるべき利益が既になくなっていると考えられています。
そのため、すでに長期間別居しているとか、離婚に向けた話し合いをしているといった場合は、不貞行為があっても慰謝料を請求できないと解釈されています(最高裁平成8年3月26日判決)。
夫婦関係破綻後の浮気で慰謝料請求できる可能性
上記のように、結婚中に配偶者が他の異性と不倫・不貞行為をしても、夫婦関係が既に破綻していた場合は、結婚生活の平和の維持という権利やその利益がないといえることから、不法行為が成立せず、慰謝料請求はできないと考えられています。
(1)破綻の抗弁とは
不倫慰謝料を請求する場合、不倫をした配偶者と浮気相手、つまり慰謝料を請求された側から、夫婦関係の破綻を理由に慰謝料の支払いを拒否する主張がされることが少なくありません。
これを「夫婦関係破綻の抗弁」と言います。
夫婦関係破綻の抗弁の具体的な内容としては、すでに別居していたこと、離婚話が進んでいたこと、夫婦関係が冷え切っていることなどが主張されることが多いです。
これらの主張をもとに、夫婦関係が実際に破綻していたと評価できるかが問題になりますが、裁判でも判断は分かれていて、統一的な基準はないのが実情です。
大まかな目安としては、別居期間については、半年から1年の別居、及び別居後に再び同居したようなケースでは破綻が認められない場合が多いようです。
夫婦がお互いに強い嫌悪感を持ち、夫婦で離婚の話をしていたり、離婚届を作成したりしていた場合でも、破綻とは認められにくい傾向にあります。
離婚調停の申し立ての有無や、家庭内別居の程度など、種々の事情をもとに破綻の有無が決められます。
このように、破綻の抗弁は認められないことも多いので、慰謝料を請求したい場合は、焦らず弁護士などの専門家に相談し、破綻の抗弁に対応できるよう検討しておきましょう。
(2)慰謝料請求が難しくなる2つの事情
①当事者同士の関係性
夫婦関係が破綻した夫婦で慰謝料請求をするのが難しい理由の一つに、当事者の関係性があります。
客観的には関係の冷め切った夫婦に見える2人でも、浮気や不貞行為が発覚すると感情的になりがちです。
夫婦関係が悪化している夫婦の浮気問題では、やり直す意思が弱いぶん裏切りをお金で解決したいという要望が高まりやすいです。
それだけに相手方や浮気相手に対して強い憎悪の感情を持ち、当事者間ではは話し合いが進まないケースもあります。
また、相手が夫婦関係破綻の抗弁を主張したような場合は、当事者同士の関係性によって判断が異なるため、最終的な慰謝料の請求も難しくなりがちです。
②裁判が長期化しやすい
浮気をめぐる慰謝料請求の中でも、夫婦関係が破綻している夫婦で問題になる場合は、当事者間の話し合いが難しく、憎悪の度合いも強いことが多いため、裁判での争いになるケースが多い傾向にあります。
慰謝料請求については、 当事者間での話し合い、調停(第三者を利用した話合い)、審判(細かい内容がまとまらない場合に裁判所が出す判断)、裁判と移行していきます。
調停だと3ヶ月程度で終了しますが、裁判になると1年以上、ケースによっては2~3年かかります。
裁判では、書類の準備や、期日ごとの出廷に加え、相手方から厳しい意見の主張がされることも多いため、時間だけでなく精神的な負担も大きくなります。
夫婦関係破綻後の浮気で離婚したい場合の注意点
夫婦が離婚するのに、双方が同意すれば理由は何でも構いません。
しかし、話し合いがまとまらず、裁判で離婚する場合には、法律で認められた離婚原因があることが必要です。
この離婚原因を「法定離婚事由」といいます。
法定離婚事由は次の5種類です。
- 不貞行為(性交渉を伴う浮気・不倫)
- 悪意の遺棄(蒸発、家出、生活費の不払いなど)
- 配偶者が3年以上の生死不明
- 回復の見込みがない重度の精神病
- その他、婚姻関係を継続し難い重大な事由
夫婦関係が破綻している場合は、不貞行為があったとしても、それによって守られるべき法的利益がないと考えられます。
そこで、5番目の「その他、婚姻関係を継続し難い重大な事由」が認められることが必要です。
実際には、もはや夫婦関係の継続が困難と認められるような事情が必要で、上記「1.夫婦関係破綻・婚姻関係破綻の状態で考慮される5つの要素」でお話したような事情が考慮されます。
浮気をした側が離婚をしたくないと主張している場合は、夫婦関係が破綻していない事情を示す証拠を集めてくることが想定されます。
夫婦関係が破綻しているかどうかの判断は個別の事情を考慮するため、裁判も長期化し、離婚に時間がかかりがちです。
そこで、離婚をしたい場合は、次の3つの対応を検討してみてください。
- 当事者間の話し合いで離婚を目指す
当事者と言っても、2人で話すと感情的になるため、間に弁護士を入れて話し合いを素進めることで、双方にとって負担がすくない解決策が見いだしやすくなります。 - 別居すること
夫婦関係の破綻が認められやすくなる条件のひとつとして、長期の別居があります。
家庭内別居よりも実際の別居で、しかも別居が長期になるほど夫婦関係の破綻が認められやすくなる傾向にあるので、曖昧な関係が続いている場合はまず別居することをお勧めします。
なお、配偶者に収入格差がある場合は、収入が低い方の配偶者は別居後離婚するまでの生活費を相手に請求することができます(婚姻費用分担請求)。 - 離婚調停を起こす
別居して話し合いを進めても合意しない場合は、離婚調停を起こしましょう。
離婚意思が固いことを示し、夫婦関係の破綻が認められやすい事情として考慮されます。
夫婦関係破綻後の浮気で弁護士に相談・依頼するメリットデメリット
夫婦関係破綻後の浮気で慰謝料や離婚を検討している方が、弁護士を頼むメリットは以下が考えられます。
- 当事者の間に入って交渉を進めてもらえること
- 別居した場合の婚姻費用分担の請求を任せることができ、離婚後の生活費の心配が減る
- 裁判になった場合に書類の整備をまかせたり、代わりに出廷してもらえたりするので生活への影響を抑えられる
といった点があります。
夫婦関係の破綻と浮気の問題は、感情的になりやすく、裁判になった場合も長期化が想定されるので、専門家に頼んで早期の対応を求めるメリットは大きいと言えるでしょう。
反面、弁護士に相談するデメリットとしては費用がかかることです。
弁護士に相談・依頼した場合の費用は以下をご参考ください。
- 相談料…30分5000円+税、1時間1万円+税
- 着手金…10万円~50万円
- 報酬金…30万円~
- 日当…裁判などに出向いた場合の費用
- 実費…郵便代や交通費 など
相談料は、日本弁護士連合会の目安に準じているので、有料の場合でも5,000~1万円が相場です。
着手金や報酬金の設定は、事務所によって変わるので、まずは法律相談を利用して見積もりを出してもらいましょう。
特に日当は想定されませんが、調停や離婚裁判を前提にすると、最終的に大きな金額になる場合もあります。
まとめ
今回は、夫婦関係破綻後の浮気について、慰謝料請求や離婚の請求で注意すべき点を解説しました。
夫婦である以上、浮気・不貞行為をしたら慰謝料請求や離婚ができると思われていた方には、驚いた方もいらっしゃるかもしれません。
夫婦関係の破綻の判断は、個別の事情によって考慮されるため、心配な場合は専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
初回の法律相談が無料の事務所も多いので、まずはお気軽に相談されてみてはいかがでしょうか。